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本編

第24話 苦手意識、高まる

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 都村と映画に行った翌週の月曜日。柊夜が聴講予定の講義は二限からだったのでのんびりと大学に向かう。その講義は仲の良い友人が受講していないため、柊夜は気に入りの席で時折外を眺めながらまったり講義を聴いている。教室に入ってまず確認するのは気に入りの席が空いているかどうかだ。

(よし、空いてる空いてる)

 空席だったのでその席に向かう。座るべく椅子を引こうとして異変に気がついた。椅子が動かない。押しても引いてもだ。まるでボンドで固定されたかのように。

(まさかな)

 動かないものは仕方がないので前の席に行くことにする。座る前に椅子の上に大量の消しカスが乗っているのを発見した。払って床に落とすのもどうかと思うので、手を受け皿にしてカスを集めてゴミ箱まで捨てに行く。席に戻って今度こそ着席し、講義が始まるまでぼんやりと外を眺めた。気に入りの席の椅子が動かなくなっていることは学生課にでも訴えておけば良いかなと思いながら。
 昼食の時間になり中庭の気に入りポイントで持参した大きめのおにぎりを取り出して膝の上に乗せる。朝がゆっくりだったため自分でこしらえてきたのだ。具材はそれぞれツナマヨ、梅しそ昆布、鮭フレーク、おかかだ。三角に結んで焼き海苔で巻いてある。天気がいい日に外で食べる昼食は最高だ。ちょっとしたピクニック気分を味わえる。途中のコンビニで買ってきた紙パックの『ウヒョォぉい!お茶』にストローを突き刺す。除菌ウェットティッシュで手を拭きいざ実食というところで、どこからかバスケットボールが勢いよく飛んできた。結構な威力であったが、元バスケ部である柊夜は難なくそれをキャッチする。しかし誰かが謝罪しに来ることもボールを取りに来ることもない。周囲を見回してもバスケをやっていそうな集団は見当たらない。
 バスケットボールを横に置き、再び除菌ウェットティッシュで手を拭うと柊夜はおにぎりをもさもさと食べ始めた。ぽかぽか陽気が気持ちいい。一つ目のおにぎりを平らげ二つ目のおにぎりのラップをペリペリと剥がしつつ、先ほど横に置いたバスケットボールを見やる。久しぶりのボールの感触にバスケがやりたくなってきたなと思いながら時々お茶を啜りつつひたすら持参のおにぎりを食べ続けた。
 昼食を済ませた柊夜はボールと動かなくなった椅子についてを学生課で報告すると、午後の講義に向かった。教室に入ろうとしたところで人が急に飛び出してきたのでさっと避ける。飛び出してきた女子は思い切りすっ転んだ。正直自業自得だろうとは思いつつも腰を低くして転んだ女子に手を差し伸べる。

「えと、大丈夫、すか」

 ぎこちなく声をかけると、その女子は柊夜が差し出した手を勢いよく払い除けた。さらに射殺すような目で睨んでくる。

「あんたが避けたせいで転んじゃったじゃない! 最っっっ悪!!! 何で避けるのよ!」
「……えええ……?」

 柊夜はドン引きした。完全に言いがかりである。猛スピードで突っ込んで来るのが見えたら避けるのが普通だ。自分は悪くないと思う。それなのにその女子がキーキーと喚いてきてゲンナリとした気持ちになる。だが、言うべきことはきちんと言っておかねばならない。

「あの」
「何よ!!」
「危ないんで、その、飛び出すのとかやめた方がいいですよ。……人の迷惑になるんで」
「うっさいわね! フンッ!!!」

 柊夜が注意すると、その女子ーーーー瀬田明日香は鼻息荒く立ち去っていった。柊夜はその姿を見送った後、大きく溜息を吐く。受講前だと言うのに随分と疲れてしまった。ますます女子への苦手意識を植え付けられた柊夜だった。






「明日香、ダメじゃない。あんなにキレ散らかしたら周囲に変に思われるでしょ?」
「だってぇ~あいつのせいで痛い思いしたんだよ?」

 肩を怒らせ鼻息荒く瀬田明日香が廊下を歩いていると、その途中で壁に背中を預けた都村親衛隊メンバーである織田吉乃に呼び止められる。明日香が柊夜に攻撃しようとしていなされてしまったところを一部始終目撃していたようで、明日香にダメ出しをしてきた。明日香の行動は傍から見れば一般人に因縁をつけるヤンキーのようだった。あれでは逆に明日香の立場が悪くなってしまう。親衛隊の立場が悪化しかねない。

「あくまで周囲にはバレないようにしないと、どこから藤真くんの耳に入るかわからないんだから」

 吉乃が明日香に諭す。

「……」

 不満なのか、明日香は吉野から目を逸らし無言で頬を大きく膨らませた。そしてボソリとこぼす。だってむかつくんだもん、と。反省のない様子に吉乃は大きく溜息を吐く。

「……藤真くんに嫌われてもいいの?」
「や、やだっ! いや! 絶対!」

 明日香は力一杯反論した。目に涙を浮かべながら。
 
「じゃあちゃんとして。バレないように、柏木くんを藤真くんから遠ざけるの。だからさっきみたいに人目があるところでやっちゃダメ……わかったわね?」
「わかったよぉ」

 明日香がスンスンと鼻を啜りながら吉乃の言葉に頷く。吉乃は明日香の頭をポンポンと叩いた。

「じゃあ、作戦を練りに寛也たちのとこに行くよ」
「うん」

 吉乃が手を差し出し、明日香がその手を取る。二人は柊夜への嫌がらせの作戦会議をするべく親衛隊仲間の元へと向かった。


 


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