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少年バレット

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 バレットは物心ついた時から一人だった。バレットは捨て子で、幼少期は孤児院で育った。だがこの孤児院は表向きは子供たちを自立させるための施設といわれていたが、実際は子供たちを働かせて金を稼ぐ悪らつな大人が経営する施設だった。子供たちは朝から晩まで仕事をさせられ、食事は一日に一回固いパンと水のようなスープだけだった。そのため子供は栄養失調で病気になり、看病される事もなくバタバタと死んでいった。死んだ子供たちは孤児院の裏に掘られた穴に捨てられた。幼いバレットはいずれ自分も死んでこの穴に捨てられるのだろうと冷めた気持ちで暮らしていた。

 だがある時突然ひらめきのような考えが浮かんだ。ここから逃げ出したい。バレットはその考えが浮かぶと矢も盾もたまらず夜中に孤児院から逃げ出した。走って走って走り疲れて歩き、歩き疲れてはいずるように前に進んだ。目的地があるわけではなかった。ただ忌まわしい孤児院から少しでも離れたいという一心だった。はいずるように前に進んでいた身体が動かなくなった。バレットは悟った。自分はこのまま死ぬのだ。だが気持ちは晴れやかだった。あのはきだめのような施設から抜け出し、自分は自分の意思で死に場所を決めたのだ。空腹と疲労でバレットは意識を失った。

 次にバレットが目を覚ますと、そこは温かいベッドの上だった。バレットが痛む身体を起こすと、一人の老人が近づいてきた。バレットは大人が怖かった。大人はバレットに容赦なく暴力をふるう存在だったからだ。バレットが身体を固くしていると、老人はバレットのひざの上に盆を乗せた。盆の上にはホカホカと湯気をあげる温かそうなスープとふかふかのパンが乗っていた。バレットは訳がわからずおそるおそる老人を見上げた。老人は柔らかな笑顔を浮かべてバレットに言った。

「スープは熱いからゆっくり食べなさい」

 バレットは震える手でスプーンを取ると、スープをひとさじすくって口に入れた。スープは今までに食べた事がないとびきりの美味しさだった。バレットは熱いスープをむさぼるように飲んだ。そしてパンをつかむと口の中に押し込んだ、そのパンはいつも食べていた固いパサパサしたものなのではなく、柔らかく小麦の甘い香りがした。バレットは泣いていた。目から涙がポロポロあふれ、次第におえつになった。バレットは泣きながらスープとパンを食べた。

 バレットはその後高熱を出した。熱に浮かされながら、老人の細やかな看病を受けた。老人はバレットの骨と皮だけのガリガリの身体を濡らした布で丁寧に拭いてくれた。そしておでこに冷たい布を当ててくれた。熱を出した身体に、冷たい布は心地よかった。バレットは生まれて初めて看病というものをしてもらった。施設では熱を出すと、そのまま放置される。食事も別の子供に盗まれてしまう。バレットは施設で何度か体調を崩し熱を出すと、このまま死ぬのだろうといつも思っていた。

 バレットの熱が下がり体調がよくなった頃、そこで初めて助けてくれた老人の名前を知った。

「わしはゾラじゃ、お主の名は?」
「・・・、バレット」

 その老人ゾラは微笑んで言った。

「のぉバレット。行くところがなければここにいるといい」

 バレットはゾラ老人の元で暮らす事となった。ゾラ老人の家には同居人がいた。いや人間ではない、獣だ。ゾラは召喚士で契約霊獣と暮らしていたのだ。ゾラは同居人をバレットに紹介した。

「こやつはわしの相棒パンターじゃ。このパンターがバレットを見つけたのじゃぞ」

 バレットは突然目の前に現れた黒ヒョウに驚いたが、その美しさに息を飲んだ。その黒ヒョウはただの黒ヒョウではなかった。黒ヒョウの背中にはカラスのような翼が生えていた、霊獣だ。バレットは霊獣を初めて見た。バレットはおそるおそる黒ヒョウに礼を言った。

「助けてくれてありがとう」
「ガウウ」

 黒ヒョウのパンターは気にするなというように鳴いた。それからバレットはゾラになつき、パンターと友達になった。ゾラとパンターは、バレットの潜在魔力に気づき魔法を覚えさせた。バレットは四つのエレメント契約をして、メキメキと魔法の腕をあげていった。

 ゾラの友人にレオリオという男がいた。レオリオは勇者の称号を獲得した冒険者だった。レオリオはバレットに出会うと、すぐに剣の才能を見出した。レオリオはみずからバレットに剣の指導をした。バレットは剣の技術も確実に上達していった。バレットは自分に期待をかけてくれるゾラとパンター、レオリオの恩に報いる事ができるよう必死に修行をした。その期間は誰にも見向きもされずに生きていたバレットにとってとても喜ばしい事だった。

 
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