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魔物

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 フィンたちは三日かけてようやく依頼の村にたどり着いた。だが村はさびれていて、村人も見当たらなかった。バレットは依頼人である村長の家を目指した。村長の家は村で一番大きな家なのだ。バレットが見当をつけて歩いて行くと、大きな家の前に一人の老人が立っていた。その老人は厳しい表情で、布におおわれた何かを凝視していた。バレットが老人に声をかけた。

「冒険者協会から来た者です。貴方がこの村の村長ですか?」

 老人はバレットが声をかけて初めて側に人がいた事に気がついたようで、びっくりした顔でバレットとフィンたちを見た。老人はくたびれた動作でうなずいて答えた。

「いかにも、わしはこのトワラの村の村長じゃ」

 フィンは村長が凝視していた物が気になって質問をした。

「村長さん、さっきから何を見ていたんですか?」

 村長はフィンを見て驚いた顔をして言った。

「何じゃ冒険者と聞いていたからもっと屈強な男が来てくれるのかと思ったが、まだ子供じゃないか!」

 フィンは申し訳なくなり身体を縮めた。バレットがフィンの前に出て答えた。

「察しの通りこの少年はまだ冒険者になりたてなんです。ですが私が指導官としてこの少年に付き添うのでご安心ください」
「何じゃと足手まといの子供がいてお主一人で戦うというのか?!」

 村長の剣幕に違和感を感じたバレットは厳しい顔で質問した。

「依頼内容は冒険者レベル3に相当する内容なはずです。私は冒険者レベル162です。この少年は冒険者レベル1ですが問題ない依頼と認識してここに来ました」

 村長は、しまったという顔をした。バレットは少しだけ語気を強めて問いただした。

「では依頼内容に偽りがあるのですね?」

 村長は観念したように大きなため息をついてから話し出した。

「いかにも本来ならこの依頼は冒険者レベル150ほどの内容なのじゃ。だがこのトワラの村は貧しくてレベル150の依頼の報酬を払う事ができんのじゃ。そこでレベルを偽って依頼を出したのじゃ」

 バレットはあきれ顔で村長を見た。そして厳しい顔に戻って言った。

「胸中お察ししますが、これは契約違反です。我々は帰らせていただきます」

 すると村長はバレットの腕にすがって言った。

「頼む。今お主に帰られたらこの村は滅びてしまう!」

 フィンは村長が不びんに思え、バレットに口ぞえした。

「ねぇバレット、話だけでも聞いてあげて?」

 バレットはフィンをひとにらみしてからため息をついた。村長はホッとした表情になり話し出した。

「このトワラの村はわずかな畑と薬草園で細々と暮らしている村なのじゃ。だがここ最近盗賊の被害が多発してのぉ、薬草を町に売りに行った村人が帰り道に襲われるのじゃ」

 フィンは不思議に思った。話だけ聞けばただの盗賊退治に思えたからだ。新人冒険者のフィンとブランには荷が重いかもしれないが、ベテラン冒険者のバレットがいれば問題ない依頼に思えた。村長は厳しい顔を作って言った。

「のぉ少年よ、この布の中身が気になったようじゃがお主には見せたくないのじゃ。どうか目をつぶっていてくれんかの?」

 フィンは少し不満だった。確かにフィンはまだ世間知らずの子供かもしれないが、れっきとした冒険者なのだ。フィンは、大丈夫ですと言って目をつぶる事を拒否したが、バレットににらまれたのでしぶしぶ目をつぶった。目をつぶったフィンの耳に、村長の声だけが聞こえる。

「盗賊に襲われた村人はすべて殺された。じゃが普通の殺され方では無い。これは人間の仕業ではないのじゃ」

 村長の言葉に、どうやらバレットは布を取り上げたようだった。バレットが息を飲む気配がする。バレットはフィンに目を開けるように言った。フィンが目を開けると、もう布は元どおりにかけられていた。だがフィンには、もう布の中身がわかっていた。これは盗賊に殺された村人の遺体なのだ。

 バレットはフィンに向き直ると厳しい表情で言った。

「フィン、ブラン。この依頼はお前たちを同行させるわけにはいかない。俺一人で行く。お前たちは村長の家で待っているんだ。いいな」

 有無を言わせないバレットの言葉に、フィンはカチンときて言い返した。

「嫌だよ、僕たちのために受けてくれた依頼でしょ?大人しくしているから同行させてよ」
「ダメだ!この村人は魔物の手によって殺されている。ひよっこのお前たちがウロウロしてたら足手まといだ」

 バレットはフィンへの話はもう終わったとばかりに視線を村長にうつして言った。

「村長、この依頼私が必ずやり遂げます。それまでこの子達をお宅であずかってください」

 村長はバレットの気迫に押されてうなずいた。バレットはフィンとブランに向き直って言った。

「必ず戻ってくるからここで待っていろ」

 それだけ言うとバレットの全身が一瞬輝いた。どうやらバレットは何らかの魔法を使ったようだ。バレットはその場から駆け出すと、あっと言う間に走り去ってしまった。

 後に残されたフィンとブランはあっけにとられてしまった。村長はバレットの指示通りフィンたちを家に招き入れようとした。だがフィンはブランを見た。ブランも強い瞳でフィンを見返した。フィンは強くうなずいた。村長に向き直るとフィンは大声で言った。

「村長さん僕らも行きます!」

 フィンはしゃがみこむと、村長の制止も聞かずゆっくりと布を持ち上げた。そこには村人だった無残な遺体があった。鋭い刃物のようなもので全身を斬り刻まれていた。だが人間が作り出した刃物では到底作れない傷あとだった。フィンの横にいたブランはキャッと小さく悲鳴をあげた。フィンは大声を出しそうになるのを何とかこらえ、こみ上げた嘔吐感をやり過ごすためゴクリとツバを飲み込んだ。そして元どおりに布を戻すと、死した村人を悼み、目を閉じて手を合わせた。そして勢いよく立ち上がると、ブラン。と叫んだ。ブランは心得たように大きくなりフィンを背中に乗せ走り出した。バレットを追いかけるために。


 
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