あやかし学園

盛平

文字の大きさ
上 下
24 / 91

論争2

しおりを挟む
 亜子は何も発言できなかった。皆人間についてしっかりとした考えを持っているのだ。亜子が小さくなっていると、となりの音子が手をあげて発言した。

「あ、あの、あたしはこれまで人間を嫌だって思った事は一度もないの。あたしのパパはね、ケガして動けなくなっていたママを助けてくれたの。その時、ママは猫の姿をしていたわ。パパは猫が大好きだったから、猫になったママの治療をしてくれた。ママはパパに一目ぼれしちゃって、人間に化けてパパにもう一度会いに行ったわ。パパもママを一目見て恋しちゃったんですって。パパはママにも、あたしにもとっても優しいの。世の中には、いい人間だけじゃなくて、悪い人間もいるわ。でも、それはあやかしにも半妖にも言える事なんじゃないかしら」

 音子の発言を、皆静かに聞いていた。担任の雪菜は、生徒を見回した。ディスカッションに飽きて、狐太郎に抱きついて眠ってしまった狼牙以外で、発言をしていないのは亜子だけになってしまった。

 雪奈は亜子に、何か意見はあるかと問いかけた。亜子は人前で意見を言うのが苦手だ。だが、クラスメートの意見を聞いて、胸の中に湧き上がった事があった。

 亜子はゆっくりと立ち上がって言った。

「わ、私も、音子と同じで、今まで人間が悪いなんて考えた事なかった。天狗のパパは、人間のママが大好きだから、人間として、会社で働いているの。パパと一緒に働いている人間たちには、いい人も悪い人もいるわ。私ね、この世界に存在する者は、すべての命に生きる権利があると思うの。あやかしも半妖も、人間も、動物や植物も」

 亜子は言葉を切って、つばを飲み込んでから言葉を続けた。

「山彦くんの話しを聞いて、人間のやった事はひどいって思った。でも、山彦くんたちの山を奪った人間たちは、あやかしや半妖の存在に気づかなかったんじゃないかなって思うの。ずっと昔、あやかしは神さまだった。人間たちは神さまを大切に祀っていた。だけど、時代が変わって、人間たちは神さまを忘れていってしまったわ。だから、これからは人間たちに、あやかしや私たち、半妖の事を知ってもらわなけれないけないと思うの」

 亜子はふうっと息をはいた。雪奈はうなずいてから口を開いた。

「皆さん、ありがとうございます。色々な意見を聞く事ができました。時に亜子さん、どうすれば人間たちに、我々の存在を知ってもらえるでしょうか?」

 雪奈の切り返しに、亜子は慌てた。山彦はキツイ口調で亜子に言った。

「現代の人間は神秘性なんか信じねぇぜ?」

 亜子はゆっくりと口を開いた。考えるよりも、勝手に口から出た言葉だった。

「私たちが、あやかしと半妖の事を知らせます。そう、私はあやかしと人間の子供。私が大人になったら、あやかしと人間の間を取り持つ存在になります。時間はかかるかもしれない。だけど、人間たちに知ってもらいたい。人間と仲良くできるあやかしや半妖がいるって事を」

 教室内はシンと静まり返ってしまった。無理もないかもしれない。あやかしと半妖は人間に隠れて暮らしているのだ。とうてい実現しそうに無い夢でしかない。

 パチ、パチ。誰かが手を叩いた。それは大きな拍手になった。クラスメートたちが、亜子の考えに賛同してくれたのだ。山彦は不服らしく、ケッと舌打ちした。

 となりの音子が、亜子の服のそでをちょっと引っ張って言った。

「亜子、ありがとう」

 亜子はフゥッと息をはいてから小さく笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

彼女は処女じゃなかった

かめのこたろう
現代文学
ああああ

学園戦隊! 風林火山

貴様二太郎
キャラ文芸
山田 玲(やまだ れい)、15歳、女子。 家庭の事情で私立なんて選択肢になかったんだけど、ある日、三年間学費無料という学校を見つけてしまって。ただこの学費無料、ちょっと変な条件があったんだよね。 一、特殊奉仕活動同好会入部 二、寮生活 三、姓に山の字が入っていること ただより高いものはなし。でも、やっぱり学費無料は捨てがたかった! というわけで不肖山田、四月から武田学園の生徒になりました。 でもまさかこの条件のせいで、平穏な高校生活を捨てなきゃならなくなるなんて…… ちょっと突っ込み気質な真面目女子山田(貧)と愉快な仲間たちの繰り広げる青春コメディ(下品)。 山田の常識はこれからの3年間、一般的なままでいられるのか!? 書き上げてから章ごとに投稿します。 風の章 → 完結 林の章 → 完結 火の章 → 完結 山の章 → 完結 ※表紙は安藤ゆいさまよりいただきました。 ※サブタイトルの後に★があるページには挿絵が入っています。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※小説家になろう版とはお話の順番等少し変えてあります。

処理中です...