19 / 91
休息
しおりを挟む
亜子は音子の傷が回復した事に安心して辺りを見回すと、菊花が身体にバスタオルを巻いた姿で、ぐったりしたみなもを支えている。
亜子は心配になって、音子を狐太郎たちに任せて、彼女たちの側に走った。
「みなもちゃん、大丈夫?」
亜子の質問に、みなもを抱いた菊花が答える。
「私の張った、クモの網の間から、清姫の毒が入ってみなもちゃんに当たっちゃったの」
亜子がみなもの顔を覗きこむと、むらさき色だ。どう見ても大丈夫じゃない。亜子がオロオロしていると、亜子の肩に優しく手を置いた清姫が言った。
「大丈夫よ?亜子ちゃん。みなもちゃんに血清を使うから」
清姫は慣れた様子で、菊花からみなもを受け取ると、おもむろにみなものくちびるを、自身のくちびるでふさいだ。
突然の光景に、亜子はギャッと小さく悲鳴をあげた。これは、毒に当たってしまったみなもの治療だ。別におかしな事は一つもない。
だが二人の美少女のキスシーンを目の当たりにして、亜子は顔を真っ赤にしながら見守った。
こくりとみなもののどか動く。どうやら清姫の血清を飲み込んだようだ。清姫は、フゥッと息を吐いて、みなもからくちびるを離して言った。
「みなもちゃんは大丈夫よ。もうすぐ意識を取り戻すわ?」
亜子がみなもの顔を覗きこむと、顔色がほんのりピンク色になっている。血清が効き出したのだ。清姫は、自身と同じくらいの身長のみなもを、軽々と姫抱きに持ち上げた。
雪奈は、清姫がみなもの治療を完了したのを見ると、ハリのある声で生徒全員に言った。
「では皆さん。各自シャワーを浴びてから、食堂で昼食にしましょう」
みなもを抱いた清姫は、菊花と共に保健室に向かった。
音子はごきげんに好物のねこまんまをかっこんでいる。亜子は目の前の焼きジャケ定食を見下ろした。あまり食欲が無かった。今日初めて、父親以外の相手に妖術のカミナリを当てた。
獣人の狼牙にカミナリを当てたのは、このままでは、悟に危険がおよぶと考えたからだ。カミナリを落とした後で、亜子は冷水を浴びたように身体が冷たくなった。
他人を傷つける恐怖。狐太郎は亜子に、狼牙は丈夫だから心配ないと言ってくれた。だが、言いにくそうに、言葉を付け足した。
「亜子、怖がらないで聞いてほしい。狼牙は興奮して、獣人モードになると、俺の言葉も聞かない。最初の命令、悟を戦闘不能にする、という命令だけを遂行する。狼牙は俺の拘束術を一瞬で破壊した。亜子が狼牙にカミナリの術を当ててくれなければ、事態はもっと大変な事になっていた。亜子の判断は正しい。だが、あのカミナリの術は、狼牙だったから気絶で済んだんだ。他の奴らに当たれば、」
そこで狐太郎は言いにくそうに言葉を切った。亜子は疲れたように笑って答えた。
「そうだね、私がコントロールを間違えて、狼牙くんではなく、他の皆にカミナリを当てていれば、その人はタダじゃ済まない」
狐太郎はくちびるを噛みしめてから、厳しい表情で亜子に言った。
「亜子は俺たちを守ってくれた。俺は亜子がきっと、自分の妖力をコントロールできると確信している。だから、自分の力を恐れるな」
狐太郎の言葉に、亜子はハッとした。狐太郎には、亜子の不安を見透かされていたのだ。亜子はゆっくりとうなずいた。
亜子は心配になって、音子を狐太郎たちに任せて、彼女たちの側に走った。
「みなもちゃん、大丈夫?」
亜子の質問に、みなもを抱いた菊花が答える。
「私の張った、クモの網の間から、清姫の毒が入ってみなもちゃんに当たっちゃったの」
亜子がみなもの顔を覗きこむと、むらさき色だ。どう見ても大丈夫じゃない。亜子がオロオロしていると、亜子の肩に優しく手を置いた清姫が言った。
「大丈夫よ?亜子ちゃん。みなもちゃんに血清を使うから」
清姫は慣れた様子で、菊花からみなもを受け取ると、おもむろにみなものくちびるを、自身のくちびるでふさいだ。
突然の光景に、亜子はギャッと小さく悲鳴をあげた。これは、毒に当たってしまったみなもの治療だ。別におかしな事は一つもない。
だが二人の美少女のキスシーンを目の当たりにして、亜子は顔を真っ赤にしながら見守った。
こくりとみなもののどか動く。どうやら清姫の血清を飲み込んだようだ。清姫は、フゥッと息を吐いて、みなもからくちびるを離して言った。
「みなもちゃんは大丈夫よ。もうすぐ意識を取り戻すわ?」
亜子がみなもの顔を覗きこむと、顔色がほんのりピンク色になっている。血清が効き出したのだ。清姫は、自身と同じくらいの身長のみなもを、軽々と姫抱きに持ち上げた。
雪奈は、清姫がみなもの治療を完了したのを見ると、ハリのある声で生徒全員に言った。
「では皆さん。各自シャワーを浴びてから、食堂で昼食にしましょう」
みなもを抱いた清姫は、菊花と共に保健室に向かった。
音子はごきげんに好物のねこまんまをかっこんでいる。亜子は目の前の焼きジャケ定食を見下ろした。あまり食欲が無かった。今日初めて、父親以外の相手に妖術のカミナリを当てた。
獣人の狼牙にカミナリを当てたのは、このままでは、悟に危険がおよぶと考えたからだ。カミナリを落とした後で、亜子は冷水を浴びたように身体が冷たくなった。
他人を傷つける恐怖。狐太郎は亜子に、狼牙は丈夫だから心配ないと言ってくれた。だが、言いにくそうに、言葉を付け足した。
「亜子、怖がらないで聞いてほしい。狼牙は興奮して、獣人モードになると、俺の言葉も聞かない。最初の命令、悟を戦闘不能にする、という命令だけを遂行する。狼牙は俺の拘束術を一瞬で破壊した。亜子が狼牙にカミナリの術を当ててくれなければ、事態はもっと大変な事になっていた。亜子の判断は正しい。だが、あのカミナリの術は、狼牙だったから気絶で済んだんだ。他の奴らに当たれば、」
そこで狐太郎は言いにくそうに言葉を切った。亜子は疲れたように笑って答えた。
「そうだね、私がコントロールを間違えて、狼牙くんではなく、他の皆にカミナリを当てていれば、その人はタダじゃ済まない」
狐太郎はくちびるを噛みしめてから、厳しい表情で亜子に言った。
「亜子は俺たちを守ってくれた。俺は亜子がきっと、自分の妖力をコントロールできると確信している。だから、自分の力を恐れるな」
狐太郎の言葉に、亜子はハッとした。狐太郎には、亜子の不安を見透かされていたのだ。亜子はゆっくりとうなずいた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
大阪の小料理屋「とりかい」には豆腐小僧が棲みついている
山いい奈
キャラ文芸
男尊女卑な板長の料亭に勤める亜沙。数年下積みを長くがんばっていたが、ようやくお父さんが経営する小料理屋「とりかい」に入ることが許された。
そんなとき、亜沙は神社で豆腐小僧と出会う。
この豆腐小僧、亜沙のお父さんに恩があり、ずっと探していたというのだ。
亜沙たちは豆腐小僧を「ふうと」と名付け、「とりかい」で使うお豆腐を作ってもらうことになった。
そして亜沙とふうとが「とりかい」に入ると、あやかし絡みのトラブルが巻き起こるのだった。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
甘い気持ちのわけを教えて~和菓子屋兎月堂で甘いお菓子と二人ぐらし、始めました!~
深水えいな
キャラ文芸
彼氏なし、仕事も上手くいかない崖っぷちOLの果歩は、ある日ふと立ち寄った和菓子屋でバイト募集の貼り紙を見つけ、転職を決意。そこで果歩は、ちょっと変わったイケメンの卯月さんと同居することになり――
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
喰って、殴って、世界を平らげる!――世界を喰らうケンゴ・アラマキ――
カンジョウ
キャラ文芸
荒巻健吾は、ただ強いだけではなく、相手の特徴を逆手に取り、観客を笑わせながら戦う“異色の格闘家”。世界的な格闘界を舞台に、彼は奇抜な個性を持つ選手たちと対峙し、その度に圧倒的な強さと軽妙な一言で観客を熱狂させていく。
やがて、世界最大級の総合格闘大会を舞台に頭角を現した荒巻は、国内外から注目を浴び、メジャー団体の王者として名声を得る。だが、彼はそこで満足しない。多種多様な競技へ進出し、国際的なタイトルやオリンピックへの挑戦を見据え、新たな舞台へと足を踏み出してゆく。
笑いと強さを兼ね備えた“世界を喰らう”男が、強豪たちがひしめく世界でいかに戦い、その名を世界中に轟かせていくのか――その物語は、ひとつの舞台を越えて、さらに広がり続ける。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
京都和み堂書店でお悩み承ります
葉方萌生
キャラ文芸
建仁寺へと続く道、祇園のとある路地に佇む書店、その名も『京都和み堂書店」。
アルバイトとして新米書店員となった三谷菜花は、一見普通の書店である和み堂での仕事を前に、胸を躍らせていた。
“女将”の詩乃と共に、書店員として奔走する菜花だったが、実は和み堂には特殊な仕事があって——?
心が疲れた時、何かに悩んだ時、あなたの心に効く一冊をご提供します。
ぜひご利用ください。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる