【完結】豆狸の宿

砂月ちゃん

文字の大きさ
上 下
6 / 13

その⑥ 豆狸、従兄に相談する

しおりを挟む
夜が明ける頃…豆狸は、ようやく従兄の豆狸が住むお寺に着きました。


従兄の豆狸はこのお寺の奥にある、鐘撞堂の更に奥に住んでいます。


『お~い!従兄あんちゃんおるか?
満月屋の豆狸じゃ!』


豆狸が呼ぶと、巣穴から少し太った豆狸が出て来ました。


『おぉ満月屋の…久しぶりじゃのぅ。
祭りの時期でも無いのに、急にどうした?』

『実は…ワシの巣穴が、人間に壊されてしまってのぅ。
新しい巣穴を探しに来たんじゃ……  』


しょんぼりした豆狸が言うと、従兄豆狸はすごくおどろいて……


『なんだって!?誰がそんな事を!?』

『壊したのは【満月屋】の新しい当主じゃ…… 』

するとそれを聞いた従兄豆狸は、残念そうに言いました。


『この辺りで豆狸の巣穴を壊す人間がいるとはなぁ…… 
昔は、ワシらが居るだけでありがたがられたのにのぅ…… 』


巣穴の前でため息を吐く豆狸達。


『もうすぐ夜も明ける。とりあえず、ワシの巣穴に入ろう。
疲れているじゃろうから、詳しい話しはひと眠りしてからにしよう。』

『すまんのぅ……  
コレは土産の甘い柿じゃ。』

『こりゃあ美味しそうじゃのぅ。
それじゃあコレを食べてからひと眠りしよう。』


豆狸は、巣穴で甘柿を食べた後、仲良く眠りにつきました。


その日の夕方までゆっくり眠った豆狸は従兄にこれまでの事を話し、安心して長く住める新しい巣穴の場所を相談したのです。


従兄あんちゃんどこかちょうど良い所は無いかの?』

『そうじゃな…ここから少し東の方に行った所に、新しい宿屋ができたんじゃが、そこはどうじゃろう?』

『新しい宿屋?』

『宿屋を始めたのは、若い夫婦もんでの…奥さんの方は昔この辺りに住んどった。
場所は、昔ブドウ畑のあった場所の近くじゃ。』

『ブドウ畑か…懐かしいのぅ。
アレは、なかなか美味いブドウじゃったな。』


豆狸は、ブドウ畑にも従兄とよく行った事を思い出しました。
2匹で行っては、はしの方に成っている実を、少しばかり神通力で落として食べたものでした。
それを想像したら、またヨダレが出てきてしまいました。


従兄の話しによれば、そのブドウ畑もとうに無くなり、その近くに人間達の集落ができたそうだ。


『その集落の中に新しい宿屋ができた。
お前さんの元の巣穴の近くの酒蔵に、昔からある白い洋館があるじゃろう。
あんなのが建っとる。』


その白い洋館は昔、酒蔵の当主が建てた物で、今でもたくさんの人間が見に来るのです。


毎年行なわれる《名物の酒を盛り上げる祭り》の時には、町中が酒の香りに包まれ…その辺りもたくさんの人であふれます。
豆狸達もこの日は祠の賽銭箱に入っているお金を使って、飲み歩くのです。


《祠が壊されてしまったので、次の年からどうやって呑みに行こうか?》
と悩む豆狸達でした。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちいさな哲学者

雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。 【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】

スコウキャッタ・ターミナル

nono
児童書・童話
「みんなと違う」妹がチームの優勝杯に吐いた日、ついにそのテディベアをエレンは捨てる。すると妹は猫に変身し、謎の二人組に追われることにーー 空飛ぶトラムで不思議な世界にやってきたエレンは、弱虫王子とワガママ王女を仲間に加え、妹を人間に戻そうとするが・・・

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

天使くん、その羽は使えません

またり鈴春
児童書・童話
見た目が綺麗な男の子が、初対面で晴衣(せい)を見るやいなや、「君の命はあと半年だよ」と余命を告げる。 その言葉に対し晴衣は「知ってるよ」と笑顔で答えた。 実はこの男の子は、晴衣の魂を引取りに来た天使だった。 魂を引き取る日まで晴衣と同居する事になった天使は、 晴衣がバドミントン部に尽力する姿を何度も見る。 「こんな羽を追いかけて何が楽しいの」 「しんどいから辞めたいって何度も思ったよ。 だけど不思議なことにね、」 どんな時だって、吸い込まれるように 目の前の羽に足を伸ばしちゃうんだよ 「……ふぅん?」 晴衣の気持ちを理解する日は来ない、と。 天使思っていた、はずだった―― \無表情天使と、儚くも強い少女の物語/

プラネタリウムのめざす空

詩海猫
児童書・童話
タイトル通り、プラネタリウムが空を目指して歩く物語です。 普段はタイトル最後なのですが唐突にタイトルと漠然とした内容だけ浮かんで書いてみました。 短い童話なので最初から最後までフワッとしています。が、細かい突っ込みはナシでお願いします。

みかんに殺された獣

あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。 その森には1匹の獣と1つの果物。 異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。 そんな2人の切なく悲しいお話。 全10話です。 1話1話の文字数少なめ。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

処理中です...