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正勝の誤算
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今日は運命の日だった。正勝は浮き立つ気持ちに笑いが止まらなかった。もうすぐ息子の狐太郎が半妖の子供たちを殺害する。
半妖の子供たちの命を生け贄にして、大きな術が完成する。すなわち正勝と狐太郎の魂の入れ替えだ。
正勝は今年で百十五歳になる。いくら妖狐の蘭玉と婚姻の契約をしたからといって、高齢な身体である事は変わらなかった。正勝は身体の節々の痛みとだるさを常に感じていた。
だがその苦痛は今日を境になくなるのだ。正勝は大きな五芒星の中に鎮座し、正勝を囲むように五人の術者が座って呪文を唱えていた。
狐太郎が八人の半妖の命を奪ったと同時に、魂の入れ替えの術が発動するのだ。正勝は新しい身体に入れ替わるのを今か今かと待っていた。
突然五人の術者の呪文がピタリと止まった。いぶかしんだ正勝が言った。
「お前たち、一体どうしたのだ?」
一番年長の術者が代表して口を開いた。
「おそれながら正勝さま。狐太郎さまの気配が消えました」
「何?!狐太郎が死んだというのか?!」
「いえ、そこまでは。ですがそれまで感じていた狐太郎さまの気配がこつぜんと消えてしまいました」
正勝はうなった。狐太郎が半妖とはいえ子供に負けるとは思えなかった。別な術者が、おそれながらと口を開いた。
「雅樹さまの配下の者から、ある事を聞きました。雅樹さまたちが狐太郎さまたちと戦った時、半妖のガキは、陰陽師の術を使っていたというのです」
正勝は考えた。狐太郎は半妖の子供たちを信用させるため、陰陽師の術を教え、そのために返り討ちにあったのではないだろうか。
正勝はため息をついた。いくら半妖とはいえ、やはりケモノだ。頭が悪いのだ。正勝の頭の中では、次の段取りが進んでいた。
狐太郎が死んでしまっては仕方がない。やはり以前の計画通り、雅樹の身体を使おう。だが雅樹は霊能力がほとんどない、出来損ないだ。生け贄のために必要な半妖の命を一人では奪う事ができないだろう。
正勝が頭を悩ませていると、部屋の外が騒がしくなった。ふすまが突然開き、血まみれの部下が顔を出して叫んだ。
「正勝さま!蘭玉さまとオルガが乗り込んで来ました!」
おそらく蘭玉も、我が子の気配が消えた事を察知したのだろう。文句を言いに来られても、今は忙しい。相手にしているヒマはないのだ。
蘭玉はふすまをけ破って室内に入って来た。蘭玉と顔を合わせるのは実に十三年ぶりだ。蘭玉と婚姻の契約をして以来、同じ敷地内にいるのに顔をあわせた事は無かった。蘭玉は怒りの形相で言った。
「正勝。答えなさい。お前は狐太郎の身体に乗り移るためだけに、狐太郎をここまで育てたのか?」
正勝はため息をついて答えた。
「ああ。それ以外に何があると言うのだ。狐太郎はお前の血を受けて、半分はケモノなのだ。そんな者を我が子と認めるわけないだろう」
蘭玉の顔は、美しいものから恐ろしく変化した。そこで正勝は考えた。蘭玉は狐太郎が死んだとは考えていないようだ。蘭玉は、正勝が狐太郎を自身の器にしようとした事に怒っていて、狐太郎の死を悲しんではいないようだ。正勝は蘭玉にかまをかけた。
「蘭玉。わしの計画はどこで知った?」
「狐太郎のクラスメートに聞いたわ。狐太郎は自分で自分を封印してしまった。貴方が寿命で死ぬまで目覚めないわ」
正勝は込み上げた笑いを抑える事ができなかった。鬼の形相の蘭玉の前でゲラゲラと笑ってしまった。
狐太郎は自らを封印したのだ。正勝の計画に気づいて、正勝の脅威から逃れるために。生きているとわかれば、狐太郎の封印を解いて、また魂入れ替えの術をするまでだ。
半妖の子供たちの命を生け贄にして、大きな術が完成する。すなわち正勝と狐太郎の魂の入れ替えだ。
正勝は今年で百十五歳になる。いくら妖狐の蘭玉と婚姻の契約をしたからといって、高齢な身体である事は変わらなかった。正勝は身体の節々の痛みとだるさを常に感じていた。
だがその苦痛は今日を境になくなるのだ。正勝は大きな五芒星の中に鎮座し、正勝を囲むように五人の術者が座って呪文を唱えていた。
狐太郎が八人の半妖の命を奪ったと同時に、魂の入れ替えの術が発動するのだ。正勝は新しい身体に入れ替わるのを今か今かと待っていた。
突然五人の術者の呪文がピタリと止まった。いぶかしんだ正勝が言った。
「お前たち、一体どうしたのだ?」
一番年長の術者が代表して口を開いた。
「おそれながら正勝さま。狐太郎さまの気配が消えました」
「何?!狐太郎が死んだというのか?!」
「いえ、そこまでは。ですがそれまで感じていた狐太郎さまの気配がこつぜんと消えてしまいました」
正勝はうなった。狐太郎が半妖とはいえ子供に負けるとは思えなかった。別な術者が、おそれながらと口を開いた。
「雅樹さまの配下の者から、ある事を聞きました。雅樹さまたちが狐太郎さまたちと戦った時、半妖のガキは、陰陽師の術を使っていたというのです」
正勝は考えた。狐太郎は半妖の子供たちを信用させるため、陰陽師の術を教え、そのために返り討ちにあったのではないだろうか。
正勝はため息をついた。いくら半妖とはいえ、やはりケモノだ。頭が悪いのだ。正勝の頭の中では、次の段取りが進んでいた。
狐太郎が死んでしまっては仕方がない。やはり以前の計画通り、雅樹の身体を使おう。だが雅樹は霊能力がほとんどない、出来損ないだ。生け贄のために必要な半妖の命を一人では奪う事ができないだろう。
正勝が頭を悩ませていると、部屋の外が騒がしくなった。ふすまが突然開き、血まみれの部下が顔を出して叫んだ。
「正勝さま!蘭玉さまとオルガが乗り込んで来ました!」
おそらく蘭玉も、我が子の気配が消えた事を察知したのだろう。文句を言いに来られても、今は忙しい。相手にしているヒマはないのだ。
蘭玉はふすまをけ破って室内に入って来た。蘭玉と顔を合わせるのは実に十三年ぶりだ。蘭玉と婚姻の契約をして以来、同じ敷地内にいるのに顔をあわせた事は無かった。蘭玉は怒りの形相で言った。
「正勝。答えなさい。お前は狐太郎の身体に乗り移るためだけに、狐太郎をここまで育てたのか?」
正勝はため息をついて答えた。
「ああ。それ以外に何があると言うのだ。狐太郎はお前の血を受けて、半分はケモノなのだ。そんな者を我が子と認めるわけないだろう」
蘭玉の顔は、美しいものから恐ろしく変化した。そこで正勝は考えた。蘭玉は狐太郎が死んだとは考えていないようだ。蘭玉は、正勝が狐太郎を自身の器にしようとした事に怒っていて、狐太郎の死を悲しんではいないようだ。正勝は蘭玉にかまをかけた。
「蘭玉。わしの計画はどこで知った?」
「狐太郎のクラスメートに聞いたわ。狐太郎は自分で自分を封印してしまった。貴方が寿命で死ぬまで目覚めないわ」
正勝は込み上げた笑いを抑える事ができなかった。鬼の形相の蘭玉の前でゲラゲラと笑ってしまった。
狐太郎は自らを封印したのだ。正勝の計画に気づいて、正勝の脅威から逃れるために。生きているとわかれば、狐太郎の封印を解いて、また魂入れ替えの術をするまでだ。
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