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バレットの仲間

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 バルディは部下の戦士にうながされ、小走りでその場に向かった。予定ではバレットが言う事を聞かなかった場合、バレットの仲間であるヒーラーの大男と、召喚士の小僧を捕らえるように指示しておいたのだ。

 森の中でバルディは驚きの声をあげた。バレットの仲間を捕らえるため向かわせた五人の部下は、皆腕に覚えのある戦士たちだ。だがその戦士の二人が大男の側に倒れていた。そして小さな小僧の側から巨大な植物のツタが伸びていて、そのツタの上の方に三人の部下がからめとられていて、恐怖の叫び声をあげていたのだ。おそらくこのツタは魔法で、魔法の発動者は、小僧の肩に乗っている小さな白猫だろう。バルディがあまりの光景に言葉が出ないでいると、後ろをついて来たバレットがニヤニヤ顔で言った。

「俺の仲間は俺よりは弱いけどな、だけどオッサンたちよりかははるかに強いぜ?」

 バルディは力なくその場に座り込んだ。


 バレットは嬉しい気持ちで仲間のアレックスとフィン、ブランを見た。バルディにアレックスたちから離された時にはすでにこうなる事はわかっていた。おそらくバルディは元騎士団長の権力を利用して、死んでもいいならず者の冒険者と、勇者レオリオの後継者と呼ばれているバレットを呼びよせたのだろう。そして自分が王になるための軍団を作ろうとしたのだろう。

 アレックスの側に倒れている二人の戦士たちは、アレックスの剣にみね打ちで倒されているのだろう。アレックスは剣の達人だ、だが気持ちが優しいため人の命を奪う事ができないのだ。バレットは、そんなアレックスが好ましいという思いと同時に、彼がその優しさゆえに命を落としてしまうのではないかと心配なのだ。

 バレットの姿に気づいたフィンが、ブランと近寄ってきて言った。

「バレット、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。すまないフィン、この依頼は受けない事にしたんだ」

 バレットの言葉にフィンは首をかしげた。バレットは、後から近づいてきたアレックスにも視線を向けながら言った。

「このバルディってオッサンは、オーバン国王に反旗をひる返すためのきっかけで、盗賊団せん滅の依頼をしたんだ。下手をするとまた内戦になっちまう」

 バレットはよく状況が飲み込めないアレックスたちにかいつまんでそれまでの説明をした。それまで黙ってバレットの話を聞いていたアレックスが言った。

「うん、また内戦が起こるのは困るな。だがギィス盗賊団にザーバの街の人たちは困っているんだ。それに盗賊団せん滅のために集まっている冒険者たちも、ここで稼がないと生活に困きゅうしてしまう奴らがほとんどだ。なぁバレット、内戦にならないようにギィス盗賊団を倒す事はできないか?」

 アレックスの問いにバレットは怒りながら答えた。

「はぁぁ?!そんな事したらバルディのオッサンの思うツボだろう!」
「そこを何とかさぁ」

 バレットは黙ってしまった。バレットはアレックスのお願いに弱い。アレックスは自分のためではなく人のために行動する男なのだ。だからバレットはアレックスの願いは何とか叶えてやりたいと思ってしまうのだ。バレットはあまり上等ではない頭をフル回転させる。寄せ集めのバカどもしかいない即席パーティ。依頼人は国王にむほんを企てる危険な男。バレットたちが勝機をつかむには、圧倒的に情報が足らない。バレットはブツブツと思案していると、無邪気なフィンがアレックスに質問していた。

「ねぇアレックス。トントたちは冒険者なのに何で悪い事をしてしまったの?僕、冒険者はもっと立派な人たちだと思っていたよ」
「それはなフィン。フィンやバレットは言わば一流の冒険者なんだ」
「僕たちとバレットが一流の冒険者?」
「ああ、バレットは剣も魔法も使える強い冒険者だし、フィンは霊獣ブランと契約して強力な魔法を使う事ができるだろ?お前たちならどんな依頼だってやりとげる事ができるだろう。だがな、」

 アレックスはそこで言葉を切って、フィンを慈愛の目で見つめた。バレットはふと思った、アレックスとフィンは髪の色もブラウンで、瞳もブラウンだ。むしろバレットとフィンが兄弟というよりも、アレックスとフィンの方が兄弟といった方がしっくりくる。バレットは少し淋しい気持ちになりながら、アレックスとフィンの会話を聞いていた。アレックスが言葉を続ける。

「俺たち三流冒険者は、中々依頼を完了させる事ができないんだ。だから悪い依頼主だと旅費や雑費ももらえなくて、どんどん貧乏になってしまう冒険者もいる。だから、金持ちの人間を見ると悪い考えが浮かんでしまう事もあるんだろうな」

 それまで静かにアレックスの話を聞いていたフィンがキツイ声で言った。

「アレックスは三流冒険者なんかじゃないよ!アレックスは強くて優しくて立派な冒険者だよ!」

 アレックスは目を細めてフィンの頭をなでて、ありがとうなと言った。フィンは嬉しそうに笑った。バレットはある事を思い出した。バレットはアレックスと出会った頃、アレックスの事が怖かった。それは条件反射のようなもので、アレックスが優しい人間だとわかっているのに、バレットはアレックスが近寄ったり、触れようとすると身体をこわばらせてしまったのだ。優しいアレックスは、バレットが自分を怖がっている事にきっと気づいていたのだろう。養父のゾラは小男の老人だったし、レオリオは中肉中背だったのですぐに慣れる事ができたのだ。だがアレックスはとても大男で、どうしても幼い頃、孤児院で受けた大人たちの暴力を思い起こしてしまったのだ。

 バレットがようやくアレックスに慣れた頃、アレックスがバレットの頭を撫でてくれようとしたが、何故かどうにも恥ずかしくて嫌がってしまった。アレックスの苦笑した顔が思い出されて仕方なかった。

 バレットは長い長考の末、叫んだ。

「よし!盗賊団をぶっ潰してやる!」

 



 
 
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