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1-12 誠也はゲーム感覚で食品工場の仕事をこなしていた

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誠也はエクセルの操作は苦手だが数字には強い。由美子がなぜコロコロと受注量を変えているのかすぐに理解した。

どうやら由美子は自分の営業成績をよく見せようとして、一旦多めの受注量を報告している。その後売れない分はキャンセルが出たことにして後で帳尻が合うように減らしていた。

グラフを見れば由美子が一旦多めに受注した分がノイズのように上下しているだけで、一週間の売上はほぼ同じ様な傾向で推移している。

それに振り回されて生産現場が混乱しているだけで、由美子が多めに受注してくる分を無視しておけばなんら問題ないように見えた。

恐らく崇もそれくらいのことは見抜いていただろうが真面目に生産量を調整していたんだろう。
誠也は荒井の報告してくる多めの受注分を完璧に無視して生産量を決めることにした。

「明日からはこの量で生産するから」と誠也はメモを沢口に渡した。

「えっ?受注分より少ないですけど」

「大丈夫、大丈夫。足りるから」
沢口はるなは不安そうにしながらエクセルに生産予定を入力した。



次の日誠也は午後の休憩時間にドーナツを持って休憩室に向かった。

「好きなの食べてください」と大量のドーナツを作業員達に差し入れた。

「やったー。課長さん、ありがとうございます」
 
「こんな事今まで無かったのにー」
と休憩していた作業員達は喜んだ。

誠也は仕事をしやすくするためにまずは工場の人達を手なずけるつもりである。

誠也は工場の事は何もわからないので、崇のように自分で細かく動くことは出来ないが、周りの人達にお願いして仕事を進めていくようにした。

そういった人の心をつかむ術はホスト業で培われている。

誠也はいずれ元の体に戻るつもりでいたので、一時的にゲーム感覚で工場の仕事を楽しんでいた。見た目は不利なこのおじさんの顔と体でどこまで自分が上手く仕事をこなせるか興味もあった。

そうして数日が経過したある日、誠也が休憩室で作業員の話に耳を傾けていると

「やっぱり部長と荒井さん怪しいわね」という話が聞こえてきた。

「昨日も夜遅くまで二人で会社に残ってたみたい」

「あの二人休日にも一緒にいた所を目撃されてるしねー」

誠也は上手くいけば部長と荒井の弱みを握れるかもしれないとほくそ笑んだ。
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