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リリーVSブラン
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リリーたちは乗合馬車を降りて歩いて山に入った。ここからは徒歩で山を二つ越えなければいけない。リリーはお嬢さま育ちなので山歩きに苦戦した。だが嬉しい事に、フィンが手をつないで一緒に山を登ってくれたのだ。リリーは嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が真っ赤になってしまった。リリーが乗合馬車に乗っている時は姿を消していた火の精霊のフレイヤは、そんなリリーを見てずっとニヤニヤしていた。リリーがフィンの事を好いているのをフレイヤには知られているのだ。
リリーがフィンに手をひかれて、慣れない山道を歩いていると、それまでフィンの足元をチョコチョコ歩いていた白猫のブランが一回転して人間の美少女になった。美少女のブランはフィンにしなだれかかると、リリーの手をつないでいないフィンの反対の手を握った。そしてまさに猫撫で声でフィンに言ったのだ。
「ねぇフィン、アタシも疲れたぁ。ひっぱってぇ」
フィンは少し困った顔をしてからブランに言った。
「ブラン、疲れたなら猫に戻って?僕のふところの中に入れば歩かなくてすむよ?」
フィンの提案にブランは嫌な顔をした。そしてフィンの提案には答えないで、フィンの手をつないだまま歩き出した。フィンはため息をつきつつ、リリーとブランの手をつないで山を歩いてくれた。
辺りが暗くなり始め、リリーたちは野宿の準備を始めた。枯れ木を集め、フレイヤに魔法で火をつけてもらった。フィンはブランに頼んで、土魔法でニンジンやジャガイモ、カボチャを作ってもらっていた。ブランは人間の姿では土魔法が使えないようで、植物魔法を使う際は元の白猫に戻っていた。ブランが山を登る時に人間になったのは、明らかにリリーへの当てつけだ。
フィンは手慣れた手つきでナイフで野菜を切っていった。そして驚いた事に、フィンのリュックサックからナベやまな板、調味料、大きな水筒がどんどん出てきた。リリーが驚いて、何で小さなリュックサックにこんなに沢山の物が入っていたのか聞いた。フィンは得意そうに教えてくれた。
「これは僕の指導官になってくれた人がリュックサックに魔法をかけてくれたんだ。どんな物でも入っちゃうんだよ」
どうやらフィンは良い指導官に巡り会えたようだ。フィンは野菜スープを煮ている間、リリーに自身の土魔法を披露してくれた。フィンの手が光り輝くと、その手にはナイフが握られていた。鉄製のナイフだ。フィンは得意そうに言った。
「ブランと契約してから僕の土魔法が向上したんだ。それまで石ころか矢じりしか作れなかったからね」
リリーはフィンからナイフを受け取り、しげしげと眺めた。そしてある事に気がついた。フィンが魔法で作ったナイフには刃が無かったのだ、これでは物を切る事ができない。リリーがその事をたずねると、フィンではなくブランが答えた。
『ナイフに刃がついてないのはフィンの優しさだわよ。リリーがケガしないようにしてんの』
リリーはフィンの優しさに感動したが、同時に刃のついていないナイフでは意味がないのではないかと新たな疑問がわいた。今度はフィンがリリーに質問した。リリーの手荷物が少ないからだ。リリーは冒険者なのに持ち物は小さなポシェットしか持っていなかった。中身はハンカチにリップクリームとハンドクリームだ。リリーがその事を伝えると、フィンはたいそう驚いてたずねた。
「じゃあリリーは野宿する時はどうするの?」
リリーはあっけらかんと答えた。
「私の荷物は、フレイヤが隠しの魔法で隠してくれているの。だから、フレイヤ。紅茶を出してもらってもいい?」
リリーは口で説明するより見てもらった方が早いと思い、フレイヤにお願いした。フレイヤは心得たようにうなずく。するとリリーの手におぼんが出現した。その上には紅茶の缶、ティーカップ、ソーサー、ティースプン。紅茶のポットが乗っていた。そのありさまをフィンは驚いた顔で見ていた。リリーは冒険に行くにも何も持たなくて良かった。心配した父親に、シュラフ、テント、毛布、衣類、ナベ、ナイフ、食器、食材にいたるまで全て用意してもらった。その膨大な荷物をフレイヤは隠しの魔法で保管してくれているのだ。そのためリリーが望めばすぐに出してくれるのだ。リリーの説明に、フィンは感心したように相づちを打った。
フィンの作ってくれたスープを食べ、リリーの紅茶を飲み終わってひと心地つくと、フィンは模擬刀を持って剣の稽古を始めた。これはフィンの毎日の日課なのだそうだ。リリーも模擬刀を持たせてもらったが、とても重くてリリーは持ち上げる事さえ出来なかった。一心不乱に剣を振り下ろしているフィンを、霊獣のブランはうっとりした顔で見つめていた。ブランはリリーに、フィンは自分のために剣を練習しているのだと自慢げに言っていた。
リリーはフィンの契約霊獣とわずかな時間触れ合って確信した事があった。ブランはフィンを心から愛している。それもリリーと同じ感情だという事に。リリーがブランに、霊獣が人間に恋するなんておかしいと言ってしまった時、ブランは泣き出しそうな顔をしていた。リリーはブランを傷つけてしまったと思った。リリーはブランに謝らなければと思ったが、どうきり出してよいのか言葉の糸口を見つけられないでいた。
フィンの剣の稽古も終わり、休む事になった。フィンはリュックサックから毛布を取り出して包まった。ブランはフィンのとなりで丸くなる。フレイヤはリリーのためにシュラフを出してくれた。リリーは生まれて初めて外で寝るのだ、父親か用意してくれたシュラフは案外暖かかった。リリーの枕元にはフレイヤが座って微笑んでいた。フレイヤがリリーに聞いた。
『リリー、寒くはない?』
「ええ大丈夫よ」
『よかった。安心して眠りなさい、何かあったら私が守ってあげる』
「ありがとうフレイヤおやすみなさい」
リリーはフレイヤにお休みのあいさつをしてから夜空を見上げた。そこには一面の星空が輝いていた。リリーはあまりの美しさに息を飲んだ。リリーはこの夜空をきっと忘れる事はないだろうと思った。
リリーがフィンに手をひかれて、慣れない山道を歩いていると、それまでフィンの足元をチョコチョコ歩いていた白猫のブランが一回転して人間の美少女になった。美少女のブランはフィンにしなだれかかると、リリーの手をつないでいないフィンの反対の手を握った。そしてまさに猫撫で声でフィンに言ったのだ。
「ねぇフィン、アタシも疲れたぁ。ひっぱってぇ」
フィンは少し困った顔をしてからブランに言った。
「ブラン、疲れたなら猫に戻って?僕のふところの中に入れば歩かなくてすむよ?」
フィンの提案にブランは嫌な顔をした。そしてフィンの提案には答えないで、フィンの手をつないだまま歩き出した。フィンはため息をつきつつ、リリーとブランの手をつないで山を歩いてくれた。
辺りが暗くなり始め、リリーたちは野宿の準備を始めた。枯れ木を集め、フレイヤに魔法で火をつけてもらった。フィンはブランに頼んで、土魔法でニンジンやジャガイモ、カボチャを作ってもらっていた。ブランは人間の姿では土魔法が使えないようで、植物魔法を使う際は元の白猫に戻っていた。ブランが山を登る時に人間になったのは、明らかにリリーへの当てつけだ。
フィンは手慣れた手つきでナイフで野菜を切っていった。そして驚いた事に、フィンのリュックサックからナベやまな板、調味料、大きな水筒がどんどん出てきた。リリーが驚いて、何で小さなリュックサックにこんなに沢山の物が入っていたのか聞いた。フィンは得意そうに教えてくれた。
「これは僕の指導官になってくれた人がリュックサックに魔法をかけてくれたんだ。どんな物でも入っちゃうんだよ」
どうやらフィンは良い指導官に巡り会えたようだ。フィンは野菜スープを煮ている間、リリーに自身の土魔法を披露してくれた。フィンの手が光り輝くと、その手にはナイフが握られていた。鉄製のナイフだ。フィンは得意そうに言った。
「ブランと契約してから僕の土魔法が向上したんだ。それまで石ころか矢じりしか作れなかったからね」
リリーはフィンからナイフを受け取り、しげしげと眺めた。そしてある事に気がついた。フィンが魔法で作ったナイフには刃が無かったのだ、これでは物を切る事ができない。リリーがその事をたずねると、フィンではなくブランが答えた。
『ナイフに刃がついてないのはフィンの優しさだわよ。リリーがケガしないようにしてんの』
リリーはフィンの優しさに感動したが、同時に刃のついていないナイフでは意味がないのではないかと新たな疑問がわいた。今度はフィンがリリーに質問した。リリーの手荷物が少ないからだ。リリーは冒険者なのに持ち物は小さなポシェットしか持っていなかった。中身はハンカチにリップクリームとハンドクリームだ。リリーがその事を伝えると、フィンはたいそう驚いてたずねた。
「じゃあリリーは野宿する時はどうするの?」
リリーはあっけらかんと答えた。
「私の荷物は、フレイヤが隠しの魔法で隠してくれているの。だから、フレイヤ。紅茶を出してもらってもいい?」
リリーは口で説明するより見てもらった方が早いと思い、フレイヤにお願いした。フレイヤは心得たようにうなずく。するとリリーの手におぼんが出現した。その上には紅茶の缶、ティーカップ、ソーサー、ティースプン。紅茶のポットが乗っていた。そのありさまをフィンは驚いた顔で見ていた。リリーは冒険に行くにも何も持たなくて良かった。心配した父親に、シュラフ、テント、毛布、衣類、ナベ、ナイフ、食器、食材にいたるまで全て用意してもらった。その膨大な荷物をフレイヤは隠しの魔法で保管してくれているのだ。そのためリリーが望めばすぐに出してくれるのだ。リリーの説明に、フィンは感心したように相づちを打った。
フィンの作ってくれたスープを食べ、リリーの紅茶を飲み終わってひと心地つくと、フィンは模擬刀を持って剣の稽古を始めた。これはフィンの毎日の日課なのだそうだ。リリーも模擬刀を持たせてもらったが、とても重くてリリーは持ち上げる事さえ出来なかった。一心不乱に剣を振り下ろしているフィンを、霊獣のブランはうっとりした顔で見つめていた。ブランはリリーに、フィンは自分のために剣を練習しているのだと自慢げに言っていた。
リリーはフィンの契約霊獣とわずかな時間触れ合って確信した事があった。ブランはフィンを心から愛している。それもリリーと同じ感情だという事に。リリーがブランに、霊獣が人間に恋するなんておかしいと言ってしまった時、ブランは泣き出しそうな顔をしていた。リリーはブランを傷つけてしまったと思った。リリーはブランに謝らなければと思ったが、どうきり出してよいのか言葉の糸口を見つけられないでいた。
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リリーはフレイヤにお休みのあいさつをしてから夜空を見上げた。そこには一面の星空が輝いていた。リリーはあまりの美しさに息を飲んだ。リリーはこの夜空をきっと忘れる事はないだろうと思った。
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