あやかし学園

盛平

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狐太郎の真実

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 皆一様に黙ったままだった。この沈黙を破ったのは、山彦のヒステリックな叫び声だった。

「ギャハハ!ばっかじゃねぇの?!狐太郎の奴、亜子に術返されて、石ころになってやんの!」

 山彦はギロリと狼牙をにらみ、ハッと息を吐いた。山彦の音波の妖術は狼牙に当たり、狼牙の小さな身体は吹っ飛んだ。

「狼牙くん!」

 亜子は狼牙に駆け寄った。狼牙はよろよろと立ち上がると、山彦を無視して、再び石になった狐太郎の側に行った。亜子は、これ以上狼牙が山彦に攻撃されないように、狼牙を抱きしめた。山彦は怒りの声で叫んだ。

「おい!狼牙!一体全体これは何なんだよ!」

 狼牙は狐太郎の石を見つめながらつぶやくように言った。

「コタ、ねんねした」
「?。ねんね?眠ったって事?」

 狼牙の言葉に、亜子が聞き返す。狼牙はコクリとうなずいてから言葉を続けた。

「コタはマサカツに命令された。半妖の生徒を殺せって。だけどコタ、そんな事できない。お前たち、仲間。コタ、お前たち大事。だから負けたフリしてねんねするの」

 亜子はぼう然と石になった狐太郎を見下ろした。正勝とは、狐太郎の実の父親だ。狐太郎は、亜子たち半妖を守るために自らを封印したのだ。狼牙が亜子を見上げて言った。

「ねぇ、亜子。ひゃくねんってどのくらい?」
「百年って事?」
「うん。コタ、ひゃくねん経ったら起きる。だから俺、ひゃくねん待ってる。お日さまが登って沈んだら、一日。俺、指おって数える。亜子、何回指おったらひゃくねん?」

 狼牙は小さな手の指を曲げて亜子に見せた。百年。途方もない時間に、亜子は耐えられずに泣き出してしまった。亜子は泣きながら狼牙に言った。

「そうね。私も百年経つまで、狐太郎くんの事、待ってる」

 亜子のとなりに立ち、狐太郎の石をにらんでいた山彦が大声で言った。

「はぁ?!やっぱり狐太郎は大バカだ!何で一人で全部決めてやっちまうんだ!封印されるのは勝手だが、亜子が失敗したら俺たちが封印されるところだったんだぞ?!」

 山彦の考えも一理ある、と亜子は思った。もし狐太郎が、亜子たちに相談してくれれば、別な解決方法があったのではないだろうか。

 亜子がぼんやり考えていると、悟が口を開いた。

「皆、聞いてほしいんだ。僕は狐太郎くんからこの作戦を事前に聞かされていた。もし亜子ちゃんが、術返しの術に失敗したら、僕が変わりに術返しの術をする手はずになっていたんだ。だけど僕の妖力は狐太郎くんより弱かったから、亜子ちゃんが、狐太郎くんの意志をくんで術返しの術を成功させてくれて本当に良かった」

 悟の言葉に、山彦は激しく怒ったようだ。悟の所まで駆け寄ると、悟の胸ぐらを掴んだ。

「悟!お前、狐太郎とグルだったんだな?!」

 山彦の剣幕に、亜子たちは息を飲んだ。
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