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神子と騎士と幼なじみ
第18話 夢の中
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目の前で優しい笑顔を浮かべる両親を見て、今見ている光景は夢だと直ぐに分かった。
死んだ両親が目の前に現れるなんて有り得るわけが無い。
これは瑠璃の願望であり叶うはずのない夢。幼い頃から何度見たか分からない夢だ。
体調があまり良くない時によく見るこの夢の中で決まっていることは、体が自由に動かないという点だ。
ただ過去の記憶を辿っているだけ。
ただ過去のあたたかい記憶を見せつけられているだけ。
きっと何度もあの頃に戻りたいと強く願ったせいで夢を見させられていると分かってはいる。
分かっていても願わずにはいられないのだから、こうして何度も同じ夢を見るのは仕方ないのかもしれない。
本当にただ戻りたい頃の記憶を見せてくれる夢であればどれほど都合が良かったかと思うが、現実はそう甘くは無いのだ。
両親と3人で食卓を囲んだ。
父の広い背中に思いっきり抱きついた。
母の暖かい腕に抱きしめてもらった。
コマ送りのように切り替わっていく光景は瑠璃がずっと求めている家族の記憶だ。
しかし両親と一緒に暮らして多大な愛を与えられていた記憶からしばらくして待ち受けているのは、両親の死に着面するあの瞬間の記憶だ。
(置いて行かないで、ひとりにしないで)
どれだけ叫ぼうとしても声は出ない。
この先の未来が分かっているのに、両親を助けたいのに、どれだけ手を伸ばそうとしても体は一切動かない。
(ごめんなさい、僕のせいで)
全てが終わってから両親の亡骸を抱え、誰にも届かない謝罪を繰り返しながら泣き叫ぶことしか出来ない。
いつも自分の無力さを突きつけられてようやく夢から目が覚める。
しかし今日の夢はそこでは終わらなかった。
また視界がパッと切り替わって、今度は白の顔が視界いっぱいに広がった。
いつも見る夢は過去の記憶ばかりなのに、白は何故かすっかり成長して少年から青年に変わる頃の姿をしている。
いつでも笑顔で瑠璃に引っ付いてくる白にしては珍しく、目尻を赤くして瞳は涙に濡れていた。
どこか慌てているような、怪我をしたのか痛そうな表情をしている。
滅多に泣かない白が泣いているだなんてきっと大事に違いない。
白は何かを訴えるように口を開いているが、喋り声は何も聞こえない。
とにかく白が痛がってる。悲しそうにしている。
どうにかして白を泣き止ませてあげないと、白の憂いを取り払ってあげないと、と思った。
成長してすっかり瑠璃の身長を追い越してしまった白は、大きくなったのにまだ瑠璃に頭を撫でられるのが好きだったはずだ。
頭を撫でてあげれば白は泣き止んでくれるだろうか。
「どこか、いたいの…?」
今日の夢はいつもと違うみたいだ。
両親との記憶を見ている時も一切体は動かなくて声も出なかったのに、白の頭に伸ばそうとした腕はだるくて重いながらもすんなりと動いた。
白を案ずる言葉も口からぽろりと出てきた。
そのまま白の頬にそっと手を置いた。
頭を撫でてあげようと思っていたが、夢の中だというのにやたらと体が重くて白の頭まで腕が上がらなかった。
「なかないで…ぼくが、一緒にいるから…」
そのまま頬を弱い力で撫でると、泣き止むどころか白はさっきよりもっと苦しそうな顔になってしまった。
選択を誤ったのかもしれないと思ったが、これ以上瑠璃にできることは思いつかなかった。
「ごめんね…、ぼくのせいだよね…」
頬を撫でていた手を白の両手が包み込んで、白が何かを言う。
喋りかけてくれているのに何も聞こえなことがもどかしくて仕方がなかった。
現実の白は怖いと感じるようになってしまったけど、夢の中なら怖くない。
白は瑠璃の過去の罪を他所で言っただけで白自身が悪いわけじゃないということは分かっている。
悪いのは全部瑠璃で、白は罪を犯した瑠璃にも気を遣って優しくしてくれた善人に過ぎない。
白の行為を裏切りと言うのも烏滸がましいのかもしれないが、夢の中の白ならきっと裏切ったりもしない。
目の前にいる夢の中の白に対してはなぜだかそう思うことが出来た。
しばらく白に手を握られた後、ふわふわと濁っていた視界が鮮明になって行き夢から意識が浮上する感覚がした。
死んだ両親が目の前に現れるなんて有り得るわけが無い。
これは瑠璃の願望であり叶うはずのない夢。幼い頃から何度見たか分からない夢だ。
体調があまり良くない時によく見るこの夢の中で決まっていることは、体が自由に動かないという点だ。
ただ過去の記憶を辿っているだけ。
ただ過去のあたたかい記憶を見せつけられているだけ。
きっと何度もあの頃に戻りたいと強く願ったせいで夢を見させられていると分かってはいる。
分かっていても願わずにはいられないのだから、こうして何度も同じ夢を見るのは仕方ないのかもしれない。
本当にただ戻りたい頃の記憶を見せてくれる夢であればどれほど都合が良かったかと思うが、現実はそう甘くは無いのだ。
両親と3人で食卓を囲んだ。
父の広い背中に思いっきり抱きついた。
母の暖かい腕に抱きしめてもらった。
コマ送りのように切り替わっていく光景は瑠璃がずっと求めている家族の記憶だ。
しかし両親と一緒に暮らして多大な愛を与えられていた記憶からしばらくして待ち受けているのは、両親の死に着面するあの瞬間の記憶だ。
(置いて行かないで、ひとりにしないで)
どれだけ叫ぼうとしても声は出ない。
この先の未来が分かっているのに、両親を助けたいのに、どれだけ手を伸ばそうとしても体は一切動かない。
(ごめんなさい、僕のせいで)
全てが終わってから両親の亡骸を抱え、誰にも届かない謝罪を繰り返しながら泣き叫ぶことしか出来ない。
いつも自分の無力さを突きつけられてようやく夢から目が覚める。
しかし今日の夢はそこでは終わらなかった。
また視界がパッと切り替わって、今度は白の顔が視界いっぱいに広がった。
いつも見る夢は過去の記憶ばかりなのに、白は何故かすっかり成長して少年から青年に変わる頃の姿をしている。
いつでも笑顔で瑠璃に引っ付いてくる白にしては珍しく、目尻を赤くして瞳は涙に濡れていた。
どこか慌てているような、怪我をしたのか痛そうな表情をしている。
滅多に泣かない白が泣いているだなんてきっと大事に違いない。
白は何かを訴えるように口を開いているが、喋り声は何も聞こえない。
とにかく白が痛がってる。悲しそうにしている。
どうにかして白を泣き止ませてあげないと、白の憂いを取り払ってあげないと、と思った。
成長してすっかり瑠璃の身長を追い越してしまった白は、大きくなったのにまだ瑠璃に頭を撫でられるのが好きだったはずだ。
頭を撫でてあげれば白は泣き止んでくれるだろうか。
「どこか、いたいの…?」
今日の夢はいつもと違うみたいだ。
両親との記憶を見ている時も一切体は動かなくて声も出なかったのに、白の頭に伸ばそうとした腕はだるくて重いながらもすんなりと動いた。
白を案ずる言葉も口からぽろりと出てきた。
そのまま白の頬にそっと手を置いた。
頭を撫でてあげようと思っていたが、夢の中だというのにやたらと体が重くて白の頭まで腕が上がらなかった。
「なかないで…ぼくが、一緒にいるから…」
そのまま頬を弱い力で撫でると、泣き止むどころか白はさっきよりもっと苦しそうな顔になってしまった。
選択を誤ったのかもしれないと思ったが、これ以上瑠璃にできることは思いつかなかった。
「ごめんね…、ぼくのせいだよね…」
頬を撫でていた手を白の両手が包み込んで、白が何かを言う。
喋りかけてくれているのに何も聞こえなことがもどかしくて仕方がなかった。
現実の白は怖いと感じるようになってしまったけど、夢の中なら怖くない。
白は瑠璃の過去の罪を他所で言っただけで白自身が悪いわけじゃないということは分かっている。
悪いのは全部瑠璃で、白は罪を犯した瑠璃にも気を遣って優しくしてくれた善人に過ぎない。
白の行為を裏切りと言うのも烏滸がましいのかもしれないが、夢の中の白ならきっと裏切ったりもしない。
目の前にいる夢の中の白に対してはなぜだかそう思うことが出来た。
しばらく白に手を握られた後、ふわふわと濁っていた視界が鮮明になって行き夢から意識が浮上する感覚がした。
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