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グッチの父親
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グラン・ボドマーはひたすら待っていた。ボドマーは執事を怒鳴りつける。
「おい、グッチの手紙はきてないか?!」
執事はビクビクとしながら答えた。
「旦那さま、グッチぼっちゃまからの手紙は届いておりません」
ボドマーは大きく舌打ちをした。執事かビクリと身体を震わせる。ボドマーの大切な跡取り息子のグッチの消息がわからなくなって大分経つ。息子のグッチは召喚士養成学校に入学し、召喚士を志したが召喚士になる事はできなかった。グッチはそのまま姿を消してしまったのだ。
ボドマーは心配で仕方なかった。召喚士になれなかったのであれば、家に戻り稼業の金融業の勉強をして欲しかった。だがグッチが家に帰って来る事はなかった。一度ボドマーの元に手紙が届き、冒険者協会あてに金を振り込んで欲しいという事のみ書かれていた。
冒険者協会に金を振り込むと、どこの冒険者協会からも引き出す事ができる。グッチは冒険者になったのだろう。だがグッチからの手紙には、金の受取人の名前はグッチ・ボドマーではなく、ハッソ・ベンスという名義に振り込んでほしいとしたためられていた。偽名を使わなければいけない事からして、グッチが何やらよくない事に足を突っ込んでいる事がうかがわれ、ボドマーは気が気ではなかった。
振り込んだ金は引き下ろされた形跡があった。つまりグッチは生きているという事だ。ボドマーは金と一緒に会いたいという手紙を書いて冒険者協会に送った。ボドマーは一目でも息子に会って、グッチの無事を確かめたかった。だが彼の願いは、最悪の形で叶う事になった。
突然鎧を身につけた戦士風の男がやって来た。物言わぬむくろになった息子を連れて。ボドマーは震える手で冷たくなった息子の頬を撫でた。十八歳になったグッチは、ボドマーの記憶の中の姿より大分成長していた。
ボドマーが最後にグッチに会ったのは、グッチが十五歳の時だった。召喚士養成学校は年に数回長期の休みがあった。入学したてのグッチは、その休みの度に帰って来てくれた。だが十五歳を境に、ボドマーの家に帰って来る事はなくなった。ただ金の無心の手紙だけた届いていた。
ボドマーは怒りに震えながら目の前の戦士に叫んだ。
「貴様、貴様が息子を殺したのか?!」
戦士の男は無表情で、そうだと答えた。ボドマーはわめき散らしながら言った。
「貴様、騎士団に突き出して必ず死刑にしてやるからな!」
だが戦士の男は顔色を変えずにため息をつきながら答えた。
「あのなぁ、なんで俺がお前の息子を殺したのか理由を聞かないのかよ?」
冷静な戦士の言葉に、ボドマーはしばし黙った。戦士は言葉を続ける。
「お前の息子は、俺の弟を殺そうとしたんだよ」
「!。その、お前の弟はどうしたのだ?」
「治療はしたが、まだ目を覚まさねぇよ。もし弟のフィンが死んだら、俺はお前の息子のなきがらをお前の元に連れてこれなかったと思う。だから弟の生死がわかる前に連れて来た。だからって、弟を殺されそうになった恨みでお前の息子を殺したわけじゃないぜ?お前の息子はなぁ、大罪を犯した。魔物と契約したんだ」
ボドマーはギクリと身体を震わせた。魔物との契約。魔法に詳しくないボドマーですら知っている事だった。魔物と契約する事は国の法律でも禁じられている重罪なのだ。そして、魔物と契約した者は必ず死刑になる。何故利発なグッチが、そんなバカげた事をしたのだろうか。ボドマーはグッチのひつぎの側にくずおれてぼう然としていた。戦士は用が済んだと、ボドマーにきびすを返した。だが突然振り向いて言った。
「そいつ、最後に父さん、て言ってたぜ」
戦士はそれだけ言うと去っていった。ボドマーはそこで初めて息子に取りすがって号泣した。
ボドマーは大切な息子のグッチを失い、まったくのぬけがらになっていた。跡取り息子のグッチを失った事を聞きつけた、疎遠だった娘婿がハイエナのようにボドマーにすり寄ってきた。自分をボドマーの後継者にしろというのだ。それでもいいとボドマーは思った。これまで金融の仕事に努力してきたのは、後継者のグッチがいたからこそだった。だがもうその息子はこの世にいない。
ある日グッチの元担任の女教師がたずねて来た。女教師は黒いドレスを着て、神妙にボドマーに喪中の言葉をのべた。
「この度はお預かりした、大切なご子息がこのようになってしまい、大変申し訳ありませんでした」
女教師はボドマーに頭を下げたまま動かなかった。ボドマーは仕方なく頭をあげるように言った。そういえば、この女教師を解雇するよう校長に命じた事を取り下げなければいけないと思った。グッチが召喚士になれなかったと知った時、グッチが可哀想で思わず命じてしまったのだ。だが、この女教師は最初からグッチは召喚士になれないと言っていた。
ボドマーが女教師の言葉に耳を傾けていれば、グッチは死ななかったかもしれない。そう思うと激しい後悔の念にかられた。ボドマーがぼんやりと女教師の話を聞いていると、女教師は自分の肩に乗っているリスにお願いといった。すると、ボドマーの目の前に水の鏡が現れた。水のさざ波が落ち着くと、鏡に何かが映された。ボドマーが目をこらして見つめると、そこには女教師と向かい合って座る幼いグッチの姿が映し出された。女教師は穏やかな声でグッチに聞いた。
「じゃあグッチの尊敬する人って誰なの?」
「俺の尊敬する人は父上だ!俺は立派な召喚士になって、父上の仕事の手助けをするんだ!」
ボドマーは、水鏡の前にひざまづくと、号泣した。女教師が契約霊獣に命じて、過去のグッチの映像を見せてくれたのだ。ボドマーは泣き続けながら心に誓った。グッチが尊敬してくれたボドマーでい続けようと。それが死んでしまったグッチにできる最後のたむけだと思った。
「おい、グッチの手紙はきてないか?!」
執事はビクビクとしながら答えた。
「旦那さま、グッチぼっちゃまからの手紙は届いておりません」
ボドマーは大きく舌打ちをした。執事かビクリと身体を震わせる。ボドマーの大切な跡取り息子のグッチの消息がわからなくなって大分経つ。息子のグッチは召喚士養成学校に入学し、召喚士を志したが召喚士になる事はできなかった。グッチはそのまま姿を消してしまったのだ。
ボドマーは心配で仕方なかった。召喚士になれなかったのであれば、家に戻り稼業の金融業の勉強をして欲しかった。だがグッチが家に帰って来る事はなかった。一度ボドマーの元に手紙が届き、冒険者協会あてに金を振り込んで欲しいという事のみ書かれていた。
冒険者協会に金を振り込むと、どこの冒険者協会からも引き出す事ができる。グッチは冒険者になったのだろう。だがグッチからの手紙には、金の受取人の名前はグッチ・ボドマーではなく、ハッソ・ベンスという名義に振り込んでほしいとしたためられていた。偽名を使わなければいけない事からして、グッチが何やらよくない事に足を突っ込んでいる事がうかがわれ、ボドマーは気が気ではなかった。
振り込んだ金は引き下ろされた形跡があった。つまりグッチは生きているという事だ。ボドマーは金と一緒に会いたいという手紙を書いて冒険者協会に送った。ボドマーは一目でも息子に会って、グッチの無事を確かめたかった。だが彼の願いは、最悪の形で叶う事になった。
突然鎧を身につけた戦士風の男がやって来た。物言わぬむくろになった息子を連れて。ボドマーは震える手で冷たくなった息子の頬を撫でた。十八歳になったグッチは、ボドマーの記憶の中の姿より大分成長していた。
ボドマーが最後にグッチに会ったのは、グッチが十五歳の時だった。召喚士養成学校は年に数回長期の休みがあった。入学したてのグッチは、その休みの度に帰って来てくれた。だが十五歳を境に、ボドマーの家に帰って来る事はなくなった。ただ金の無心の手紙だけた届いていた。
ボドマーは怒りに震えながら目の前の戦士に叫んだ。
「貴様、貴様が息子を殺したのか?!」
戦士の男は無表情で、そうだと答えた。ボドマーはわめき散らしながら言った。
「貴様、騎士団に突き出して必ず死刑にしてやるからな!」
だが戦士の男は顔色を変えずにため息をつきながら答えた。
「あのなぁ、なんで俺がお前の息子を殺したのか理由を聞かないのかよ?」
冷静な戦士の言葉に、ボドマーはしばし黙った。戦士は言葉を続ける。
「お前の息子は、俺の弟を殺そうとしたんだよ」
「!。その、お前の弟はどうしたのだ?」
「治療はしたが、まだ目を覚まさねぇよ。もし弟のフィンが死んだら、俺はお前の息子のなきがらをお前の元に連れてこれなかったと思う。だから弟の生死がわかる前に連れて来た。だからって、弟を殺されそうになった恨みでお前の息子を殺したわけじゃないぜ?お前の息子はなぁ、大罪を犯した。魔物と契約したんだ」
ボドマーはギクリと身体を震わせた。魔物との契約。魔法に詳しくないボドマーですら知っている事だった。魔物と契約する事は国の法律でも禁じられている重罪なのだ。そして、魔物と契約した者は必ず死刑になる。何故利発なグッチが、そんなバカげた事をしたのだろうか。ボドマーはグッチのひつぎの側にくずおれてぼう然としていた。戦士は用が済んだと、ボドマーにきびすを返した。だが突然振り向いて言った。
「そいつ、最後に父さん、て言ってたぜ」
戦士はそれだけ言うと去っていった。ボドマーはそこで初めて息子に取りすがって号泣した。
ボドマーは大切な息子のグッチを失い、まったくのぬけがらになっていた。跡取り息子のグッチを失った事を聞きつけた、疎遠だった娘婿がハイエナのようにボドマーにすり寄ってきた。自分をボドマーの後継者にしろというのだ。それでもいいとボドマーは思った。これまで金融の仕事に努力してきたのは、後継者のグッチがいたからこそだった。だがもうその息子はこの世にいない。
ある日グッチの元担任の女教師がたずねて来た。女教師は黒いドレスを着て、神妙にボドマーに喪中の言葉をのべた。
「この度はお預かりした、大切なご子息がこのようになってしまい、大変申し訳ありませんでした」
女教師はボドマーに頭を下げたまま動かなかった。ボドマーは仕方なく頭をあげるように言った。そういえば、この女教師を解雇するよう校長に命じた事を取り下げなければいけないと思った。グッチが召喚士になれなかったと知った時、グッチが可哀想で思わず命じてしまったのだ。だが、この女教師は最初からグッチは召喚士になれないと言っていた。
ボドマーが女教師の言葉に耳を傾けていれば、グッチは死ななかったかもしれない。そう思うと激しい後悔の念にかられた。ボドマーがぼんやりと女教師の話を聞いていると、女教師は自分の肩に乗っているリスにお願いといった。すると、ボドマーの目の前に水の鏡が現れた。水のさざ波が落ち着くと、鏡に何かが映された。ボドマーが目をこらして見つめると、そこには女教師と向かい合って座る幼いグッチの姿が映し出された。女教師は穏やかな声でグッチに聞いた。
「じゃあグッチの尊敬する人って誰なの?」
「俺の尊敬する人は父上だ!俺は立派な召喚士になって、父上の仕事の手助けをするんだ!」
ボドマーは、水鏡の前にひざまづくと、号泣した。女教師が契約霊獣に命じて、過去のグッチの映像を見せてくれたのだ。ボドマーは泣き続けながら心に誓った。グッチが尊敬してくれたボドマーでい続けようと。それが死んでしまったグッチにできる最後のたむけだと思った。
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