あやかし学園

盛平

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狐太郎と父正勝

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 狐太郎は目をつむり、寝ようとした。だが中々眠りはおとずれなかった。狐太郎はジッと天井をにらみながら、家を出る時の父正勝との記憶を思い出していた。

「お父さん。これからあやかし学園に入学します」

 狐太郎は父親の書斎である和室に入り、出発の言葉をのべた。正勝はうなずいて答えた。

「狐太郎、あやかし学園への入学、嬉しく思うぞ」

 正勝は百歳の老人であるが、見た目は実年齢よりも若々しい。これは狐太郎の母である妖狐と婚姻の契約をしたからだ。正勝はこれからも百年は長生きするだろう。

「時に狐太郎。クラスの生徒は何人だ?」
「はい。私と狼牙をのぞいて八人です」
「八人か。人数として妥当だろう。狐太郎、申しつけた任務、必ずやり遂げるのだぞ?」
「はい。こころえております」

 狐太郎はギリリと歯を食いしばった。正勝の氷のような目を思い出したからだ。狐太郎は、幼い頃から今まで、父から愛情を向けられた事は、ただの一度もなかった。

 正勝は狐太郎を、まるで実験動物のような感情の無い目で見つめていた。狐太郎は父親に対して激しい憎悪を持っていた。だが父の意思に逆らう事はできなかった。

 狐太郎は、この世に生まれ落ちた時から父の指し示す道をひたすら歩んで来た。そしてこれからも進んでいかなければいけないのだ。

 狐太郎は、自身があやかし学園に入学した理由。これから自分が行わなければいけないおぞましい事が脳裏をうずまいていた。

 今この場から、何もかも捨てて、逃げ出せてしまえばどんなに楽だろう。狐太郎はギュッと目をつむった。

 ドンッ。狐太郎は腹に衝撃を受けて、目を開いた。ベッドの中で、狼牙が寝返りをうって、彼の足が狐太郎の腹に乗っかったのだ。狼牙はすこぶる寝相が悪い。

 狐太郎は苦笑して狼牙の足をどかすと、狼牙の首元まで毛布をかけてやった。

 狐太郎はこわばっていた身体の力が抜けている事に気づいた。狼牙は狐太郎のこれからやろうとしている事を理解してくれている。

 狼牙が狐太郎を応援してくれているのだ。狐太郎は決意を新たにして目を閉じた。ゆっくりと眠りがおとずれた。

 

 



 

 
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