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霊獣ブラン

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 カーテンの隙間から漏れる朝の光が顔にあたり、フィンはゆっくりと目を覚ました。枕元には昨夜と同じように美しい白猫がいた。彼女は軽やかな声で言った。

『おはよう、フィン』

 フィンは朝日に照らされた美しい白猫を見てため息をつくように言った。

「おはようブラン。今日の君もとっても綺麗だ」

 白猫はフフンと鼻を鳴らしてフィンの頬にすり寄った。フィンは大きく伸びをしてから勢いよくベッドからとび起きた。今日はフィンにとって記念すべき日なのだ。今日フィンは五年間過ごしたこの学校去るのだ。フィンは素早く自身の荷物をまとめた、リュックサックに衣類と日用品をつめて終了だ。霊獣のブランは、それだけなの?と呆れ顔だ。孤児だったフィンは自分の私物はほとんど持っていなかった。教科書や辞書は学校から借り受けた物だ、いずれ後輩が使う事になる。

 フィンは食堂で学生最期の朝食を食べると、職員室に行き担任の女教師に別れの挨拶をした。フィンを五年間見守ってくれた女教師は、孤児のフィンを何かと気にかけてくれていた。学費が滞りそうになると、学校内での仕事をあっせんしてくれた。その甲斐あってフィンは五年間の学生生活を続ける事ができたのだ。女教師は泣きながらフィンの門出を祝福してくれた。

 フィンは最後に会っておきたいクラスメイトがいた。同じ町で育ったリリーという女生徒だ。フィンは孤児のため何かと学校と担任教師に目をかけてもらっていた。そのためクラスメイトからはやっかまれ、友達らしい者もいなかった。だがリリーだけは違った。彼女はフィンと同じ町の出身だが、境遇はまるで違う。フィンは孤児で、彼女は大金持ちの商人の娘だった。だがリリーはお金持ち特有の傲慢さはこれっぽっちもなく、明るくて優しくて、そして何よりとても美しい少女だった。リリーはクラスの人気者だった。フィンが学校内をキョロキョロしていると声をかけられた。

「フィン!間に合って良かった。今日出発なんでしょ?」

 フィンが声のする方に振り向くと、はたして探していたリリーがいた。

「リリー、会えて良かった。君に別れのあいさつをしたかったんだ。五年間僕の事を助けてくれてありがとう」
「そんな事ないわ、私こそフィンに沢山助けてもらったわ」

 リリーの言葉にフィンは面はゆい気持ちになって話題を変えた。

「それにしてもリリーはすごいよ!なんたって火の精霊と契約しちゃんうんだもの」

 リリーはフィンのクラスで、一番強い精霊と契約できたのだ。リリーは控えめに笑って、素早く呪文を詠唱した。リリーのとなりに美しい女性が現れた。その女性は炎に包まれていた。だが攻撃的な炎ではない、柔らかな温かさをまとっていた。

『はあい!貴方がフィンね。私は火の精霊フレイヤ。よろしくね』

 フィンはリリーの契約精霊フレイヤにあいさつをし、自身の契約霊獣ブランを紹介しようとした。だがブランは機嫌が悪いようで、ツンッと顔を背けてしまった。困ったフィンはリリーとフレイヤにわびを入れた。リリーは気にしないでとしきりに言ってくれ、フレイヤはニヤニヤと意味ありげな笑いを浮かべていた。

 フィンとリリーがいた最高学年のクラスメイトは全員で三十五名だった。昨日の召喚の儀式で精霊か霊獣と契約できた者は二十二名。召喚はできたが対価の折り合いがつかず、契約がご破算になった生徒が五名。その生徒たちは後日改めて召喚の儀式を執りおこない、新たな精霊か霊獣との契約を試みる事になる。だがそれ以外の生徒は召喚の儀式を行っても、精霊や霊獣に見向きもされなかったという事だ。そのためもう一年学校に残るか、はたまた退学するのかを迫られる事になる。

 フィンは五年間世話になった学校の門を出ると、深々とお辞儀をした。そして自身の契約霊獣白猫のブランと共に新たなスタートをきった。フィンはブランに、先ほどのリリーたちに対する態度を注意した。

「ブラン、リリーは僕の唯一の友達だったんだよ?あんな態度は失礼じゃないか」
『彼女美人だわね?』
「ああ、美人で優しくてクラスの人気者だったんだ」

 フィンはブランの返答が、てんで質問の答えになっていない事に目を白黒させながら答えた。ブランは機嫌悪そうに言った。

『フィンはリリーの事好きだったの?』
「うん、勿論」

 ブランは目に見えてギクリと身体を震わせて、そしてこわごわというようにフィンを見上げて聞いた。

『・・・、恋愛感情って事?』
「ははっ。まさか!孤児の僕なんかが思いをよせていい相手なんかじゃないよ。彼女はいい所のお嬢さんなんだ。きっとしかるべき相手と結婚するんだろう。僕は彼女に勉強の面でも、クラスで浮いていた時も、いつも助けになってくれたんだ。僕の恩人なんだよ」

 フィンは柔らかな笑顔でブランを見た。ブランは眉間にシワを寄せながら、深いため息をついて言った。

『まぁいいわ、そういう事にしておいてあげる。だけどフィン、いい事?これからはアタシだけを見ているのよ?他の女の子に目移りなんかしちゃダメよ!わかった?』

 フィンはよくわからないブランの剣幕に、あわててうなずいた。するとブランは満足したようで、じゃあ許してあげる。と言った。

 フィンたちは召喚士養成学校を後にして、森の中をひたすら歩き続けた。ブランがフィンに聞く。

『ねぇフィン、一体どこに向かっているの?』
「ああ言ってなかったね。これからこの国の王都に行こうと思うんだ。王都の冒険者協会で、冒険者の登録をしようと思ってね」
『フィンは冒険者になる事が夢だったものね』
「?、ブランに僕の夢を話したっけ?」
『!、ううん初めて聞くわ。ただそうかなって思っただけ』

 フィンはとなりをついてきてくれるブランに微笑んで答えた。

「うん、僕は召喚士になって世界を冒険する事がずっと夢だったんだ。ブラン一緒に行ってくれる?」
『ええ勿論よ。貴方にずっとついていくわ。所で王都までどのくらいなの?』
「歩いて三日って所かな」
『三日?!そんなにかかるの?!』
「ブラン歩くの疲れる?それなら僕が抱っこしてあげる」

 ブランはビクリと身じろいでから、照れたように言った。

『違うわよフィン、アタシが貴方を乗せてあげるわ』

 ブランはそう言うと、ムクムクと大きくなった。小さかった白猫は、虎ほどの大きさになった。フィンは驚いてブランに聞いた。

「これはブランの魔法なの?ブランは土魔法の霊獣じゃないの?」
『ええ、アタシは土属性の霊獣よ、使うのは土魔法。フィンと同じ。だけど他にも沢山魔法が使えるの、だからフィンが困った事があったらなんでも言ってね?』

 フィンは間近で見る霊獣の魔法に大喜びして、ありがとうと言った。ブランは得意そうにニャァッと鳴くと、フィンを背中に乗るようにうながした。


 
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