あやかし学園

悟の心

　悟は怒った山彦の顔を冷静に見つめていた。山彦は怒りのあまり、悟の胸ぐらを掴み上げている。

　悟は少し笑って、山彦の手に自分の手をそえて言った。

「山彦くんと手が触れ合うのは、幼稚園の時以来だね？いいのかい？僕に触れたら、君の心の深い所まで覗かれてしまうよ？」

　悟が触れた山彦の手からは、狐太郎を心配する気持ちが溢れ出していた。山彦の怒りの原因は、狐太郎が本心を話してくれなかった事なのだ。

　山彦は悟の胸ぐらから手を離すと、チッと舌打ちをした。悟は焦燥したまま立ちつくしているクラスメートたちを見渡して言った。

「皆、聞いてくれないか？僕は最初の自己紹介の時に言ったよね？僕に触れないでほしいって。僕はサトリだから、相手の気持ちが読めてしまう。さらに相手に触れれば、もっと深い所、相手の過去の記憶まで読めてしまうんだ。狐太郎くんは、自分の心の中を読んで欲しいと、僕に言ったんだ」

　悟は、石に封印されてしまった狐太郎の事を思った。悟は戦闘訓練の後、狐太郎からある提案を受けた。陰陽道を学んでみないかと。狐太郎の真意がわからずためらう悟に、狐太郎は言ったのだ。自分の心の中を読んでほしいと。悟は断った。

「狐太郎くん、ごめんなさい。僕はもう誰にも触りたくない。誰の心の深い所を読みたくないんだ」
「戦闘訓練で、いい戦いができたのは、悟のおかげだ。悟は何故自分の能力を卑下するんだ？」

　狐太郎の質問に、悟はうつむきなぎら答えた。他人に自分の心の内を話すのは初めての事だった。

「・・・。幼稚園の頃、僕は山彦くんとよく手をつないでいた。僕はどんくさくてよく転ぶから。ある時、幼稚園の先生が僕らに話しかけてくれたんだ。二人は仲良しね？って。その時、僕は山彦くんの気持ちを知ってしまった。山彦くんは幼稚園の先生に恋してたんだ」
「？。幼稚園の先生はあやかしだったのか？」

　狐太郎の質問に、悟は首を振って答えた。

「ううん。幼稚園の先生は人間だった。その頃の山彦くんはそこまで人間嫌いじゃなかったんだ。僕は能力で知り得た事を山彦くんに話してしまった。山彦くんは先生が好きなんだね？って。山彦くんは顔を真っ赤にして言ったんだ。二度と俺に触るなって」

　悟はくちびるを噛みしめてうつむいた。今思い出しても、辛い思い出だったからだ。悟は山彦の心の中を勝手に覗きに、傷つけてしまったのだ。それ以来悟は人に触る事も、人に触られる事も恐怖するようになってしまったのだ。