ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

少年バレットの冒険

　バレットに転機がおとずれたのは彼が十五歳になった時だった。バレットは冒険者の資格を得て旅に出る事になった。冒険の同行者は召喚士ゾラとその契約霊獣パンター。そして勇者レオリオと、その恋人である魔法戦士のシンシアだった。

　バレットは彼らと共に沢山の冒険をした。凶悪な盗賊団との対決、農民に重税をしいる領主の説得、強大なドラゴンと闘いそして和解した事。バレットのパーティを率いる勇者レオリオは強くて優しくてカッコいい男で、バレットの憧れだった。レオリオの恋人のシンシアは大きな剣を振り回す女傑だがとても美人で優しい女性だった。レオリオとシンシアはバレットの事を実の子供のように可愛がってくれた。そして召喚士ゾラはバレットを孫のように愛おしみ育ててくれた。ゾラの召喚霊獣黒ヒョウのパンターとは言葉が通じなくてもお互い気持ちが伝わっていた。

　孤児だったバレットは家族というものがいなかった。バレットにとってこのパーティが家族と呼べる大切な存在だった。だがある時悲劇が起きた。勇者レオリオは国王からの信頼も厚く依頼を受ける事も多かった。その依頼とは魔物の討伐だった。バレットは今まで魔物という存在を見た事は無かった。魔物は人間に擬態して、人間の世界に入り込んでいる事もあるのだ。魔物の力は計り知れず、強大な魔力を有するといわれていた。

　勇者レオリオは事態を重く見て、仲間と共に魔物討伐の旅に出発した。その旅に同行した少年バレットは生まれて初めて出会う魔物に辛酸を舐めた。だが勇者レオリオは仲間と共に協力して確実に魔物を倒していった。

　そしてついに魔物の親玉とも言われる存在と対面したのだ。その魔物は真っ赤な瞳をしていた。歴戦の勇者レオリオでも、伝説の召喚士と呼ばれたゾラすらも歯が立たなかった。勇者レオリオたちと赤い目の魔物の戦いは混迷を極め、ついに召喚士ゾラは自身の契約霊獣パンターに最後の命令をした。バレットを連れてこの場を離脱しろ、と。バレットは自分を連れて行こうとする霊獣に抵抗した。何故ならこの場にいる人々はバレットの大切な家族だったからだ。もし赤い目の魔物に勝てないのであれば皆と共に死にたかった。もう一人にはなりたくなかった。泣きじゃくりながら抵抗するバレットに、祖父のように慕っていた召喚士ゾラが微笑んで言った。

「バレット、お主は生きるのだ」

　勇者レオリオは真剣な表情でバレットを見つめて言った。

「バレット、僕らの意志を継いでくれ」

　魔法戦士シンシアは涙を流しながら微笑んで言った。

「あなたの事本当の息子のように思ってた。大好きよバレット、幸せになるのよ」

　バレットは自分をいつくしんでくれた人々の顔を見て泣き叫んだ。もうこの大切な人たちとは二度と会えない事を悟ったからだ。それきりバレットの意識は途絶えた。

　バレットが目を覚ますと、そこはどこかの森の中だった。きっと黒ヒョウの霊獣パンターがバレットを安全な所に連れてきたのだろう。だがバレットはパンターの行いを許す事ができなかった。心配そうにバレットをを見つめるパンターを、バレットは罵った。

「パンター！お前はゾラじいちゃんの契約霊獣だろ？！何で一番最初にじいちゃんを助けなかった？何で俺だけ助けたんだ？！」

　パンターは悲しそうにガウッと鳴いた。バレットはパンターの言葉が分からなかった、いや分かりたくもなかった。
養父のゾラはしきりにバレットに霊獣語を学ばせようとした。だがバレットは剣や魔法など感覚的に身体で覚える事は得意だが、座学で学ぶ勉強は全く苦手だった。バレットはパンターに言い放った。

「お前なんか大っ嫌いだ！！二度と俺の前に現れるな！！」

　バレットはそれきり親友だった霊獣パンターにきびすを返し、二度と振り返らなかった。

　パンターと決別したバレットは激しい虚無感にさいなまれていた。バレットは温かな存在を全て失ってしまったのだ。だが勇者レオリオの行軍は無駄ではなかった。勇者レオリオと仲間たちが国にはびこる魔物を倒し、赤い目の魔物に深手を負わせた事により国にかりそめの平和をもたらしたのだ。だが赤い目の魔物は死んではいない。バレットは誓った。自分が必ず赤い目の魔物を倒し、仲間の仇を討つと。

　バレットは赤い目の魔物の情報探しに奔走した。そして時間が空いた時は新人冒険者の指導官をする事にしたのだ。勇者レオリオが最後に言った言葉。自分の意思を継いでくれ。バレットは若い冒険者を育てる事だと解釈した。レオリオはバレットの剣の才能を見いだして稽古をつけてくれた。バレットも若い冒険者に旅での生きるすべを教える事にした。

　バレットが若い冒険者と旅に出る時、まれに黒い獣の姿を目にする事があった。召喚士ゾラの契約霊獣パンターだ。パンターはバレットを心配してか、まれに姿を現わす事があった。だがバレットはかたくなにパンターを無視した。