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本編
第19話 嫌いと苦手はイコールではない
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「シュウくんってさ、女嫌いなの?」
「んあ?」
柊夜が学内のカフェテリアで本日のランチCセットのメニューであるクラブハウスサンドにかぶりつこうとしたところで、向かいに座った都村がコーヒーを飲みつつじっと見つめながら問うてきた。
柊夜は都村と手元のクラブハウスサンドを見比べ、僅かに逡巡する。都村の顔は今日も今日とていいお顔であるし、クラブハウスサンドのトーストの香ばしさ、間に挟まれたレタスやトマトとキュウリのみずみずしさ、少し厚めの焼き玉子、そしてローストビーフのぎっしりさが食欲を誘う。
「……………………」
徐にクラブハウスサンドにかぶりついて、無表情のまま黙々と咀嚼した。好みの味付けとは異なるが、これはこれで悪くはないかなどと思いつつ嚥下する。コップを手に取り水を一口飲んでから柊夜はようやく返事をした。
「別に嫌いじゃないけど」
「……今オレよりサンドウィッチを優先したね?」
「サンドウィッチは時間との勝負だからな」
野菜の水分によるパンへの侵攻はすでに始まっているのだーーーー柊夜が真面目な顔でそう語れば、都村は噴き出した。その後もなんとか笑いを堪えようとするも堪えきれず、彼の両肩はぶるぶると震えている。柊夜たちの様子を周辺で窺っていた学生たちはその姿に驚愕した。常に悠然と微笑む都村の笑い崩れる姿など目にしたこともなければ、想像すらしたことがないからだ。
「震えすぎじゃね?」
「ゴホッ……ンンッ! ……シュウくんに会いた過ぎたからかな?」
笑い過ぎて呼吸困難気味だったところをどうにか立て直した都村はテーブルで頬杖をつくと、柊夜へ爽やかな笑みを向ける。しかしその目には薄っすらと涙が浮かんでいた。苦しかったのだろう。
「ツボに入っただけだろうが」
涙出てんぞ、と柊夜は身を乗り出しランチセットについていたおしぼり(使用済)で都村の目元を拭う。俄にカフェテリア内がざわついた。当の本人は礼を述べつつされるがままになっているが、流石におしぼり(使用済)で学内の王子の顔を拭いたのは雑すぎてファンから反感でも買ってしまっただろうか。失敗したな……などと思いつつ、柊夜は手を引っ込める。
「で、何? 質問の意図は」
「ああ。女の子嫌いならオレにもチャンスあるよねって言おうと思って」
「……嫌いではない」
「でも、苦手だよね?」
都村が小首を傾げた。断言されて柊夜は言葉を詰まらせる。テーブルに置かれたピッチャーを手に取り空になっているコップに水を注ぐと、それを掴んで一気に中身を飲み干した。
「何でそう思った?」
都村を見据えて問いかける。
「女の子とほとんど話してないし、たまに話してても事務的に感じたからかな。ああ、バイト先のお姉さんたちとは楽しそうに話してたけど、それは特別ケースのように見えたというか」
そんなに分かりやすかったのか、はたまた都村が観察力に優れているのか。何にしても言い当てられていることには変わりがなかった。
柊夜は基本的に女子が苦手と言ってもいい。イメチェンをする前の柊夜は前髪が長めで目元は隠れていた。幼稚園の頃同じ組の可愛いと評判の女の子から『目が変!!』と馬鹿にされ傷ついてからは隠すようになった。実際のところはその女の子が『自分よりも柊夜がさらに可愛い』と言われていたことに対する嫉妬から発された言葉だったのだが、柊夜がそれを知る由もない。
前髪で目元を隠してはいるものの柊夜は活発に育った。前髪が長いと遊ぶ時には邪魔なため、上げたりピンで留めたりしていたので男子は柊夜が整った顔立ちだと知っている。しかし女子の前では前髪が下されたままなのでただの地味メンに見えており、用もないのに積極的に話しかけてくる女子などほぼ居なかった。話すことがなければどう話していいかなど分からなくなるもので、いつしか女子と話すことが苦手になった。元彼女である中野あずさが積極的に話しかけてきてくれたおかげで多少女子と話すことに慣れたのは良かったが、先日のバイト先における逆ナンパ事件により女子に対する苦手意識が強くなった。女子の全てがあずさのような考え方や行動をするわけではないと解ってはいても、今現在仲が良い女性陣以外への警戒はどうしても高まってしまう。今後優しい女性とじっくり関係を深めていけば、その相手にはやがて警戒心もなくなっていくだろう。だから、『女嫌い』とは言えない。あくまで『苦手』なのだ。
「正解?」
「……正解」
「やった。当てたからご褒美欲しいな」
「はあ?」
「映画、一緒に行こう?」
都村がピラリと映画のチケットを二枚出す。そこに書かれていたのは。
「あ、それ」
「シュウくんも好きでしょう?この作品」
以前趣味の話で都村と盛り上がった中で話題に出てきた作品の続編。柊夜も近いうちに観に行こうと思っていた映画だ。公開をとても楽しみにしていたのだ。
「一緒に観に行って、帰りにカフェとかで感想言い合いたいなと思って。どうかな」
「行く!!!」
柊夜は一も二もなく頷いた。
「じゃあ決まりだね、楽しみだな。いつにしようか」
都村が嬉しそうに微笑む。映画に行く日取りを決めると、二人はカフェテリアを後にした。
「んあ?」
柊夜が学内のカフェテリアで本日のランチCセットのメニューであるクラブハウスサンドにかぶりつこうとしたところで、向かいに座った都村がコーヒーを飲みつつじっと見つめながら問うてきた。
柊夜は都村と手元のクラブハウスサンドを見比べ、僅かに逡巡する。都村の顔は今日も今日とていいお顔であるし、クラブハウスサンドのトーストの香ばしさ、間に挟まれたレタスやトマトとキュウリのみずみずしさ、少し厚めの焼き玉子、そしてローストビーフのぎっしりさが食欲を誘う。
「……………………」
徐にクラブハウスサンドにかぶりついて、無表情のまま黙々と咀嚼した。好みの味付けとは異なるが、これはこれで悪くはないかなどと思いつつ嚥下する。コップを手に取り水を一口飲んでから柊夜はようやく返事をした。
「別に嫌いじゃないけど」
「……今オレよりサンドウィッチを優先したね?」
「サンドウィッチは時間との勝負だからな」
野菜の水分によるパンへの侵攻はすでに始まっているのだーーーー柊夜が真面目な顔でそう語れば、都村は噴き出した。その後もなんとか笑いを堪えようとするも堪えきれず、彼の両肩はぶるぶると震えている。柊夜たちの様子を周辺で窺っていた学生たちはその姿に驚愕した。常に悠然と微笑む都村の笑い崩れる姿など目にしたこともなければ、想像すらしたことがないからだ。
「震えすぎじゃね?」
「ゴホッ……ンンッ! ……シュウくんに会いた過ぎたからかな?」
笑い過ぎて呼吸困難気味だったところをどうにか立て直した都村はテーブルで頬杖をつくと、柊夜へ爽やかな笑みを向ける。しかしその目には薄っすらと涙が浮かんでいた。苦しかったのだろう。
「ツボに入っただけだろうが」
涙出てんぞ、と柊夜は身を乗り出しランチセットについていたおしぼり(使用済)で都村の目元を拭う。俄にカフェテリア内がざわついた。当の本人は礼を述べつつされるがままになっているが、流石におしぼり(使用済)で学内の王子の顔を拭いたのは雑すぎてファンから反感でも買ってしまっただろうか。失敗したな……などと思いつつ、柊夜は手を引っ込める。
「で、何? 質問の意図は」
「ああ。女の子嫌いならオレにもチャンスあるよねって言おうと思って」
「……嫌いではない」
「でも、苦手だよね?」
都村が小首を傾げた。断言されて柊夜は言葉を詰まらせる。テーブルに置かれたピッチャーを手に取り空になっているコップに水を注ぐと、それを掴んで一気に中身を飲み干した。
「何でそう思った?」
都村を見据えて問いかける。
「女の子とほとんど話してないし、たまに話してても事務的に感じたからかな。ああ、バイト先のお姉さんたちとは楽しそうに話してたけど、それは特別ケースのように見えたというか」
そんなに分かりやすかったのか、はたまた都村が観察力に優れているのか。何にしても言い当てられていることには変わりがなかった。
柊夜は基本的に女子が苦手と言ってもいい。イメチェンをする前の柊夜は前髪が長めで目元は隠れていた。幼稚園の頃同じ組の可愛いと評判の女の子から『目が変!!』と馬鹿にされ傷ついてからは隠すようになった。実際のところはその女の子が『自分よりも柊夜がさらに可愛い』と言われていたことに対する嫉妬から発された言葉だったのだが、柊夜がそれを知る由もない。
前髪で目元を隠してはいるものの柊夜は活発に育った。前髪が長いと遊ぶ時には邪魔なため、上げたりピンで留めたりしていたので男子は柊夜が整った顔立ちだと知っている。しかし女子の前では前髪が下されたままなのでただの地味メンに見えており、用もないのに積極的に話しかけてくる女子などほぼ居なかった。話すことがなければどう話していいかなど分からなくなるもので、いつしか女子と話すことが苦手になった。元彼女である中野あずさが積極的に話しかけてきてくれたおかげで多少女子と話すことに慣れたのは良かったが、先日のバイト先における逆ナンパ事件により女子に対する苦手意識が強くなった。女子の全てがあずさのような考え方や行動をするわけではないと解ってはいても、今現在仲が良い女性陣以外への警戒はどうしても高まってしまう。今後優しい女性とじっくり関係を深めていけば、その相手にはやがて警戒心もなくなっていくだろう。だから、『女嫌い』とは言えない。あくまで『苦手』なのだ。
「正解?」
「……正解」
「やった。当てたからご褒美欲しいな」
「はあ?」
「映画、一緒に行こう?」
都村がピラリと映画のチケットを二枚出す。そこに書かれていたのは。
「あ、それ」
「シュウくんも好きでしょう?この作品」
以前趣味の話で都村と盛り上がった中で話題に出てきた作品の続編。柊夜も近いうちに観に行こうと思っていた映画だ。公開をとても楽しみにしていたのだ。
「一緒に観に行って、帰りにカフェとかで感想言い合いたいなと思って。どうかな」
「行く!!!」
柊夜は一も二もなく頷いた。
「じゃあ決まりだね、楽しみだな。いつにしようか」
都村が嬉しそうに微笑む。映画に行く日取りを決めると、二人はカフェテリアを後にした。
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