5 / 91
狐太郎と狼牙
しおりを挟む
「うわぁん!」
子犬から男の子になった子は火がついたように泣き出した。音子は慌てて謝っている。狐太郎は男の子に怖い顔で言った。
「狼牙!女に引っかかれたくらいで泣くな!」
狐太郎の剣幕に、亜子は驚いたが、狐太郎は男の子の傷の具合を丁寧に確認していた。音子は猫またの半妖なので、驚くと猫の鋭い爪が出てしまうのだ。
男の子の顔にはしっかりと引っかき傷があり、血がにじんでいた。亜子と音子が心配していると、狐太郎はひとり言のようにつぶやいて言った。
「目は傷ついてないな、問題ない」
狐太郎は男の子の顔に手をそえると、彼の手が輝いた。男の子の顔の傷は一瞬にして治癒してしまった。
亜子は驚きの声をあげた。狐太郎は治癒能力を使えるのだ。治癒能力はとても難しい術だ。
亜子の驚きの表情を見て取ったのだろう。狐太郎は少し顔をしかめて答えた。
「狼牙は獣人のハーフなんだ。これくらいのケガなんてすぐ治る。俺は狼牙の治癒力を底上げしただけだ」
「そうであってもすごいよ」
狐太郎のけんそんに、亜子は勢いながら言った。音子はそんな亜子たちを困ったように見て口をはさんだ。
「ねぇ。狼牙、くん?に服を着せてあげて?」
子犬から男の子に変身する狼牙は、いくら亜子たちより年下といっても、丸裸では目のやり場に困る。狐太郎はうなずいて、イスの背もたれにかけていたパーカーを狼牙に着せてやる。
狼牙はヒクヒクと鼻をすすりながら狐太郎に抱きついた。狐太郎はため息をついて狼牙を抱き上げた。狼牙は狐太郎の首に抱きついてグズグズいっている。亜子は疑問に思って狐太郎に質問した。
「狼牙くんはだいぶ小さいみたいだけど、どうして学園に入学したの?」
狐太郎は顔をしかめて答えた。
「狼牙は俺よりもずっと年上だ。獣人は成長がすごくゆっくりなんだ」
亜子は驚いてしまった。狼牙はどう見ても小さな子供だ。しかし狼牙は亜子よりも年上なのだそうだ。
音子は狼牙の小さな丸い頭をしきり撫でて、ごめんねと繰り返している。狼牙は、すぐに真っ赤な目をして音子に笑いかけていた。どうやら機嫌がなおったようだ。
亜子はふと周りの視線に気がついた。他の生徒たちが息を殺して亜子たちに注意を向けていたからだ。
亜子たちと狐太郎たちがケンカにならなかったのを見て、皆ホッとしたのだろう。
ここにいるクラスメート全員は、強い妖力を持っている。いざケンカになればとんでもない被害が出るだろう。
亜子もつめていた息をフウッとはいた。
子犬から男の子になった子は火がついたように泣き出した。音子は慌てて謝っている。狐太郎は男の子に怖い顔で言った。
「狼牙!女に引っかかれたくらいで泣くな!」
狐太郎の剣幕に、亜子は驚いたが、狐太郎は男の子の傷の具合を丁寧に確認していた。音子は猫またの半妖なので、驚くと猫の鋭い爪が出てしまうのだ。
男の子の顔にはしっかりと引っかき傷があり、血がにじんでいた。亜子と音子が心配していると、狐太郎はひとり言のようにつぶやいて言った。
「目は傷ついてないな、問題ない」
狐太郎は男の子の顔に手をそえると、彼の手が輝いた。男の子の顔の傷は一瞬にして治癒してしまった。
亜子は驚きの声をあげた。狐太郎は治癒能力を使えるのだ。治癒能力はとても難しい術だ。
亜子の驚きの表情を見て取ったのだろう。狐太郎は少し顔をしかめて答えた。
「狼牙は獣人のハーフなんだ。これくらいのケガなんてすぐ治る。俺は狼牙の治癒力を底上げしただけだ」
「そうであってもすごいよ」
狐太郎のけんそんに、亜子は勢いながら言った。音子はそんな亜子たちを困ったように見て口をはさんだ。
「ねぇ。狼牙、くん?に服を着せてあげて?」
子犬から男の子に変身する狼牙は、いくら亜子たちより年下といっても、丸裸では目のやり場に困る。狐太郎はうなずいて、イスの背もたれにかけていたパーカーを狼牙に着せてやる。
狼牙はヒクヒクと鼻をすすりながら狐太郎に抱きついた。狐太郎はため息をついて狼牙を抱き上げた。狼牙は狐太郎の首に抱きついてグズグズいっている。亜子は疑問に思って狐太郎に質問した。
「狼牙くんはだいぶ小さいみたいだけど、どうして学園に入学したの?」
狐太郎は顔をしかめて答えた。
「狼牙は俺よりもずっと年上だ。獣人は成長がすごくゆっくりなんだ」
亜子は驚いてしまった。狼牙はどう見ても小さな子供だ。しかし狼牙は亜子よりも年上なのだそうだ。
音子は狼牙の小さな丸い頭をしきり撫でて、ごめんねと繰り返している。狼牙は、すぐに真っ赤な目をして音子に笑いかけていた。どうやら機嫌がなおったようだ。
亜子はふと周りの視線に気がついた。他の生徒たちが息を殺して亜子たちに注意を向けていたからだ。
亜子たちと狐太郎たちがケンカにならなかったのを見て、皆ホッとしたのだろう。
ここにいるクラスメート全員は、強い妖力を持っている。いざケンカになればとんでもない被害が出るだろう。
亜子もつめていた息をフウッとはいた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる