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あやかし学園
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校庭に集まった教師と生徒たちは口々に、飛んでいる亜子の事を話題にしていた。亜子は焦っていた。早く地面に着地して、入学式に参加しなければ。
だが飛行は、離陸は簡単だが、着陸が難しいのだ。亜子は扇で、注意深く柔らかな風を送った。背中の翼の角度を変えながら、ゆっくりと着陸体勢になる。地上の人々もかたずを飲んで見守っている。
亜子が無事着陸できなければ自分たちも被害をこうむると考えているのだろう。身体がゆっくりと地面に近づく、そこで亜子は少し気を抜いてしまった。
扇で少し大きな風をあおいでしまったのだ。亜子の身体は速度を増し、一直線に人々のかたまりに突っ込んで行った。
亜子は声にならない悲鳴をあげながら、衝撃にそなえて、きつく目をつむった。だが、いくら待っても衝撃と痛みは感じなかった。
恐る恐る目を開くと、亜子は空中に浮いていた。どうやら誰かが妖力を使って、亜子を助けてくれたようだ。
「やれやれ、神羅亜子。遅刻した上にずいぶんと派手な登校だな?」
どこからともなく亜子に声をかける者がいた。小さな子供のような可愛らしい声。亜子が眼下を見渡すと、驚いた顔の、亜子と同い年くらいの子供たちと、その前に立っている小さな五歳くらいの子供がいた。その子供は、和服を着たおかっぱ頭の可愛らしい男の子だった。
どうやらこの男の子が亜子に話しかけたようだ。亜子が驚いて男の子を見つめると、男の子は軽く右手を振るしぐさをした。すると亜子は、フワリと身体が浮き上がり、男の子の目の前に無事着地した。男の子は年齢に似合わない、慈愛のこもった笑顔で亜子に言った。
「お前さんには自己紹介がまだだったな?わしがこの学校の校長、さわらび童子じゃ」
「えっ?!ぼうやが校長先生なの?」
「これこれ、これからあやかし学園に入学する者が、見た目にとらわれてはいかん。わしはお主よりも何百年も年上なのじゃぞ?」
ほうけたように、しゃがみこんだ亜子が、男の子を見上げていると、美しい女性が亜子を助け起こしてくれた。どうやら教師のようだ。亜子は女性に礼を言って立ち上がった。
あやかし学園の校長、さわらび童子は亜子たち新入生を見回し、微笑んで言った。
「さて、ようやく新入生がそろった。話しが重複してしまうが、お主たちがこの学校に入学したのはほかでもない。お主たちが大人になった時、あやかしとして暮らすのか、はたまた人間として暮らすのか選ぶ期間でもあるのだ。お主たちは父親か母親のどちらかがあやかし。つまりお主たちは半妖なのだ。半妖とは、あやかしでもなければ人間でもない、ちゅうぶらりんな存在じゃ。だがお主らが、己はあやかしである。己は人間である、と確固たる信念を持っておれば、どんな事があってもゆらぐ事はないだろう」
そこで校長は、ふぅと小さくため息をついてから再び口を開いた。
「お主たちは、これからあやかしになるにも人間になるにも苦労が絶えないだろう。だが、今この場にいる者たちは、お主らと同じ立場の仲間じゃ。これからお互い切磋琢磨して成長してもらいたい」
校長はそこまで言い終えて、始業式が終了した。亜子たちは美しい女性教師にうながされ、寮へと足を進めた。
だが飛行は、離陸は簡単だが、着陸が難しいのだ。亜子は扇で、注意深く柔らかな風を送った。背中の翼の角度を変えながら、ゆっくりと着陸体勢になる。地上の人々もかたずを飲んで見守っている。
亜子が無事着陸できなければ自分たちも被害をこうむると考えているのだろう。身体がゆっくりと地面に近づく、そこで亜子は少し気を抜いてしまった。
扇で少し大きな風をあおいでしまったのだ。亜子の身体は速度を増し、一直線に人々のかたまりに突っ込んで行った。
亜子は声にならない悲鳴をあげながら、衝撃にそなえて、きつく目をつむった。だが、いくら待っても衝撃と痛みは感じなかった。
恐る恐る目を開くと、亜子は空中に浮いていた。どうやら誰かが妖力を使って、亜子を助けてくれたようだ。
「やれやれ、神羅亜子。遅刻した上にずいぶんと派手な登校だな?」
どこからともなく亜子に声をかける者がいた。小さな子供のような可愛らしい声。亜子が眼下を見渡すと、驚いた顔の、亜子と同い年くらいの子供たちと、その前に立っている小さな五歳くらいの子供がいた。その子供は、和服を着たおかっぱ頭の可愛らしい男の子だった。
どうやらこの男の子が亜子に話しかけたようだ。亜子が驚いて男の子を見つめると、男の子は軽く右手を振るしぐさをした。すると亜子は、フワリと身体が浮き上がり、男の子の目の前に無事着地した。男の子は年齢に似合わない、慈愛のこもった笑顔で亜子に言った。
「お前さんには自己紹介がまだだったな?わしがこの学校の校長、さわらび童子じゃ」
「えっ?!ぼうやが校長先生なの?」
「これこれ、これからあやかし学園に入学する者が、見た目にとらわれてはいかん。わしはお主よりも何百年も年上なのじゃぞ?」
ほうけたように、しゃがみこんだ亜子が、男の子を見上げていると、美しい女性が亜子を助け起こしてくれた。どうやら教師のようだ。亜子は女性に礼を言って立ち上がった。
あやかし学園の校長、さわらび童子は亜子たち新入生を見回し、微笑んで言った。
「さて、ようやく新入生がそろった。話しが重複してしまうが、お主たちがこの学校に入学したのはほかでもない。お主たちが大人になった時、あやかしとして暮らすのか、はたまた人間として暮らすのか選ぶ期間でもあるのだ。お主たちは父親か母親のどちらかがあやかし。つまりお主たちは半妖なのだ。半妖とは、あやかしでもなければ人間でもない、ちゅうぶらりんな存在じゃ。だがお主らが、己はあやかしである。己は人間である、と確固たる信念を持っておれば、どんな事があってもゆらぐ事はないだろう」
そこで校長は、ふぅと小さくため息をついてから再び口を開いた。
「お主たちは、これからあやかしになるにも人間になるにも苦労が絶えないだろう。だが、今この場にいる者たちは、お主らと同じ立場の仲間じゃ。これからお互い切磋琢磨して成長してもらいたい」
校長はそこまで言い終えて、始業式が終了した。亜子たちは美しい女性教師にうながされ、寮へと足を進めた。
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