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ブランの気持ち

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 ブランはお店の屋根を走り続けた。ブランはフィンと契約してから、フィンがどこにいるのかすぐにわかるようになったのだ。フィンはブランに着いてこないでと言っていたが、ブランはフィンに会いたくて仕方なかった。

 ブランは、フィンが召喚士になってブランと契約すれば、フィンはブランの事を好きになってくれて、ずっと一緒に暮らせるのだと思っていた。フィンがブラン以外の女を好きになるなんて考えもしなかった。フィンに想いを寄せているリリーはとても心が綺麗で優しい少女だ。フィンはいずれリリーを好きになってしまうのではないだろうか?ブランは胸がギュッと締め付けられるように苦しくなった。

 ブランは走って走ってようやくフィンの姿を見つけた。フィンはお店の店頭で何かを吟味していた。ブランは嬉しくなってフィンに駆けよろうとした。だがそこでブランはハタと動きを止めた。フィンが何を真剣に見ているのかに気づいたのだ。フィンは宝飾店でアクセサリーを選んでいたのだ。ブランは猫だからアクセサリーなんて必要ない。きっとリリーのためのアクセサリーだ。フィンはリリーが好きになったのだ。ブランは自分が泣いている事に遅れて気がついた。ブランのオッドアイの瞳からボロボロと涙が溢れてきた。もしフィンがリリーを好きになって結婚してしまったらどうしよう。ブランはこのままずっとフィンの契約霊獣でいられるのだろうか。

 フィンとリリーが仲睦まじくしているのを、ブランは冷静に見ていられるのだろうか。いや、きっとできない。ならばいっその事フィンの契約霊獣をやめてしまおうか。フィンは心の綺麗な人間だ。ブランが契約を解除しても、きっと新たな霊獣や精霊と契約する事ができるだろう。そうだ、そうしよう。リリーは謝ってくれたけれど、彼女の言う事は正しかったのだ。霊獣が人間に恋するなんておかしい事なのだ。

 ブランは涙を流しながら、嬉しそうにアクセサリーを選んでいるフィンを見つめていた。そしてフィンは気にいるものが見つかったのか、店主に代金を払っていた。ブランは覚悟を決めて屋根から降りると、クルンと一回転して人間の姿になった。そしてフィンに声をかけた。フィンは振り向くと驚いた顔をしてから微笑んで言った。

「あれ、ブラン来ちゃったの?」

 驚いているフィンにブランは笑顔で聞いた。

「フィン、何を買ってたの?」

 フィンは照れ臭そうに頭をかいてから、ポケットに入れていた購入品をブランの目の前に出した。それは油紙に包まれていた。フィンはブランに手を出すようにうながした。ブランは驚いてフィンを見つめた。これはリリーの物ではないのだろうか?ブランが手を出さずに固まっていると、フィンは自分で油紙を開き中身をブランに見せた。

 それは小さなペンダントだった。真ん中に金色のトパーズが輝いていて、周りに小さなブルートパーズがちりばめられていた。まるでかれんな花のようだった。ブランは状況が飲み込めずポカンとした顔をしていた。そんなブランにちっとも気づかずフィンは照れ臭そうに言った。

「フレイヤにアドバイスをもらったんだ。アクセサリーを贈るには、贈る人の瞳の色を参考にしたらいいって。だからこのペンダントを見た時にこれだ、って思ったんだ」

 リリーの瞳は黒だ。このペンダントの宝石は金色とブルー。ブランの瞳と同じ色。ブランは冷え切った両手をギュッと握りしめてから、震える声で言った。

「フィン、これアタシに?」
「うん。ブラン、気に入ってもらえるかな?このペンダント魔法具なんだ。お店の人に、贈る人は人間になったり猫になったり、虎くらいに大きくなったりするって言ったらチェーンも魔法具にしてくれたんだ。だからブランが人間に変身しても大きくなっても丁度いい大きさになってくれるんだ。あれ、ブラン?」

 ブランはフィンの言葉を聞いて、嬉しさと安心感でワンワン泣きだしてしまった。フィンはブランが急に泣きだした事に驚いて、選んだペンダントが気に入らなかったと思ったようだ。フィンはオタオタしながら言った。

「ごめん、ブラン。気に入らなかった?フレイヤにも言われたんだ。ブランと一緒に選んだ方がいいって。だけど僕、ブランをびっくりさせたくて・・・」

 ブランは泣きじゃくりながら答えた。

「ちが、違うのさ。アタシとっても嬉しいんだわよ。フィンから贈り物もらえるなんて思ってなかったから。フィンがくれる物ならたとえゴミだって嬉しいんだわよ」
「えっ?!大切なブランにゴミなんか渡さないよ」

 ブランとフィンが城下町の道の真ん中で騒いでいると、人々が集まって人がきができてしまった。その人がきをかき分けてブランたちに近寄る人たちがいた。ブランが振り向くと、リリーとフレイヤだった。フレイヤはブランたちにぼやくように言った、場所を変えましょうと。

 ブランたちは人がきをかき分けて、人の迷惑にならないように店と店の間の小道に入った。フィンはフレイヤにペンダントを見せて言った。

「フレイヤ、お願いできるかい?」
『ええ、勿論よ』

 フレイヤはフィンからペンダントを受け取ると炎魔法を発動した。そういえばフィンは、このペンダントが魔法具だと言っていた。魔法具とは、魔法具職人が作った魔法を入れる容器だ。腕のいい魔法具職人が作った魔法具には強力な魔法を注入する事ができる。フレイヤは魔法を注入し終わると、ペンダントをフィンに渡した。フィンはフレイヤに礼を言って、ブランに向き直って言った。

「ブラン。もし君がこの間みたいに拘束魔法具をつけられてしまったら、その時は僕が絶対に助ける。だけどもしも僕が負けてしまったら、ブラン君はこの魔法具のペンダントで自分の身を守るんだ」

 フィンはそう言うと、ブランの細い首すじに小さなペンダントをつけてくれた。ブランははにかみながらフィンに聞いた。

「フィン、似合う?」
「ああよく似合ってる」

 ブランは嬉しくなってフィンに抱きついた。フィンもブランを抱きしめて、ブランの髪を優しく撫でてくれた。フィンはブランの事を愛してくれている事は知っている。だけど恋愛的な感情では無い、だが今はそれでもいいとブランは思った。

 
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