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フィンの不満
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アレックスはナツメを乾かしてから今度はブランが土魔法で出した大きな鍋でナツメを蒸した。こうするとナツメの実が柔らかくなるのだそうだ。フィンはアレックスのナツメのドライフルーツ作りをジッと見ていた。
ナツメを蒸した後、アレックスは再び布の上にナツメを並べて乾燥させた。これからさらに乾燥させなければいけないのだそうだ。丸二日かけてナツメのドライフルーツはやっと完成した。アレックスはフィンとブランにナツメのドライフルーツを食べさせてくれた。フィンとブランは顔を見合わせて美味しい、と言った。生で食べたナツメの実も甘酸っぱくて美味しかったが、ドライフルーツにした方がもっと甘くなっていた。アレックスは休憩時間になった冒険者たちにもナツメを配っていた。
アレックスはバレットにもナツメを食べさせようとしたが、赤黒くてシワシワの見た目に、バレットはいらないと断っていた。アレックスはバレットの意見は聞かず無理矢理口に放り込んでいた。バレットはみけんにしわを寄せてモゴモゴ口を動かしていたが、やがて美味しいと言って驚いた顔をした。
ナツメを食べた冒険者たちは元気が出たようで、訓練をがんばるようになった。フィンがビックリしていると、アレックスが甘いものは疲れにいいのだと教えてくれた。
ここでのフィンの仕事はもっぱら食事作りと、冒険者が訓練でケガをした時にブランに治癒魔法で治療してもらうくらいの事だ。フィンだって盗賊退治に参加したかった。アレックスも同じ仕事をしているので、フィンは不満げにアレックスにグチを言うが、アレックスはバレットの指示に従うだけだと言って笑っているだけだった。バレットは依頼人のバルディから全指揮を依頼されているのでバレットの言う事が絶対なのだ。
フィンは一人皆から離れて剣の修行をしていた。ここの所バレットは冒険者たちの訓練につきっきりで、フィンの剣の修行を見てくれる事もなかった。だがフィンは、バレットとの約束通り毎日の剣の練習はかかさなかった。
「よぉ、大分さまになったじゃねぇか」
後ろから突然声をかけられてフィンが振り向くと、そこにはバレットが立っていた。おそらく訓練の休憩時間なのだろう。フィンは、せっかくバレットが来てくれたのに、ここ最近の不満がつのってふてくされた。それに気づいたのだろう、バレットは優しくフィンに声をかけた。
「どうしたフィン。機嫌が悪そうだな」
「・・・、どうして僕とアレックスは盗賊退治の訓練をさせてくれないの?」
フィンの言葉にバレットは苦笑しながら答えた。
「フィンとアレックスとブランには、別の重要な仕事があるんだ」
フィンはバレットを見上げ、バレットの話の続きを待つ。バレットは言葉を続けた。
「盗賊団の屋敷の横に大きな宝物庫があっただろ?フィンたちにはそれを守ってほしい。冒険者の奴らにやらせたら、奴ら絶対くすねるだろうからな。フィン、これは重要な仕事だぞ?」
フィンは黙ってうなずいた。バレットは微笑んで言った。
「なんだフィン、不満なのはそれだけじゃないようだな?」
フィンはむっつりしながらバレットに抱きついて言った。
「冒険者の皆はバレットの事ヒドイ奴だって言う。バレットは皆を死なせないようにがんばっているのに。バレットは僕の兄さんなんだ、バカにされて悔しい」
フィンはもう一つ不満な事があった。それは冒険者たちがバレットをののしる事だ。バレットはフィンの頭を優しく撫でながら言った。
「ありがとうなフィン。フィンにそう思ってもらえるだけで充分だ。あのバカ共に好意を持たれても気色悪いだけだからな。それに、アイツらに俺が嫌われるように仕向けているのはワザとなんだ」
フィンは何故バレットがワザと冒険者たちに嫌われようとしているのか理由がわからなかった。バレットは、フィンが疑問を抱いている事がわかったようで、笑って答えた。
「俺が奴らを怒鳴りちらすと、アレックスが間に入ってくれるだろ?奴らはアレックスに好意を抱いて、アレックスの提案には耳をかたむけてくれるんだ。その方があのバカ共がまとまるからな」
バレットはアレックスの事を信頼しているようだ。アレックスもバレットの事をよく理解しているように見える。二人にはフィンには入り込めないような強い信頼関係がある。フィンはそんな二人を見て、少し寂しさを感じた。バレットはフィンに言い聞かせるように言った。
「フィン、お前とブランはアレックスと一緒にいろ。アレックスは信頼できる奴だからな」
「うん。アレックスは僕とブランにとっても優しいんだ」
「ああ、そうだろうな。アレックスは子供と動物が好きだからな。フィンとブランの事が可愛いんだ」
バレットの言葉にフィンはうなずいた。アレックスはどうやらバレットの事も可愛いと思っているようだ。アレックスはバレットにとても口うるさい。食事をキチンと食べろだとか、眠るならベッドで寝ろだとか。アレックスのバレットに対するそれは子供にする態度だ。にわかには信じがたい事だが、バレットにも可愛い子供時代があったのかもしれない。
ナツメを蒸した後、アレックスは再び布の上にナツメを並べて乾燥させた。これからさらに乾燥させなければいけないのだそうだ。丸二日かけてナツメのドライフルーツはやっと完成した。アレックスはフィンとブランにナツメのドライフルーツを食べさせてくれた。フィンとブランは顔を見合わせて美味しい、と言った。生で食べたナツメの実も甘酸っぱくて美味しかったが、ドライフルーツにした方がもっと甘くなっていた。アレックスは休憩時間になった冒険者たちにもナツメを配っていた。
アレックスはバレットにもナツメを食べさせようとしたが、赤黒くてシワシワの見た目に、バレットはいらないと断っていた。アレックスはバレットの意見は聞かず無理矢理口に放り込んでいた。バレットはみけんにしわを寄せてモゴモゴ口を動かしていたが、やがて美味しいと言って驚いた顔をした。
ナツメを食べた冒険者たちは元気が出たようで、訓練をがんばるようになった。フィンがビックリしていると、アレックスが甘いものは疲れにいいのだと教えてくれた。
ここでのフィンの仕事はもっぱら食事作りと、冒険者が訓練でケガをした時にブランに治癒魔法で治療してもらうくらいの事だ。フィンだって盗賊退治に参加したかった。アレックスも同じ仕事をしているので、フィンは不満げにアレックスにグチを言うが、アレックスはバレットの指示に従うだけだと言って笑っているだけだった。バレットは依頼人のバルディから全指揮を依頼されているのでバレットの言う事が絶対なのだ。
フィンは一人皆から離れて剣の修行をしていた。ここの所バレットは冒険者たちの訓練につきっきりで、フィンの剣の修行を見てくれる事もなかった。だがフィンは、バレットとの約束通り毎日の剣の練習はかかさなかった。
「よぉ、大分さまになったじゃねぇか」
後ろから突然声をかけられてフィンが振り向くと、そこにはバレットが立っていた。おそらく訓練の休憩時間なのだろう。フィンは、せっかくバレットが来てくれたのに、ここ最近の不満がつのってふてくされた。それに気づいたのだろう、バレットは優しくフィンに声をかけた。
「どうしたフィン。機嫌が悪そうだな」
「・・・、どうして僕とアレックスは盗賊退治の訓練をさせてくれないの?」
フィンの言葉にバレットは苦笑しながら答えた。
「フィンとアレックスとブランには、別の重要な仕事があるんだ」
フィンはバレットを見上げ、バレットの話の続きを待つ。バレットは言葉を続けた。
「盗賊団の屋敷の横に大きな宝物庫があっただろ?フィンたちにはそれを守ってほしい。冒険者の奴らにやらせたら、奴ら絶対くすねるだろうからな。フィン、これは重要な仕事だぞ?」
フィンは黙ってうなずいた。バレットは微笑んで言った。
「なんだフィン、不満なのはそれだけじゃないようだな?」
フィンはむっつりしながらバレットに抱きついて言った。
「冒険者の皆はバレットの事ヒドイ奴だって言う。バレットは皆を死なせないようにがんばっているのに。バレットは僕の兄さんなんだ、バカにされて悔しい」
フィンはもう一つ不満な事があった。それは冒険者たちがバレットをののしる事だ。バレットはフィンの頭を優しく撫でながら言った。
「ありがとうなフィン。フィンにそう思ってもらえるだけで充分だ。あのバカ共に好意を持たれても気色悪いだけだからな。それに、アイツらに俺が嫌われるように仕向けているのはワザとなんだ」
フィンは何故バレットがワザと冒険者たちに嫌われようとしているのか理由がわからなかった。バレットは、フィンが疑問を抱いている事がわかったようで、笑って答えた。
「俺が奴らを怒鳴りちらすと、アレックスが間に入ってくれるだろ?奴らはアレックスに好意を抱いて、アレックスの提案には耳をかたむけてくれるんだ。その方があのバカ共がまとまるからな」
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「ああ、そうだろうな。アレックスは子供と動物が好きだからな。フィンとブランの事が可愛いんだ」
バレットの言葉にフィンはうなずいた。アレックスはどうやらバレットの事も可愛いと思っているようだ。アレックスはバレットにとても口うるさい。食事をキチンと食べろだとか、眠るならベッドで寝ろだとか。アレックスのバレットに対するそれは子供にする態度だ。にわかには信じがたい事だが、バレットにも可愛い子供時代があったのかもしれない。
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