10 / 15
戦闘記録:「殲滅者《ヘルンヴォータ》が降ってくる」
序・舞い降りる鴉羽
しおりを挟む
戦場には、ある種のお伽話が生まれるという話がある。
死と隣り合わせの戦場。戦友たちと心を交わして笑い合い。生き延びた幸運ないし悪運に、感謝や諦観を呟き合い。死の抱擁を受けた者たちを、涙と感情の奔流とで見送る。
そんな繰り返しの中で、それを恐怖と悲観して、或いは戒めとして語り継ごうと生み出された、出来事の脚色。
これから語る「それ」もまた、そう言うものの一部だった。
その日の戦闘は一方的な展開で、それ以上は何事も無く、終わろうとしていた。
それは、とある重工業企業と、そのライバルとして知られる競合相手とが、宣伝代わりとして、複数の関連会社を巻き込んで引き起こした大規模戦闘。後に「談合紛争」と呼ばれる戦いの、その一幕だった。
「楽なもんだなぁ。スポンサー様から提供されたMLが活躍して、他の兵器じゃ相手にもならん。今日は俺達、見せ場なく終わるんじゃないか?」
後方にある防衛拠点の偵察所で、防弾用のヘルメット着用した兵士の一人が、前線の様子を観察しながら、愉快そうに笑った。
その先に双眼鏡を向ければ、敵対勢力の戦車群や、戦闘ヘリの編隊相手に、数の上では劣っている数機のMLが、互角以上の戦いを展開していた。
手に持ったマシンガン型武装は絶えず火を噴き、浴びせられる機銃弾はシールドで、飛来する戦車砲は良好な機動性で、ほぼ被害なくやり過ごしている。誰の目から見てもその勝敗の行方は明らかだった。
「ほぼ弾が飛んでこない後方の防衛拠点で、あと三十分の間体張るだけで、満額の給金が貰える。最高じゃないか。本当スポンサー様様だな」
同じような恰好をした別の兵士もまた、前線に双眼鏡を向けながら愉快そうに言葉を紡ぐ。同じ場所に詰めている他の兵士たちも、二人の兵士と概ね同じ意見のようで、場には弛緩した空気が流れ始めている。
自分たちの勢力が優勢だという事と相まって、それは加速していた。
死と隣り合わせの戦場にあって、命の危険が非常に少ないという事実は、それだけで、兵士たちに安寧をもたらしてくれる。遠い砲撃の音も、自分たちの頭上に降って来ないと分かっているので、気楽なものだった。
しかし。
「ん?」
それは急に訪れた。
「あれ……?」
その変化に気が付いたのは、前線を見ていた二人の内の一人だった。
他の敵部隊が姿を消しており、何処を見ても、完全に友軍しか存在していない。その事実は兵士に取って喜ばしいことだったが、直ぐに他へ伝えようとは考えなかった。
何故なら、先ほどまで敵の戦車群や戦闘ヘリの編隊と自由気ままに戦い、蹴散らしていたはずのML部隊が、皆一様に同じ方向を見て、武装を展開していたからだ。
(なんだ?何を警戒して……?)
様子を見て、訝しんでいた兵士だったが、その答えは、文字通りに空から降って湧いてきた。
突如、空から幾条もの光線が降り注いだかと思うと、地上に展開していたML部隊の一部を、爆炎の向こう側へと消し去ってしまった。
そして、その爆炎の少し鎮まった中に、一機の、真っ黒い塗装が施された二脚型のMFが、まるで鳥が公園にでも着地するように降りたった。
手には、武器らしい武器を所持しておらず、全体として細身のシルエットで、一見、砲撃の一発でも当たればあっさりと倒せそうな印象を受ける。だが、その機体が背に装備しているパーツの動作が、それらの見解を全て、脇に押し遣ってしまった。
陽炎を伴いながら広げられたそれは、まるで鳥の翼、或いは天使の羽のようだった。
展開された一本一本の骨組み、その他の部品が見せる芸術的な噛み合わせの全てが、見る者にそういった印象を与え、錯覚させていた。
実際には、それらは無数の光学式武装の集合体だったのだが。
兵士が見惚れていると、その黒い有翼のMFは、腕部や背部パーツに光子を集束させて、複数本のエネルギーブレードを形成する。
そして、まるで天上の歌のようにも、魔獣の咆哮のようにも聞こえる駆動音を周囲に響かせると、近くに存在していたMLへと向き直った。
そこから兵士が見たものは、やはり一方的な展開だった。
友軍ML部隊へと、まるで滑空でもするように接近した黒いMFは、マシンガンによる迎撃を易々と掻い潜ると、次々とML部隊を斬壊、蹂躙していく。
ブレードに焼き切られ、赤熱した部品が次々と地面に転がり、ただの残骸にされていく様は、それが、つい先程まで圧倒的優勢を誇っていた軍集団と同じものだとは、到底思えなかった。
「……」
兵士は息を呑み、沈黙していた。いや、閉口せざるを得なかった。それほどまでに、黒いMFの戦いに圧倒されていた。
腕部ブレードが、背部の、まるで翼のような無数のブレードが、規則正しく舞い踊り、そのたびにMLや、その他の戦闘兵器群が蹴散らされていく。そのまま、最後の一機が潰されるときまで、釘付けになっていた。
しかし、そのような恐慌すべき光景を見せつけられていた兵士は、心のどこかで安心してもいた。
自分が居る場所は、戦場であっても前線ではない。つまり、その黒いMFの強大な力が、自分たちに向かってくることはない。そう言う確信があったからだ。
だが。
「!?」
次に彼が、その黒いMFへと視線を送った時。その黒いMFは。
真っ直ぐに、彼を見据えるように、その頭部を向けていた。
これは、兵士たちから「殲滅者」とあだ名されているフレームライダーが、戦場で築き上げた伝説の一つだ。
一瞬で、天国から地獄に、圧倒的優勢から劣勢に叩き落とされる。
その場にあっては、夢であって欲しいと願ってやまない話として語られたが、一方で、その圧倒的な実力にも関わらず、あまり表に出てこないために素性は不明。
それが、かの伝説を、よりお伽話として加速させた要因となっている。
現場のベテラン達からは「気を抜き過ぎると殲滅者が降ってくる」などと言う、一種の脅し文句として使われているほどであったという。
さて、ここからは、そんな伝説に巻き込まれた、あるフレームライダーの少女達の話をしよう。
その少女達の名は、一方をエッダ。もう一方をコルネールと言った。
製造依頼主から、神話に語られるような強力さと、人々の見惚れる美しさを兼ね備えた戦士として作り上げてほしいと請われ、生まれた彼女たちは、その想いに応えるように、製造当初から高い適応力を発揮し、今や名うてのフレームライダーとして、戦場を縦横無尽に駆け巡っていた。
そんな二人は今、とある企業の所有する、非戦闘地域内にある別荘地にいた。
その景観は、別荘地を名乗るだけあって、およそ万人が美しいと形容するだろう風光明媚さが誂えられている。
周囲には、古風ながらも色あせない、美しく整った街並み。前には蒼く美しい海。背後には、木こそ少ないものの勇壮な姿を誇る山が見える。
「この花、綺麗だね。コルネール」
綺麗に整備された花壇の前で、エッダが、プラチナブロンドの髪を揺らしつつ笑う。
「そうねぇ。流石はお父様の所有する別荘地。美しさもトップクラスだわ」
その横で同じものを見ていたコルネールも、同じような色の髪を揺らしつつ笑っている。
「二人とも、ここに居たのかね?」
すると、二人の背後から、一人の紳士が優しく声を掛けた。
その風貌からは、まさに上流階級のそれに相応しいと言える気品のようなものが感じられ、身に着けている衣服の微妙な野暮ったさすら、その気品の一部としていることが分かる。
彼はにっこりと笑うと。
「そろそろ、仕事の時間だよ。そこに車を回してあるから、乗りなさい」
二人に向けて、優しく、そう言った。
「はい、父さん」
「はーい、お父様ー」
エッダとコルネールは、その言葉に微笑んで立ち上がると、紳士の背後に停められている車へと向かい、乗り込んでいく。
そして、紳士が二人の後に一緒に乗り込むと、車は直ぐに発進した。
人を乗せた車は、そのまま海岸線を軽快に走ると、道の先に見えたトンネルを抜け、その向こうにある、造船所にも似た工業地へと入っていった。
「今日の仕事は、中部戦線にある、とある企業所有の防衛基地に対する救援だ。相手の数が多くて危険だから、二人の力を是非借りたいらしい」
目的地へと向かう車の中で、二人に父と呼ばれた紳士が、エッダとコルネールに今回の依頼内容について説明を始める。
「それで、今回の相手の戦力は?」
「うん。これを見ておくれ」
そう言うと紳士は、車の座席に備え付けられているモニターに、戦域図を表示した。
既に、友軍、敵軍の区別はされており、色分けでそれが解るようになっていた。
「相手には、MLもそれなりに配備されているから、二人の力で、まずはこれらを倒すことになるだろうね」
「なるほどねー。それならこの前みたいに、真ん中に一騎駆けしちゃう?相手への嫌がらせにもなるから、有効だと思うけど」
紳士の説明と、戦域図とを見比べて、コルネールが自分の見解を述べる。
「うん。少しでも強引に前に出て、依頼主の人を安心させてあげたいな」
エッダもまた、コルネールの見解に対して自分の意見を述べる。
紳士はそんな二人のやり取りを父親の顔で見守りつつ、戦域図に反映させていった。
「細かな判断は、二人に任せるけど、迎撃の中に突っ込んでいくみたいな無理は、しないようにね?」
だが、最後にはしっかりと釘も刺していく。
「はい、父さん」
「もちろん。大丈夫です。お父様」
二人は、笑って応じた。
そして。
「アルバン様。到着しました」
運転席から、専属と見られる運転手が、ゆっくりと車を停めながら、近くに座る紳士、アルバンに声を掛けた。
それを聞いたエッダ、コルネールも、アルバンと共に表情を引き締める。
「そうか。それじゃあ、帰りを待っているからね。二人とも」
その言葉に送られて、エッダとコルネールの二人は、車から降りた。
目の前には、造船所に併設される形でMFの整備工場があり、その中では、専属の整備員たちの声が響いている。
中に入ると、機械を扱う場所特有の匂いが二人を包みこむ。そして直ぐに、この場所に駐機されているMFの偉容が見えてきた。
真っ黒に塗装された装甲で覆われ、背部に折り畳まれた翼のような武装を持つ、細身の二脚型MFの姿が。
死と隣り合わせの戦場。戦友たちと心を交わして笑い合い。生き延びた幸運ないし悪運に、感謝や諦観を呟き合い。死の抱擁を受けた者たちを、涙と感情の奔流とで見送る。
そんな繰り返しの中で、それを恐怖と悲観して、或いは戒めとして語り継ごうと生み出された、出来事の脚色。
これから語る「それ」もまた、そう言うものの一部だった。
その日の戦闘は一方的な展開で、それ以上は何事も無く、終わろうとしていた。
それは、とある重工業企業と、そのライバルとして知られる競合相手とが、宣伝代わりとして、複数の関連会社を巻き込んで引き起こした大規模戦闘。後に「談合紛争」と呼ばれる戦いの、その一幕だった。
「楽なもんだなぁ。スポンサー様から提供されたMLが活躍して、他の兵器じゃ相手にもならん。今日は俺達、見せ場なく終わるんじゃないか?」
後方にある防衛拠点の偵察所で、防弾用のヘルメット着用した兵士の一人が、前線の様子を観察しながら、愉快そうに笑った。
その先に双眼鏡を向ければ、敵対勢力の戦車群や、戦闘ヘリの編隊相手に、数の上では劣っている数機のMLが、互角以上の戦いを展開していた。
手に持ったマシンガン型武装は絶えず火を噴き、浴びせられる機銃弾はシールドで、飛来する戦車砲は良好な機動性で、ほぼ被害なくやり過ごしている。誰の目から見てもその勝敗の行方は明らかだった。
「ほぼ弾が飛んでこない後方の防衛拠点で、あと三十分の間体張るだけで、満額の給金が貰える。最高じゃないか。本当スポンサー様様だな」
同じような恰好をした別の兵士もまた、前線に双眼鏡を向けながら愉快そうに言葉を紡ぐ。同じ場所に詰めている他の兵士たちも、二人の兵士と概ね同じ意見のようで、場には弛緩した空気が流れ始めている。
自分たちの勢力が優勢だという事と相まって、それは加速していた。
死と隣り合わせの戦場にあって、命の危険が非常に少ないという事実は、それだけで、兵士たちに安寧をもたらしてくれる。遠い砲撃の音も、自分たちの頭上に降って来ないと分かっているので、気楽なものだった。
しかし。
「ん?」
それは急に訪れた。
「あれ……?」
その変化に気が付いたのは、前線を見ていた二人の内の一人だった。
他の敵部隊が姿を消しており、何処を見ても、完全に友軍しか存在していない。その事実は兵士に取って喜ばしいことだったが、直ぐに他へ伝えようとは考えなかった。
何故なら、先ほどまで敵の戦車群や戦闘ヘリの編隊と自由気ままに戦い、蹴散らしていたはずのML部隊が、皆一様に同じ方向を見て、武装を展開していたからだ。
(なんだ?何を警戒して……?)
様子を見て、訝しんでいた兵士だったが、その答えは、文字通りに空から降って湧いてきた。
突如、空から幾条もの光線が降り注いだかと思うと、地上に展開していたML部隊の一部を、爆炎の向こう側へと消し去ってしまった。
そして、その爆炎の少し鎮まった中に、一機の、真っ黒い塗装が施された二脚型のMFが、まるで鳥が公園にでも着地するように降りたった。
手には、武器らしい武器を所持しておらず、全体として細身のシルエットで、一見、砲撃の一発でも当たればあっさりと倒せそうな印象を受ける。だが、その機体が背に装備しているパーツの動作が、それらの見解を全て、脇に押し遣ってしまった。
陽炎を伴いながら広げられたそれは、まるで鳥の翼、或いは天使の羽のようだった。
展開された一本一本の骨組み、その他の部品が見せる芸術的な噛み合わせの全てが、見る者にそういった印象を与え、錯覚させていた。
実際には、それらは無数の光学式武装の集合体だったのだが。
兵士が見惚れていると、その黒い有翼のMFは、腕部や背部パーツに光子を集束させて、複数本のエネルギーブレードを形成する。
そして、まるで天上の歌のようにも、魔獣の咆哮のようにも聞こえる駆動音を周囲に響かせると、近くに存在していたMLへと向き直った。
そこから兵士が見たものは、やはり一方的な展開だった。
友軍ML部隊へと、まるで滑空でもするように接近した黒いMFは、マシンガンによる迎撃を易々と掻い潜ると、次々とML部隊を斬壊、蹂躙していく。
ブレードに焼き切られ、赤熱した部品が次々と地面に転がり、ただの残骸にされていく様は、それが、つい先程まで圧倒的優勢を誇っていた軍集団と同じものだとは、到底思えなかった。
「……」
兵士は息を呑み、沈黙していた。いや、閉口せざるを得なかった。それほどまでに、黒いMFの戦いに圧倒されていた。
腕部ブレードが、背部の、まるで翼のような無数のブレードが、規則正しく舞い踊り、そのたびにMLや、その他の戦闘兵器群が蹴散らされていく。そのまま、最後の一機が潰されるときまで、釘付けになっていた。
しかし、そのような恐慌すべき光景を見せつけられていた兵士は、心のどこかで安心してもいた。
自分が居る場所は、戦場であっても前線ではない。つまり、その黒いMFの強大な力が、自分たちに向かってくることはない。そう言う確信があったからだ。
だが。
「!?」
次に彼が、その黒いMFへと視線を送った時。その黒いMFは。
真っ直ぐに、彼を見据えるように、その頭部を向けていた。
これは、兵士たちから「殲滅者」とあだ名されているフレームライダーが、戦場で築き上げた伝説の一つだ。
一瞬で、天国から地獄に、圧倒的優勢から劣勢に叩き落とされる。
その場にあっては、夢であって欲しいと願ってやまない話として語られたが、一方で、その圧倒的な実力にも関わらず、あまり表に出てこないために素性は不明。
それが、かの伝説を、よりお伽話として加速させた要因となっている。
現場のベテラン達からは「気を抜き過ぎると殲滅者が降ってくる」などと言う、一種の脅し文句として使われているほどであったという。
さて、ここからは、そんな伝説に巻き込まれた、あるフレームライダーの少女達の話をしよう。
その少女達の名は、一方をエッダ。もう一方をコルネールと言った。
製造依頼主から、神話に語られるような強力さと、人々の見惚れる美しさを兼ね備えた戦士として作り上げてほしいと請われ、生まれた彼女たちは、その想いに応えるように、製造当初から高い適応力を発揮し、今や名うてのフレームライダーとして、戦場を縦横無尽に駆け巡っていた。
そんな二人は今、とある企業の所有する、非戦闘地域内にある別荘地にいた。
その景観は、別荘地を名乗るだけあって、およそ万人が美しいと形容するだろう風光明媚さが誂えられている。
周囲には、古風ながらも色あせない、美しく整った街並み。前には蒼く美しい海。背後には、木こそ少ないものの勇壮な姿を誇る山が見える。
「この花、綺麗だね。コルネール」
綺麗に整備された花壇の前で、エッダが、プラチナブロンドの髪を揺らしつつ笑う。
「そうねぇ。流石はお父様の所有する別荘地。美しさもトップクラスだわ」
その横で同じものを見ていたコルネールも、同じような色の髪を揺らしつつ笑っている。
「二人とも、ここに居たのかね?」
すると、二人の背後から、一人の紳士が優しく声を掛けた。
その風貌からは、まさに上流階級のそれに相応しいと言える気品のようなものが感じられ、身に着けている衣服の微妙な野暮ったさすら、その気品の一部としていることが分かる。
彼はにっこりと笑うと。
「そろそろ、仕事の時間だよ。そこに車を回してあるから、乗りなさい」
二人に向けて、優しく、そう言った。
「はい、父さん」
「はーい、お父様ー」
エッダとコルネールは、その言葉に微笑んで立ち上がると、紳士の背後に停められている車へと向かい、乗り込んでいく。
そして、紳士が二人の後に一緒に乗り込むと、車は直ぐに発進した。
人を乗せた車は、そのまま海岸線を軽快に走ると、道の先に見えたトンネルを抜け、その向こうにある、造船所にも似た工業地へと入っていった。
「今日の仕事は、中部戦線にある、とある企業所有の防衛基地に対する救援だ。相手の数が多くて危険だから、二人の力を是非借りたいらしい」
目的地へと向かう車の中で、二人に父と呼ばれた紳士が、エッダとコルネールに今回の依頼内容について説明を始める。
「それで、今回の相手の戦力は?」
「うん。これを見ておくれ」
そう言うと紳士は、車の座席に備え付けられているモニターに、戦域図を表示した。
既に、友軍、敵軍の区別はされており、色分けでそれが解るようになっていた。
「相手には、MLもそれなりに配備されているから、二人の力で、まずはこれらを倒すことになるだろうね」
「なるほどねー。それならこの前みたいに、真ん中に一騎駆けしちゃう?相手への嫌がらせにもなるから、有効だと思うけど」
紳士の説明と、戦域図とを見比べて、コルネールが自分の見解を述べる。
「うん。少しでも強引に前に出て、依頼主の人を安心させてあげたいな」
エッダもまた、コルネールの見解に対して自分の意見を述べる。
紳士はそんな二人のやり取りを父親の顔で見守りつつ、戦域図に反映させていった。
「細かな判断は、二人に任せるけど、迎撃の中に突っ込んでいくみたいな無理は、しないようにね?」
だが、最後にはしっかりと釘も刺していく。
「はい、父さん」
「もちろん。大丈夫です。お父様」
二人は、笑って応じた。
そして。
「アルバン様。到着しました」
運転席から、専属と見られる運転手が、ゆっくりと車を停めながら、近くに座る紳士、アルバンに声を掛けた。
それを聞いたエッダ、コルネールも、アルバンと共に表情を引き締める。
「そうか。それじゃあ、帰りを待っているからね。二人とも」
その言葉に送られて、エッダとコルネールの二人は、車から降りた。
目の前には、造船所に併設される形でMFの整備工場があり、その中では、専属の整備員たちの声が響いている。
中に入ると、機械を扱う場所特有の匂いが二人を包みこむ。そして直ぐに、この場所に駐機されているMFの偉容が見えてきた。
真っ黒に塗装された装甲で覆われ、背部に折り畳まれた翼のような武装を持つ、細身の二脚型MFの姿が。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
New Page on-line
腹減り雀
SF
細かい処まで徹底的に作り込み、既存の物を遥かに凌駕すると豪語したVRmmoがサービスを開始する。
友達に誘われて始める、どこまでも自分の道を行く無自覚暴走娘のVRmmoプレイ日記。
いざ、暴走開始。
未来世界に戦争する為に召喚されました
あさぼらけex
SF
西暦9980年、人類は地球を飛び出し宇宙に勢力圏を広めていた。
人類は三つの陣営に別れて、何かにつけて争っていた。
死人が出ない戦争が可能となったためである。
しかし、そのシステムを使う事が出来るのは、魂の波長が合った者だけだった。
その者はこの時代には存在しなかったため、過去の時代から召喚する事になった。
…なんでこんなシステム作ったんだろ?
な疑問はさておいて、この時代に召喚されて、こなす任務の数々。
そして騒動に巻き込まれていく。
何故主人公はこの時代に召喚されたのか?
その謎は最後に明らかになるかも?
第一章 宇宙召喚編
未来世界に魂を召喚された主人公が、宇宙空間を戦闘機で飛び回るお話です。
掲げられた目標に対して、提示される課題をクリアして、
最終的には答え合わせのように目標をクリアします。
ストレスの無い予定調和は、暇潰しに最適デス!
(´・ω・)
第二章 惑星ファンタジー迷走編 40話から
とある惑星での任務。
行方不明の仲間を探して、ファンタジーなジャンルに迷走してまいます。
千年の時を超えたミステリーに、全俺が涙する!
(´・ω・)
第三章 異次元からの侵略者 80話から
また舞台を宇宙に戻して、未知なる侵略者と戦うお話し。
そのつもりが、停戦状態の戦線の調査だけで、終わりました。
前章のファンタジー路線を、若干引きずりました。
(´・ω・)
第四章 地球へ 167話くらいから
さて、この時代の地球は、どうなっているのでしょう?
この物語の中心になる基地は、月と同じ大きさの宇宙ステーションです。
その先10億光年は何もない、そんな場所に位置してます。
つまり、銀河団を遠く離れてます。
なぜ、その様な場所に基地を構えたのか?
地球には何があるのか?
ついにその謎が解き明かされる!
はるかな時空を超えた感動を、見逃すな!
(´・ω・)
主人公が作者の思い通りに動いてくれないので、三章の途中から、好き勝手させてみました。
作者本人も、書いてみなければ分からない、そんな作品に仕上がりました。
ヽ(´▽`)/
腐りかけの果実
しゃむしぇる
ファンタジー
時は現代、西暦2085年
突如として蔓延した凶悪な疫病により世界各国にて大規模なロックダウンや物流の制限などが行われ、経済難の数か国では危機的な食糧難に陥っていた。
食糧難に陥った国は自国での食料の生産が追い付かず、輸入にも頼れないため最終手段として隣接している国へと進軍し食料を奪い取るという手段に出始める。その結果世界各地で戦争が勃発していた。
その戦争に身を投じ、クライアントの依頼をこなす二人の傭兵エリーとメイは、ある時日本政府から「吸血鬼」と呼称される者の確保を依頼される。
そのことをきっかけに二人は水面下で動く異形の者たちと相対してゆくことになるのだった。
※この作品は「カクヨム」様および「小説家になろう」様でも投稿しています。
―連載中―
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
空色のサイエンスウィッチ
コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』
高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》
彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。
それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。
そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。
その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。
持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。
その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。
そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。
魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。
※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。
※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。
※2022/10/25 完結まで投稿しました。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
スプラヴァン!
鳳
SF
西暦2100年。
日本の夏季は50℃付近に達し、超高温注意報が発令される。
異常な熱波で熱中症による外への行動制限が過剰にかかり、
日本各地であらゆるスポーツが中止されてゆく中、
政府はウォーターバトルフィールド開催を宣言。
水鉄砲で打ち合うスポーツを行う壮大な水打ち計画を実施した。
多くの人たちがイベントに乗じて打ち合い、冷涼に愉快する。
体力不足を補おうと、全国学校の科目としても登録。
あたかも、水のごとく国の中に浸透し続けていった。
一方、トウキョウ内で成績が上がらない学校があり、
エアコンに浸りきった気分でうだつが上がらずに向上心もなくなる
児童たちもふえてゆく。
どうにもならず無力にふぬけたところ、1人の転校生がやってきた。
同じく各地方で水にふれ合う者たちも様々な出来事に
巡り会い、少年、少女時代の一時を熱風にゆられて送る。
あの日、楽しかった夏へ。ありえたかもしれない水物語。
この作品は7月1日~8月31日の間のみ投稿します。
季節に合わせて是非お読み下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる