豪雨

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消防団

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マサトは地域の消防団に所属しており、川沿いの家が浸水しないように土嚢をつむ作業を要請された。
「こんな雨の中作業するのは命がけじゃ」
マサトは内心、命をかけてやるような作業だとは思っていない。しかし、今のうちに土嚢を積むことで少しは助かる家があるのならばやる価値はある。命の危険性があれば直ぐに避難しよう。物ならば後で何とでもなるが命はどうにもならない。マサトは現場で適切な判断が出来るか不安に感じていた。
「おとうさん。気をつけて」
妻が心配そうに見送る。
「分かった。無理はせんけー」
と言いながら普段妻が運転する軽四に乗り込み、川沿いの現場に向かう。
川沿いの土手を走りながら、川がギリギリまで増水しているのを目の当たりにする。雨は全く弱まる気配を見せない。これではこの辺りに住んでる人はいつ浸水するか気が気でない。
現場に到着すると消防団のメンバーが土嚢を積み上げる作業をしていた。水がかなり迫ってきている。
「マサト、土嚢を移動させるのにトラックがいるわ。倉庫に行って乗ってきてくれ」と副隊長の赤井さんがいう。
「分かりました」と急いで倉庫に向かう。マサトは直感的に先程通った近道の土手は危ない気がしたので国道を通って倉庫に向かう。四トントラックに乗り換えて現場に向かおうとする。先程通った土手の道は増水してなくなっている。
「危ねぇ」さっき軽四で通った時はギリギリだったんじゃ。こっちを通っていたら車ごと流されていたかもしれん。マサトは自然の脅威を目の当たりにして絶句した。
現場に再び着くと、土嚢を作っては運び、運んでは積み上げるといった作業をみんなでひたすら繰り返した。何とか浸水しそうな所に土嚢を積み上げ即席の堤防が出来上がった。これ以上急に増水したら危ないかもしれんが、川も落ち着いて来ているのでここでの作業はひとまず終わりとなった。
次に、山の方の民家の近くで土砂崩れが起きとるらしいから様子を見に行こうということになった。消防団員は車3台に分乗して山に向かう。マサトは副隊長の赤井さんが運転する車に乗った。県道は所々土砂崩れが起きていて道に土砂が流れ込んで来ているところもあった。所々で木が倒れている。
助手席の隊長は
「あんまり無理せんでええから」
と言うが副隊長は土砂崩れを恐れずどんどと山道を進んでいく。道路上を水が滝のように流れている。マサトは正直命の危険を感じている。
副隊長は正義感に燃えていて、この町の危機は自分が救うという意気込みが感じられる。しかし、若干暴走気味だ。隊長は責任があるので隊員を無謀な危険に晒したくない。
しばらく走ると道路が完全に土砂で塞がれており、車が通ることが出来なくなっていた。
「さすがに引き返そう」と隊長が言うが、
「いやいや、土砂をどけて行きましょう」と副隊長がいう。
マサトはこの場にたっている間にも土砂が崩れて来るのではないかと気が気でなかった。マサトは完全に隊長の意見に賛成だ。
「二次災害の危険性もありますし、やめときましょう。もう僕らでできるレベルを超えてますよ」
「じゃけどこういう時に助けに行かんでいつ行くんよ」
「助けに行く言うてもこれじゃあさすがに無理じゃわ」
「消防署や自衛隊に任せるしかないわ。わしらあ大した道具もないんじゃけ」
隊員の大半は隊長の意見に賛成して引き返そうということになった。
副隊長はかなり無念そうだったが、渋々引き上げることになった。
消防団の詰所に戻り、何人かは家に帰らず待機すると自主的に言い出した。マサトは泥だらけのまま待機する気にはなれなかったので自宅で待機する事にした。マサトは家に帰ると暖かいシャワーを浴びて着替えてテレビをつけた。ロシアワールドカップのサッカー中継が放送されていたが、物々しい避難警告や避難指示のテロップが絶えず表示されている。今回の雨の異常さを現していた。さすがに夜中の3時近くなっており、マサトはウトウトとし始めた。
その頃、詰所では待機中の副隊長を含めた数名が床下浸水をしている地域の応援に駆けつけようとしていた。
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