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召喚士エミリヤ

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 エミリヤは孤独な少女だった。エミリヤは幼い頃両親に先立たれ、孤児になった。エミリヤは孤児院に引き取られたが、裕福な老夫婦に見初められ養女になった。

 老夫婦はとてもエミリヤを大切にしてくれた。エミリヤは束の間の間おだやかな幸せを感じる事ができた。だが高齢の養父が亡くなり、養母は幼いエミリヤをおもんばかって、弁護士をたて甥をエミリヤの後見人とし、全ての財産をエミリヤに継がせるように取りはからった。それからしばらくすると養母は安心したように息を引き取った。

 だが老夫婦の甥はよこしまな心の人間だった。弁護士を抱き込み、エミリヤが受け継ぐはずの遺産を全て自分の物にしてしまったのだ。邪魔になったエミリヤは、せめてもの情けと召喚士養成学校に入れられた。学校でかかる費用は全て老夫婦の甥が支払うが、それ以降は何も援助しないという条件つきだった。

 エミリヤは二度の両親との別離により、とても内向的な少女になっていた。いつも静かに一人で勉強をしていた。友達を作る事もできなかった。召喚士養成学校に入ったからといって、全員が召喚士になれるとは限らなかった。召喚士になるには、精霊語霊獣語の語学が堪能な上、何より心の綺麗な者なのだ。エミリヤは召喚士になる自信はなかった。

 だがエミリヤの考えは座学の授業で一変した。エミリヤが何気なく授業を受けていると、教師が言ったのだ。精霊と霊獣は契約者の事が大好きなのだと。精霊と霊獣は、契約者が死ぬまで一緒にいてくれるのだと。その時エミリヤは、心から召喚士になりたいと思ったのだ。

 それからエミリヤは必死になって勉強をした。そしてついに召喚の儀をする時が来たのだ。エミリヤは緊張しすぎて口から心臓が飛び出しそうだった。エミリヤは震える手で魔法陣を描き、魔法陣の中に立つと、消え入りそうな声で召喚の呪文を詠唱した。

 森羅万象の潔きものよ、我が求めにしたがい姿を現したまえ

 すると魔法陣が光り出し、エミリヤの前に小さくて愛らしいシマリスの霊獣が現れた。シマリスのおでこには小さなツノが生えたいた。エミリヤは霊獣の出現に腰が抜けてしまった。シマリスの霊獣はおだやかな声でエミリヤに言った。

『僕を呼んだのは君かい?』

 エミリヤは急いで返答しようとした。これから霊獣と対価の相談をしなければいけないのだ。だがエミリヤは、感極まってわんわん泣き出してしまった。目の前の霊獣は困っているようだ。呆れた声で言った。

『えっと、ここで人間が対価を聞いてくれるんだよね?』

 エミリヤは泣きながらうんうんとうなずいた。おえつがひどくて霊獣に対価を聞くことができなかった。霊獣は仕方ないといった感じで言った。

『じゃあ対価は僕を毎日撫でる事。できる?』

 エミリヤはうんうんうなずいた。霊獣はため息をついて言葉を続ける。

『僕はチップ。君の名前は?』
「ひっく、チップ。ひっく、ひっく、エミリヤァ」
『・・・。わかったエミリヤ。真の名において契約する。エミリヤ、君が死ぬまで僕が守るよ』
「えっぐ、ひっく。チップ、ほんと?嬉しいぃ」
『エミリヤ、ずっと泣いてばかりだなぁ』
「ご、ごめんなさい。私の事嫌いになった?」
『いや、守りがいがあるってもんだよ』

 優しい霊獣のチップに、エミリヤの涙は止まらなかった。チップはエミリヤの肩に乗ると、エミリヤの涙に濡れた頬にすり寄った。そのフワフワの感触に、これからはもう一人じゃないんだと実感できて、エミリヤの泣き声はさらに大きくなった。それは魔法陣の光が消えて、見かねた教師がエミリヤを連れて行くまで続いた。

 こうしてエミリヤは何とか召喚士になる事ができた。エミリヤは契約霊獣のチップと共に王都に行き冒険者協会で手続きをし、冒険者になった。エミリヤはチップと沢山の冒険をした。

 チップは水魔法を使う霊獣で、あまり強い攻撃魔法を使う事はできなかった。だがチップはすごい魔法が使えるのだ。水鏡魔法。チップの作った水鏡は過去も未来も映し出す事ができるのだ。しかしチップが視る事ができる過去や未来はチップに近い関係者に限られていた。

 だがエミリヤはチップの未来を視る魔法で、これから起こる厄介ごとを予測し、対処の方法を考えて行動できるので、おおむね依頼を遂行する事ができた。

 エミリヤはチップと共に五年間冒険者を続けた。だがエミリヤは冒険の中で、その後の人生を変える出会いがあった。
その人は元召喚士の老人だった。彼は若い頃、契約した霊獣と共に冒険の旅をしていたが、やがて悪しき心が芽生えてしまった。その事を憂いた契約霊獣は、若かった老人との契約を解除して姿を消してしまったのだ。そこで彼は初めて大切なものを失った事に気づいたのだ。彼は傷つけてしまった契約霊獣に謝りたく、何度も召喚の儀をしたが、二度と霊獣は現れなかった。老人はエミリヤに切々と訴えた。霊獣を裏切らないようにと。

 エミリヤは老人の言葉を重く受け止め、そして新たな願いが生まれた。召喚士の先生になりたいと。

 

 
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