【完結】初恋の人の弟。

とりひな

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答えとその証明

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 雅弥が素っ頓狂な声を上げて、変な顔をしている。各方面からイケメンと称された顔面が台無しだった。まあ、わかる。今までの私の言動からしてそうなってしまうのはわかる。
 きり、と私は顔を引き締めた。靴を脱いでソファの上に正座する。

「最初から説明いたしてもよろしいでしょうか」

 私が真剣な声音で言えば、雅弥も居住まいを正してくれた。

「……拝聴いたします」

 私たちは互いに頷いた。
 私はあの日何があったかを語り始めた。雅弥と言い合いした後、自分も悪かったと反省したこと。少しの期待を抱いて篤哉くんに告白をしに行ったこと。途中雅弥が何かしら微妙そうだったり不満げだったりな様子でぶつぶつ言っていたけれど(よく聞き取れなかったので内容はわからない)、私の言葉ひとつひとつに耳を傾けてしっかりと話を聴いてくれている。例えどんな無駄話でも長話でもだ。私は話の要領を得ないことがよくあって、ダラダラと話が長くなってしまうことが多い。けれど雅弥はなんやかんや文句を言いつつも、結局はちゃんと話を聴いてくれるのだ。今めちゃくちゃ渋い顔をしているけれど。
 篤哉くんのどんなところが好きかを挙げて告白したものの反応がイマイチだったこと、その後の篤哉くんのゲス発言についての話になったとき雅弥の顔は怒りに染まった。

「あんのクズ兄貴……っ」

 怖い怖い怖い!初めて見たんだけど、アンタのそんな顔!私のためにそんなに怒ってくれるのかと思うとちょっとにやけてしまいそうだ。……んん?何でにやけてしまいそうになるんだろう。疑問は浮かんだものの一旦頭の隅に追いやって私は話を続ける。

「で、抱いてあげるって言われて触られた時に」

 その瞬間、雅弥が表情をなくした。そして突然ソファから立ち上がる。

「ま、雅弥?どうしたの急に」
「今からアイツを殺しに行ってくる」

 マジトーンである。
 怖い怖い怖い!雅弥こんな暴走するタイプだったっけ!?
 私は焦って雅弥の腕にしがみついた。

「ままま待って待って!殺人反対!!」

 すると雅弥が私に向かって微笑……めてない。目が笑ってない。目がヤバイ。奥に闇が宿っている気がする。

「おまえがそう言うなら……腕と股間に生えてるモンを切り落とすだけに」
「傷害ざーーーーい!それ傷害罪!!ダメです!!!とりあえず私の話の続き聞いてほしいなー!!!」

 ね?ね?と上目遣いでお願いしてみれば、雅弥は私と共に大人しくソファに腰を下ろした。私はほっと胸を撫で下ろす。雅弥がじっと私を見つめてくる。クイっと顎をしゃくった。続きを話せと言うことだろう。

「で、とにかく触られた瞬間ゾッとして気持ち悪くて鳥肌が立って」

 ギリ、と雅弥が歯噛みした音がした。目には更に怒りの色を宿している。私のために怒ってくれてるのだろうと思うと胸が温かくなった。雅弥の顔は凶悪になっているけれど。

「好きだったはずなのに、ずっと好きだったはずなのに……無遠慮に触れてこられてただただ嫌で。そのときにね」

 私は雅弥のシャツをぎゅっと掴んだ。

「雅弥はこんなふうにしなかったのにじゃないのにって、思って……雅弥は私にもっともっと大事に触れてくれるのにって」
「え……」

 雅弥の顔から怒気が一気に抜け、ポカンとしたものに変わる。何言われたんだ今?とでもいうような顔だ。ちょっとかわいい。

「そう思ったら私の拳がいつのまにか篤哉くんの鳩尾を抉ってた」
「急にバイオレンスだな!?」

 雅弥がツッコミを入れてきた。いつもの雅弥に戻ったようだ。

「篤哉くんが言ってた」
「……」
「私をこっそり助けてくれてたのは全部雅弥だったって。じゃあ私の好きなのって結局誰だったのかわからなくなって。で、とりあえずまずはアンタと話してみてから考えようと思ったら……行方不明になるし、連絡は取れないし」

 私がジト目で雅弥を見上げると、雅弥は目を泳がせた。

「やっと見つけたと思ったらキャピ子に腕をおっぱいサンドされてるし、態度は冷たいし」

 そしてバツの悪そうな顔になる。

「キャピ子に正論(?)言われて自己嫌悪でヘコんでたら冷たい態度だったはずのアンタが庇ってくれるしで色んな意味で泣きそうになるし」
「ごめ、」
「雅弥が知らない子とイチャイチャしてたのにも冷たい態度だったのにもショック受けたけど、庇ってくれて嬉しくて泣きそうになったり」

 私は自分で自分の気持ちがわからなくなった、そう思っていた。だけど。雅弥が離れていって寂しくて、他の娘とイチャつかれてたら悲しくて、冷たくされたら傷ついて。いつもの優しさを感じられた時に嬉しくて。雅弥の口から好きって言ってもらえて胸が高鳴って、雅弥の口から篤哉くんに抱かれたのかとか思いを遂げられてよかったなと告げられて傷ついて泣いてしまった。それからも話を続けていく上で雅弥が私のために怒ってくれたりするのが嬉しかったとか、もう私の中でとっくに答えが出ているではないか。そこから導き出される答えはひとつだ。

「やっと分かったよ」

 雅弥が私を見つめて息を呑む。私は雅弥から目を逸らさずに口を開く。

「私、雅弥が好き」
「……っ」

 雅弥の瞳が揺れる。ゆっくりと私の頬へと手を伸ばし、触れる前にその手を引っ込めた。

「雅弥?」
「……俺が触っても嫌じゃない、か?」

 心配そうに問われ、私はフッと笑う。

「さっきから私から触ってるのに嫌がると思う?」
「幼馴染特典だろ、そんなの」

 拗ねたように言われて、ますますおかしくなってくる。

「篤哉くんも幼馴染だけど、触られるのめちゃくちゃ嫌だったよ」
「そりゃ、俺の方が一緒にずっといたから耐性があるだけとか」

 雅弥はイマイチ私の気持ちが信じられないらしい。それはそうだろう。非常に申し訳ないと思う。だけどこのままだと埒が明かないので実力行使に出ることにした。私の気持ちを分からせてやろうではないか!

「雅弥」

 私は雅弥の顔を両手で挟んだ。目を閉じてゆっくりと自分の顔を近づける。

「り、」

 トゥルルルルルルルルルル!
 
 唇があと少しで重なるというところで壁に備え付けられたインターフォンがけたたましく鳴った。

「……」
「……」

 私は無言で雅弥から身を離す。雅弥も無言で立ち上がるとインターフォンの受話器を取った。

「はい」
『残り時間10分となりましたぁ!延長はなさいますかぁ!?』
「……いや、いいです」
『では10分以内に会計カウンターにお願いしまぁす!』
「あ、はい」
『ガチャン!』

 雅弥がそっと受話器を戻して私を振り返る。

「……帰るか」
「……そうだね」

 微妙な雰囲気の中、私たちはカラオケルームを後にすることになったのだった。 
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