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召喚の儀
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その日は澄みわたるような青空が広がっていた。まさに召喚日和といってよかった。フィンは晴れて召喚士養成学校の卒業試験を突破した。そしてこの日召喚の儀式を執りおこなうのだ。
フィンは十三歳で召喚士養成学校に入学し、五年間勉学に励み、召喚士になる事を許された。そしてこの召喚の儀で、フィンと契約する精霊か霊獣が決まるのだ。だからといって、誰もが必ず精霊か霊獣と契約できるわけではない。召喚士が召喚の儀式を執りおこなうと、精霊や霊獣がその召喚士を審議し、その者が契約に値する召喚士ならば契約に応じてくれるのだ。
とうとうフィンが契約の儀式をする番になった。フィンは気持ちを落ち着けるためにゆっくりと深呼吸をした。召喚士養成学校の教師にうながされ、フィンは学校の校庭の真ん中で召喚の魔法陣を描く。そして魔法陣が完成すると、その真ん中に立ち、召喚の言葉を詠唱する。
森羅万象の清きものよ我の求めに応じて聖なる姿を現し給え。
フィンの描いた魔法陣がまばゆい光を放った。フィンはたまらず目を閉じた。すると柔らかな声が心に響いてきた。
『アタシを呼んだのは貴方?』
フィンは声のする方にゆっくりと振り向いて目を開いた。そこには美しい白猫がいた。だがただの白猫ではない、白猫のおでこには小さなツノが生えていた。猫の霊獣だ。その白猫は、右の瞳が金色で、左の瞳がブルーのオッドアイだった。フィンは思わず呟いた。
「なんて綺麗な霊獣なんだ」
白猫はフフッと笑った。フィンはハッとした。まだ儀式の途中である事を思い出したからだ。フィンは気を取り直して白猫に問うた。
「気高く美しい霊獣よ、貴女の対価は何か?」
召喚士が精霊か霊獣と契約する時、必ず対価を求められる。それが受け入れられる対価であるならば、契約は成立する。だがもし自分では手におえない対価ならば契約はご破算になってしまう。ここが勝負どころだ。フィンはゴクリとツバを飲み込んだ。白猫は可愛らしい鼻をツンッと上に向けて言った。
『対価、そうねぇ。じゃあ決めた!一日一回必ずアタシの事を綺麗と言うのよ!』
フィンは拍子抜けして、身体からがくりと力が抜けた。もっと大変な対価を要求されるかと思ったのだ。ネズミを毎日十匹捕まえてこいだとか、毎日魚を獲ってこいだとか。だが白猫の霊獣の出した対価はとてもたやすかった。何故なら白猫の霊獣はため息が出るほど美しかったからだ。これなら十分対価を満たす事ができる。フィンはできると返事をした。白猫の霊獣はうなずいて言った。
『アタシの名前はブラン。貴方は?』
「僕はフィンだよ、ブラン」
白猫の霊獣ブランはうなずいて言った。
『フィン。真の名において契約する。アタシが貴方をずっと守ってあげる』
「ありがとうブラン、これからよろしく」
フィンと白猫の霊獣ブランの契約が終了すると、魔法陣の光は消失した。フィンは改めてこれから生涯を共にする自身の契約霊獣を見た。ブランは可愛らしく首をかしげている。フィンは両手を広げた、美しい白猫はスルリとフィンの腕の中におさまった。フィンは白猫を抱き上げると、愛おしげに頬ずりをした。側で固唾をのんで見守っていたフィンの担任の女性教師は泣きださんばかりに喜んでくれた。
フィンは白猫の霊獣と契約できた事が嬉しくて、片時も彼女を手放さなかった。夕食をとるための学食でも共にいた。そして学生寮の自室に戻ってもそれは続いた。フィンはブランに話しかける。
「ねぇブラン、今日は一緒に寝てくれる?胸がドキドキして眠れそうにないんだ」
美しい白猫は微笑んでうなずいた。
『ええ勿論よ』
「ありがとうブラン。でも僕眠るのが怖いよ、もし君と契約した事が夢だったらどうしようって思ってしまうんだ」
白猫の霊獣はクスクス笑って言った。
『心配いらないわフィン、これからアタシたちはずっと一緒よ?』
「ずっと?僕が死ぬまで?」
『ええ、貴方をひとりぼっちには絶対にしないわ』
「ありがとうブラン、とっても嬉しい」
フィンはベッドに横になり、枕元に丸くなっているブランを見つめた。目には涙が浮かんでいた。ブランはフィンの涙を優しく舐めとってくれた。
フィンは孤児だった。赤ん坊の頃に孤児院のドアの前に捨てられていた。フィンはずっとひとりぼっちだった。フィンは自分を愛してくれる誰かにずっと側にいてほしかったのだ。
ある人が言ったのだ。その人はとても暖かで優しい人だったと思う。とても小さい頃に会った人なので、フィンはあまり良く覚えていなかったが、その人の言った言葉はずっとフィンの心に残っていて、将来の夢になった。
あなたは召喚士になるべきよ。そうすればあなたを愛してくれる霊獣がずっと側にいてくれるわ。
フィンはその言葉を胸に、ひたすら召喚士を目指したのだ。フィンが過去の思い出に思いをはせていると、穏やかな眠りがフィンを包んだ。
フィンは十三歳で召喚士養成学校に入学し、五年間勉学に励み、召喚士になる事を許された。そしてこの召喚の儀で、フィンと契約する精霊か霊獣が決まるのだ。だからといって、誰もが必ず精霊か霊獣と契約できるわけではない。召喚士が召喚の儀式を執りおこなうと、精霊や霊獣がその召喚士を審議し、その者が契約に値する召喚士ならば契約に応じてくれるのだ。
とうとうフィンが契約の儀式をする番になった。フィンは気持ちを落ち着けるためにゆっくりと深呼吸をした。召喚士養成学校の教師にうながされ、フィンは学校の校庭の真ん中で召喚の魔法陣を描く。そして魔法陣が完成すると、その真ん中に立ち、召喚の言葉を詠唱する。
森羅万象の清きものよ我の求めに応じて聖なる姿を現し給え。
フィンの描いた魔法陣がまばゆい光を放った。フィンはたまらず目を閉じた。すると柔らかな声が心に響いてきた。
『アタシを呼んだのは貴方?』
フィンは声のする方にゆっくりと振り向いて目を開いた。そこには美しい白猫がいた。だがただの白猫ではない、白猫のおでこには小さなツノが生えていた。猫の霊獣だ。その白猫は、右の瞳が金色で、左の瞳がブルーのオッドアイだった。フィンは思わず呟いた。
「なんて綺麗な霊獣なんだ」
白猫はフフッと笑った。フィンはハッとした。まだ儀式の途中である事を思い出したからだ。フィンは気を取り直して白猫に問うた。
「気高く美しい霊獣よ、貴女の対価は何か?」
召喚士が精霊か霊獣と契約する時、必ず対価を求められる。それが受け入れられる対価であるならば、契約は成立する。だがもし自分では手におえない対価ならば契約はご破算になってしまう。ここが勝負どころだ。フィンはゴクリとツバを飲み込んだ。白猫は可愛らしい鼻をツンッと上に向けて言った。
『対価、そうねぇ。じゃあ決めた!一日一回必ずアタシの事を綺麗と言うのよ!』
フィンは拍子抜けして、身体からがくりと力が抜けた。もっと大変な対価を要求されるかと思ったのだ。ネズミを毎日十匹捕まえてこいだとか、毎日魚を獲ってこいだとか。だが白猫の霊獣の出した対価はとてもたやすかった。何故なら白猫の霊獣はため息が出るほど美しかったからだ。これなら十分対価を満たす事ができる。フィンはできると返事をした。白猫の霊獣はうなずいて言った。
『アタシの名前はブラン。貴方は?』
「僕はフィンだよ、ブラン」
白猫の霊獣ブランはうなずいて言った。
『フィン。真の名において契約する。アタシが貴方をずっと守ってあげる』
「ありがとうブラン、これからよろしく」
フィンと白猫の霊獣ブランの契約が終了すると、魔法陣の光は消失した。フィンは改めてこれから生涯を共にする自身の契約霊獣を見た。ブランは可愛らしく首をかしげている。フィンは両手を広げた、美しい白猫はスルリとフィンの腕の中におさまった。フィンは白猫を抱き上げると、愛おしげに頬ずりをした。側で固唾をのんで見守っていたフィンの担任の女性教師は泣きださんばかりに喜んでくれた。
フィンは白猫の霊獣と契約できた事が嬉しくて、片時も彼女を手放さなかった。夕食をとるための学食でも共にいた。そして学生寮の自室に戻ってもそれは続いた。フィンはブランに話しかける。
「ねぇブラン、今日は一緒に寝てくれる?胸がドキドキして眠れそうにないんだ」
美しい白猫は微笑んでうなずいた。
『ええ勿論よ』
「ありがとうブラン。でも僕眠るのが怖いよ、もし君と契約した事が夢だったらどうしようって思ってしまうんだ」
白猫の霊獣はクスクス笑って言った。
『心配いらないわフィン、これからアタシたちはずっと一緒よ?』
「ずっと?僕が死ぬまで?」
『ええ、貴方をひとりぼっちには絶対にしないわ』
「ありがとうブラン、とっても嬉しい」
フィンはベッドに横になり、枕元に丸くなっているブランを見つめた。目には涙が浮かんでいた。ブランはフィンの涙を優しく舐めとってくれた。
フィンは孤児だった。赤ん坊の頃に孤児院のドアの前に捨てられていた。フィンはずっとひとりぼっちだった。フィンは自分を愛してくれる誰かにずっと側にいてほしかったのだ。
ある人が言ったのだ。その人はとても暖かで優しい人だったと思う。とても小さい頃に会った人なので、フィンはあまり良く覚えていなかったが、その人の言った言葉はずっとフィンの心に残っていて、将来の夢になった。
あなたは召喚士になるべきよ。そうすればあなたを愛してくれる霊獣がずっと側にいてくれるわ。
フィンはその言葉を胸に、ひたすら召喚士を目指したのだ。フィンが過去の思い出に思いをはせていると、穏やかな眠りがフィンを包んだ。
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