ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

グッチ

　自分は選ばれた存在なのだ。グッチは物心ついた時から、その気持ちが強かった。何故なら、グッチはとても裕福な家の長男として生まれたのだ。グッチには姉と妹がいた。だがグッチの父親は、グッチをとくに愛した。グッチは父の大切な後継ぎだったからだ。

　グッチはあらゆる贅沢、わがままが父によって許されていた。グッチは小さな王さまだった。それは長じてからも変わらなかった。グッチが学校に入る年齢になった。グッチは将来魔法使いになりたかった。強力な魔法を駆使して敵をけちらす魔法使いに。だがグッチの潜在魔力はわずかなものだった。グッチはわずかな炎を作り出す火魔法しか使えなかったのだ。

　グッチは父に散々わがままがを言った。見かねた父が召喚士養成学校を探してきてくれたのだ。召喚士は、わずかな魔力でも精霊や霊獣と契約して強大な魔力を操る事ができるのだ。グッチの夢はふくらんだ。きっと召喚士になり精霊か霊獣と契約して魔法を使いこなすのだ、と。

　だがグッチの担任になった女教師はとても厳しかった。グッチにことごとく注意をし、叱ったのだ。今まで父親に甘やかされていたグッチは、大人に叱られた経験が初めてだったのだ。だがグッチは反省する事はなく、女教師に恨みを持った。

　グッチの担任教師は、エミリヤという女だ。見た目は少女のようで、とても大人には見えない。そしてグッチがエミリヤを好きになれないもう一つの理由は、彼女の契約霊獣がチンケなリスだからだ。エミリヤはいつも小さなリスを肩に乗せ、しきりに撫でていた。グッチは担任教師に幻滅していた。だからことごとく教師に逆らった。

　グッチの父親は、召喚士養成学校に多額の寄付をしていた。だから召喚士養成学校の校長すらグッチに頭が上がらないのに、エミリヤだけはグッチを叱り続けた。グッチは、召喚士になったあかつきにはまず担任教師のエミリヤを叩きのめしてやろうと心に誓った。

　グッチはクラスメイトでも気に入らない奴がいた。名前はフィン、聞けば孤児なのだそうだ。学校に行く金もないのに召喚士養成学校に入ろうだなんておこがましい限りだ。グッチはクラスメイトである手下の少年たちを使って、フィンを徹底的にいじめた。フィンを学校から追い出そうとしたのだ。だがフィンは、グッチの嫌がらせには見向きもしなかった。ひたすら授業を受け、学校の仕事をこなしていた。

　フィンが気にくわないのは、クラスメイトの人気者リリーがやたらと構う事も原因だ。リリーは美人で誰にでも優しかった。家柄も良く、裕福な家の娘だ。グッチはひそかに、将来自分の花嫁にしようと考えていた。だがグッチがリリーに話しかけても、照れているのか避けられる事が多かった。

　退屈だった五年間の学校生活が終わり、グッチに召喚の儀をする時がきた。グッチの胸は高鳴った。一体どんな精霊か霊獣がグッチの物になるのだろう。グッチが何気なく校庭に目を向けると、大嫌いなフィンが召喚の儀を行なっている最中だった。グッチは思わず吹き出した。何故ならフィンの契約霊獣は、小さな白猫だったのだ。フィンにはお似合いの霊獣に思えた。

　次に愛するリリーが召喚の儀を行なった。周りからどよめきが起こる。リリーは強力な攻撃魔法を操る火の精霊と契約したのだ。リリーは皆から賞賛された。グッチも鼻が高かった、将来の花嫁が誇らしかったからだ。

　いよいよグッチが召喚の儀を行う番になった。グッチは意気揚々と魔法陣を描き、魔法陣の中で呪文を唱えた。だが、フィンやリリーのように魔法陣が輝き出す事はなかった。グッチには信じがたい事だった。自分は選ばれた存在なのだ。自分が精霊や霊獣と契約できないわけがない。グッチは怒りがわいて大きく叫び出した。それは、見かねた男性教師に退場させられるまで続いた。

　グッチは精霊か霊獣と契約できなかった。担任教師のエミリヤに、学校に残るか、精霊語と霊獣語を使う就職先をあっせんするかたずねられた。グッチはエミリヤに怒りが湧いて仕方がなかった。そうだ、すべてこいつが悪い。エミリヤの指導がいたらなかったから、グッチは召喚士になれなかったのだ。グッチは怒りのままに、エミリヤに火魔法の炎を投げつけた。だがエミリヤの肩に乗っていたリスが水防御魔法を発動させて、火魔法を防いでしまった。

　グッチは、騒ぎに駆けつけた教師たちに拘束され、召喚士養成学校を追い出されてしまった。だがグッチは召喚士養成学校などに未練はなかった。グッチは、学校の校庭にツバを吐きながら出て行こうとした。すると、ある男に声をかけられた。フードをまぶかにかぶったうさん臭い男だった。その男はグッチに召喚士になれたのかと質問して来た。グッチは無視をしてすり抜けようとした。だが男がグッチの腕のをつかんで言ったのだ。

「君の語学を生かして霊獣ハンターにならないか？」

　グッチは足を止めて男を振り向いた。フードからわずかに見える男の目はニヤニヤと笑みを浮かべていた。