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アレックスとバレット

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 アレックスはバレットの実力を目の当たりにして、子供だと思って軽んじるのをやめた。素直にバレットに指導を請うた。バレットはびっくりした顔をしてから、ふてくされたような顔になって、仕方ねぇなぁ、と言ってしょうだくしてくれた。

 その日は野宿をする事になった。バレットは手慣れたように枯れ木を集め、火魔法で焚き火をした。アレックスは城下町で沢山の食料をリュックサックにつめていた。そこでバレットに夕食をとろうと提案した。バレットはコクリとうなずくと、両手を地面につけた。バレットの手が光ると、地面からニョキニョキと野菜が生えてきた。バレットは土魔法で作ったにんじんを掘り出すと、アレックスに手渡した。アレックスが不思議そうに受け取ると、バレットはまたにんじんを掘り出して、服のすそで泥を落とすとそのままバリバリとかじり出した。アレックスはびっくりしすぎて、ワァッと大声を出してしまった。アレックスの大声に、バレットはビクリと身体を震わせる。アレックスは頭をかきながらバレットに言った。

「いや、大声出して悪かった。にんじんは火を通した方がいいんじゃないか?」

 バレットは、アレックスの言葉にキョトンとした顔をした。アレックスはバレットに、いつもこんな食事をしているのかと聞くと、バレットはまたコクリとうなずいた。アレックスはため息をついてから、リュックサックからナベとまな板、包丁を取り出した。そしてバレットが土魔法で出したにんじん、カブ、ジャガイモを水魔法で綺麗に洗い、それを包丁で一口大に切っていく。バレットはアレックスがやっている事を興味深げに見つめていた。アレックスはナベに水魔法で水を入れ、湯をわかし、野菜を入れた。野菜が煮えると市場で買った干し肉をちぎって入れ、塩とコショウで味付けした。リュックサックから器とスプーンを出し、バレットによそってやった。

「熱いから気をつけろよ?」

 バレットは器を手に持って、ゆっくりスプーンで口に入れた。バレットは呟くように言った。

「じいちゃんが作ってくれた料理だ」

 バレットはそれだけ言うともくもくとスープを食べ続けた。

 それ以来、アレックスは依頼のあった街へ向かう道すがら、バレットに剣の指導を受けた。バレットはぶっきらぼうだが真剣に教えてくれた。アレックスは、バレットと共に行動をして気づく事があった。一つは、バレットはすごく食が細いのだ。バレットは育ち盛りのはずなのに、アレックスが作った食事をいくらすすめても少ししか食べないのだ。もう一つは、バレットの睡眠がとても浅い。バレットは焚き火の前に座って、短い仮眠しか取らないのだ。アレックスは見張りを変わるからちゃんと睡眠を取れというが、バレットは言う事を聞かなかった。だが少年のバレットが長期間睡眠を取らないでいられるわけがない。ある夜、バレットはバタリと焚き火の前に倒れてしまった。アレックスが驚いてバレットに近づくと、バレットはスースーと寝息を立てて眠っていた。アレックスはホッと息をはいた。アレックスはリュックサックから毛布を取り出すと、バレットにかけてやった。

 しばらくして、林の奥からザワザワと何かが近づく音がした。アレックスはバレットを守りながら、林の奥に注意を払った。林の奥から、大きな黒ヒョウが現れた。アレックスは腰の剣を抜き構えた。野生動物ならば火を怖がるはずなのに、この黒ヒョウはのっそりとアレックスたちの前にやってきた。そこでアレックスはある事に気がついた。この黒ヒョウはただの黒ヒョウではない、背中にはカラスのような黒い翼が生えていた。黒ヒョウの霊獣だ。アレックスはこの時初めて霊獣というものを見た。黒ヒョウの霊獣は艶やかな漆黒の毛におおわれていて、ため息が出るような美しさだった。アレックスがしばらくぼう然と見とれていると、黒ヒョウがバレットを見た。そこでアレックスはハッとした。勇者レオリオのパーティには、召喚士ゾラがいた。ゾラの召喚霊獣が黒ヒョウだった。アレックスはおだやかな声で黒ヒョウに話しかけた。

「お前がバレットを守ってくれているんだな、ありがとう」

 アレックスはそう言うと、剣をサヤにおさめ、バレットから距離を取った。黒ヒョウはゆっくりとバレットの側まで来ると、バレットをわが子のように愛おしげに抱きこんで目を閉じた。アレックスはその光景を見て、嬉しい気持ちでいっぱいになった。バレットは一人ではなかったのだ。アレックスは眠気がおとずれるまで、黒ヒョウと幸せそうに眠るバレットを見つめていた。
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