あやかし学園

盛平

文字の大きさ
上 下
78 / 91

狐太郎の思い

しおりを挟む
 この少年は確か、サトリの半妖の悟といったか。狐太郎の劇を観に行った時、狐太郎が嬉しそうに話してくれていた。

 劇の台本は悟が書いたのだ、と。悟は文章を書くのが得意で、将来作家になるかもしれないと言っていた。どうやら狐太郎と悟は仲が良いらしい。

 短い間だったが、狐太郎と食事をした時、よく悟の話しが出たのだ。

 蘭玉は悟から事の経緯を聞いてがく然とした。狐太郎は蘭玉の寿命を守るため、みずから封印されたのだ。しかも百年という長い期間を。蘭玉はその場にくずれ落ち、つぶやいた。

「狐太郎は、あの子は私のせいで封印されたのね」
「違います、狐太郎くんのお母さんのせいではありません。狐太郎くんはお母さんを守るため、僕らを守るために考え抜いてとった行動なんです。だから、狐太郎くんが封印からさめるまで、待っていてくれませんか?僕らも狐太郎の封印が解けるまで、ずっと待っていますから」

 悟はしっかりとした口調で、蘭玉に言った。蘭玉は震える声で答えた。

「皆は狐太郎の事を友達と思ってくれているのね?」
「はい。狐太郎くんは、僕らが陰陽師たちに殺されないように術の訓練をしてくれました。狐太郎くんは僕らにとって大切な友達で、ぜったいにかけてはいけないクラスメートなんです」

 蘭玉の瞳からは涙があふれた。それは悲しみの涙ではない。狐太郎にかけがえのない友達がいる事を知った喜びの涙だ。蘭玉は覚悟を決めて言った。

「ねぇ、悟くん。クラスの皆、少しここで待っていてくれない?おばさん、ちょっとやる事があるの。必ず戻ってくるから」

 蘭玉は穏やかな目で狐太郎の大切な友達を見つめた。悟はクラスの皆と、顔を見合わせながらうなずいてくれた。狼牙が母の足にすがりつきながら言った。

「かあちゃん、俺も一緒に、行く」

 長身のオルガは、腰を屈めて我が子を優しい目で見つめながら言った。

「狼牙。お前はアタシたちの速度についてこれないから、ここで待ってな?」
「や!かあちゃんたち、コタ助けに行く。俺も、コタ助ける」
「おお!よくぞ言った。さすがアタシの息子だ。狼牙、お前はここにいて狐太郎を皆と守ってくれ」

 母の言葉に、狼牙はハッとした顔になり、大きくうなずいた。オルガは息子から蘭玉に視線を移し微笑んだ。

 オルガは蘭玉の決心を知って、ともに行動してくれるのだ。口にしなくても、わかってくれる親友に、蘭玉は胸が熱くなった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...