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狼牙の心
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狐太郎は眠ったまま起きない狼牙の寝顔をジッと見つめていた。
狼牙は危機におちいっていた狐太郎を助けてくれた。狼牙は狐太郎を殺そうとした、兄の部下である陰陽師を殺そうとした。
狐太郎は苦いもの噛みしめたように顔をゆがめた。狼牙はとても優しい獣人だ。
狐太郎が幼い頃、庭の花を引っこ抜いた。とても綺麗だったからだ。狐太郎は狼牙に見せてやろうと、狼牙の鼻先に花を押し付けた。狼牙は笑って言った。
「コタ、お花イタイイタイ。お花生きてる」
「いきてりゅ?」
「そ、」
狼牙は狐太郎を抱き上げて、庭を歩き出した。狼牙は小さな虫を見つけると、指さして狐太郎に言った。
「コタ、虫生きてる。生きてる、大事。コタ、生きてる、大事」
狼牙は、幼い狐太郎に繰り返し、命の大切さを教えてくれた。狐太郎が成長して、兄に命を狙われる日常に悲観していると、狼牙は必ず狐太郎に言うのだ。
コタ、生きてる。大事。俺、コタ守る。
狼牙は虫も殺せないほど、臆病で優しいのだ。そんな狼牙が人間を殺そうとした。狐太郎のために。
狐太郎さえいなければ、狼牙が傷つく事もなければ、他人を傷つける事もないのだ。狐太郎さえいなければ。
「コタ?」
狐太郎はハッとして狼牙を見た。狼牙はうっすら目を開けて笑った。狐太郎は狼牙の顔を覗き込んで言った。
「狼牙、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。コタは?」
「ああ、大丈夫だ。狼牙が守ってくれたからな」
狼牙は嬉しそうに笑った。まるで時間を見計らったかのように狐太郎たちの部屋のドアがノックされた。
狐太郎がドアを開けると、雪奈が立っていた。
「狐太郎くん、校長がお呼びよ?」
狐太郎はうなずいて狼牙に声をかけた。
「狼牙、少し出てくる。お前は寝てろ」
「や!俺、コタと一緒!」
狐太郎はため息をついてから、自分のトレーナーを狼牙に着せて抱き上げた。
これから校長のさわらび童子に色々聞かれるだろう。狐太郎は気が重かった。
狼牙は危機におちいっていた狐太郎を助けてくれた。狼牙は狐太郎を殺そうとした、兄の部下である陰陽師を殺そうとした。
狐太郎は苦いもの噛みしめたように顔をゆがめた。狼牙はとても優しい獣人だ。
狐太郎が幼い頃、庭の花を引っこ抜いた。とても綺麗だったからだ。狐太郎は狼牙に見せてやろうと、狼牙の鼻先に花を押し付けた。狼牙は笑って言った。
「コタ、お花イタイイタイ。お花生きてる」
「いきてりゅ?」
「そ、」
狼牙は狐太郎を抱き上げて、庭を歩き出した。狼牙は小さな虫を見つけると、指さして狐太郎に言った。
「コタ、虫生きてる。生きてる、大事。コタ、生きてる、大事」
狼牙は、幼い狐太郎に繰り返し、命の大切さを教えてくれた。狐太郎が成長して、兄に命を狙われる日常に悲観していると、狼牙は必ず狐太郎に言うのだ。
コタ、生きてる。大事。俺、コタ守る。
狼牙は虫も殺せないほど、臆病で優しいのだ。そんな狼牙が人間を殺そうとした。狐太郎のために。
狐太郎さえいなければ、狼牙が傷つく事もなければ、他人を傷つける事もないのだ。狐太郎さえいなければ。
「コタ?」
狐太郎はハッとして狼牙を見た。狼牙はうっすら目を開けて笑った。狐太郎は狼牙の顔を覗き込んで言った。
「狼牙、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。コタは?」
「ああ、大丈夫だ。狼牙が守ってくれたからな」
狼牙は嬉しそうに笑った。まるで時間を見計らったかのように狐太郎たちの部屋のドアがノックされた。
狐太郎がドアを開けると、雪奈が立っていた。
「狐太郎くん、校長がお呼びよ?」
狐太郎はうなずいて狼牙に声をかけた。
「狼牙、少し出てくる。お前は寝てろ」
「や!俺、コタと一緒!」
狐太郎はため息をついてから、自分のトレーナーを狼牙に着せて抱き上げた。
これから校長のさわらび童子に色々聞かれるだろう。狐太郎は気が重かった。
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