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バレットの本心

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 アレックスは心から安どの声を出した。

「バレット、良かった。気がついたんだな」

 バレットは大きな瞳をさらに大きく開いて、驚きの表情を浮かべた。そして顔をゆがめて泣きそうな声で叫ぶように言った。

「何で、何でほうっておいてくれなかったんだよ?!やっと、やっとじいちゃんの所に行けるはずだったのに」

 アレックスはがく然とした。やはりバレットは死にたがっていたのだ。アレックスは急に、腹の底から火が出るような怒りが湧いてきた。バレットの養父ゾラはどんな思いでバレットの命を助けたと思っているのか。レオリオとシンシアだってそうだ。自分の命を犠牲にしてバレットの命を助けたのだ。それは彼らが、バレットの事を心から愛していた事に他ならない。それなのに、バレットは早く死にたいと言っているのだ。アレックスは怒りのままに、バレットを殴ってやろうと思った。こぶしを固めて振り上げようとした。だが実際には、バレットを強く抱きしめていた。バレットはアレックスの腕から逃げようもがくが、ケガをしたために身体がいう事を聞かないようだ。アレックスは怒りのままに叫んだ。

「おい!甘ったれてんじゃねぇぞクソガキ!お前のじいちゃんはお前が死んで喜ぶのかよ?!レオリオとシンシアはバレットが早く死んで嬉しいと思うかよ!?なぁ!言ってみろよ!」

 バレットは目に涙をためて強くかぶりを振って言った。

「違う!違う!じいちゃんたちがそんな事思うわけないだろ!」

 アレックスは怒りがおさまらず、思わずそれまで誰にも言った事のない事を口ばしっていた。

「俺だって、俺だってなぁ、自分の命より大切な人がいたんだよ!その人が助かるなら俺の命を渡したっていいくらいだったよ!だけどその人は死んでしまった。その人は最後に俺に言ったんだ、貴方は生きてって。俺はその人の後を追いたかった。だけどできなかった。弟だっているし、それにその人と約束したんだ。必ず生き続けるって!」

 バレットはアレックスの言葉を黙って聞いていた。アレックスが話し終わると、バレットは顔をクシャクシャにして小さな子供のように泣き出した。

「俺だって、俺だって、わかってるよ。そんな事!だけど、だけど、もう一人は嫌なんだよぉ。じいちゃん、レオリオ、シンシア会いたいよぉ」

 バレットはそうしぼり出すように言うと、わんわんと泣き続けた。アレックスはただジッとバレットを抱きしめていた。それは、バレットが泣き疲れて眠るまで続いた。

 バレットの先ほどの言葉はきっと本心なのだろう。バレットだとて養父のゾラやレオリオ、シンシアが命をかけて救ってくれた事をわかっているのだ。だがそれを持ってしても、バレットは辛くて寂しくて仕方がないのだろう。だからレオリオの意思を継いで、勇者らしくアレックスをかばって死にたかったのだ。だがアレックスには、確信に近い直感があった。バレットを死なせてはいけない。バレットがゾラとレオリオ、シンシアの愛情を本当の意味で理解するまでは。アレックスはバレットを見守りたいと思った。ゾラたちがバレットにかけた愛情をしっかりと受け止めて、そしてバレットが誰かを本当に愛する事ができるまで。

 だがアレックスとバレットの関係は、新人冒険者と指導官だ。しばらくすれば会う事もなくなるだろう。その前に、何かバレットにしてやれる事はないだろうか。アレックスはぼんやりと考えをめぐらせた。

 アレックスはそこでこの場の現状に思いいたった。バレットは泣き疲れて寝てしまい、子供が二人ぐるぐる巻きにされて倒れている。ずっとこのままでいるわけにはいかない。アレックスは、リュックサックを前側に背負って、毛布でバレットを包んで背中に背負った。そして、山賊姉弟を小脇に抱えた。

 バレットが助かった今、アレックスは山賊姉弟への怒りが消えてしまった。ただこの姉弟が不びんでならなかった。この憐れな山賊姉弟を、このまま逃してしまおうかとも考えた。だがこの姉弟は、優しい青年ソールのかたきなのだ。ソールの家族はきっと犯人の山賊に会いたいだろう。怨みの言葉をぶつけるために。アレックスは依頼させた側だ。捕らえた山賊姉弟を依頼主がどうしようと、アレックスには関係ない事なのだ。アレックスは、重い足取りで山をおりて行った。

 

 



 
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