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戦士バレット

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 フィンの穏やかな眠りを破ったのは、ドアを叩く音だった。フィンは目をこすりながらベッドから降り、ドアを開けた。そこには宿屋の主人が立っていた。主人はフィンに言った。

「お前さんの先生が潰れちゃったから引き取ってくれ」

 フィンはブランと寝巻きのまま宿屋の下にある酒場に降りていった。カウンターを見ると、バレットが酒に酔ってつっぷして眠っていた。フィンはブランにお願いして大きくなってもらい、ブランの背中にバレットを乗せ、自分たちの部屋のベッドに寝かせた。宿屋の主人がフィンたちに礼を言った。フィンは主人に質問した。バレットはいつもああなのかと。主人は渋い顔してフィンとブランを下の酒場に連れていった。主人はフィンとブランにミルクを入れてやり席につかせた。

「お前さんたちの指導官にバレットがつくんだろ?」

 主人の言葉にフィンがうなずくと、主人はフゥッとため息をついてから話し出した。

「これは俺が言ったとは言わないでくれよ?バレットはとても強い魔法戦士だ。お前さんたちの指導官にはうってつけだろう。バレットは以前勇者レオリオのパーティにいた事があるんだ」
「勇者レオリオ?!」

 フィンは驚いて声をあげた。勇者レオリオはフィンが子供の頃から武勇伝が伝えられる勇者だ。レオリオは仲間と共に大きな武功をあげた。だが魔物との戦いに敗れ亡くなったと聞いている。その仲間がバレットだというのだ。主人は言葉を続ける。

「バレットは勇者レオリオのパーティの唯一の生き残りなんだ。だがそれ以来バレットは仲間を作らない。ふらりと危険な依頼に出て、ボロボロになって帰ってくる。そしてたまに若い冒険者の指導をかって出るんだ。多分若い連中を死なせたくないんだろう。俺が言うのも何だがバレットはいい奴だ。バレットを悲しいままで死なせたくない。生徒のお前さんに言うのもなんだが、バレットを見守ってやってくれないか?」

 宿屋の主人の言葉に、フィンはあいまいにうなずいた。フィンが部屋に戻ると、バレットは眉間にシワをよせて眠っていた。夢見が悪いのかもしれない。バレットが何か言っている。じぃちゃん、と。バレットの祖父なのだろうか。身内のいないフィンにはバレットの気持ちは分からなかった。フィンはバレットに毛布をかけ直して、ブランと一緒にベッドで眠った。

 次の日フィンはバレットに叩き起こされた。

「おい!朝出発って言っただろ?!いつまで寝てるんだ!起きろフィン!」

 フィンは渋い顔で起き上がった。誰のせいで夜眠れなかったと思っているんだと言いたかったが、宿屋の主人の言いつけで口に出す事はしなかった。バレットは一階の酒場でフィンに朝食を食べさせると、フィンを雑貨屋に連れていった。バレットは野宿に必要な小型のナベ、ナイフ、コップなどを買ってくれた。フィンは慌ててお金を払おうとするが、バレットは受け取らなかった。バレットがこともなげに笑って言った。

「俺に感謝の気持ちがあるなら、お前が立派な冒険者になった時、若い冒険者の助けになってくれればそれでいい」

 フィンはバレットの言葉を深く受け止め、心に誓った。フィンはバレットに沢山の物を買ってもらったが、困った事にフィンのリュックサックには入りきらなかった。バレットはフィンのリュックサックを手に取ると、袋の内側に指で魔法陣を描いた。するとリュックサックが光出した。フィンが驚いて見ていると、バレットが荷物をどんどん入れていった。だが不思議な事に、いくら荷物を入れてもいっぱいにならないのだ。フィンがバレットを見ると、彼は笑って言った。

「リュックサックに魔法をかけた。いくらでも入るぞ。だがな入れる物をちゃんと覚えておけよ、でないと二度とリュックサックから出せないぞ?」

 フィンは試しに、買ってもらったナベを想像しながらリュックサックに手を入れた。すると手にはナベをつかんでいた。フィンは喜んでありがとうと言った。バレットは照れたように顔をそむけた。

 バレットはフィンたちを連れて依頼のあった村に足を向けた。バレットは、村に行く道すがらフィンに聞いた。

「なぁフィン、なんで指導官を俺にしたんだ?お前召喚士だろ?」

 バレットの言葉にフィンは決意の顔で言った。

「バレット、僕は剣を習いたいんです。僕は女の子を守れるくらい強くなりたいんです!」
「・・・、フィンお前思ったよりタラシなのな?」
「?」

 フィンはバレットの言った意味がよく分からなかったが、バレットは剣の指導をする事を承諾してくれた。バレットはとても面倒見のいい人間なようだ。







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