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初恋
初恋-ストーカー
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僕はナオちゃんから距離を置かれていることにも気づかずに、期末試験の終わった日、久々にテニス部の練習で汗をかいた。
やっぱり汗をかくのは気持ちいい。家の中でじっとして勉強するのが嫌いな僕は清々しい気分で空を見上げた。いつの間にか夏空である。
ふとグランドに目をやると陸上部が走っている。僕はナオちゃんに手を上げて「よっ」っと声をかける。いつものように笑顔で応えてくれるかと思ったナオちゃんはぷいっとそっぽを向く。
僕の心の中は一気に曇へと変わった。
帰り道、なにか気に触ることでもしでかしてしまったかと考えた。
どう考えても円山さんとの一件しかない。
僕には何が起きているのか理解できなかった。あの時、「上手くいくといいね」と言ってくれたナオちゃんとぷいっと顔を背けたナオちゃんはまるで別人のようだった。
僕は自転車に乗って帰り道の急な下り坂をブレーキをかけながらゆっくり下りた。でも何だかナオちゃんのことが気になってもう一度学校までの上り坂を引き返した。そして、ナオちゃんが帰る方向の下り坂を下っていった。
僕は昔住んでいた団地の方向に向けてペダルをこいだ。前方にナオちゃんが見えた。友達と楽しそうに帰っている。
僕は話しかけることも引き返す事も出来ず、ナオちゃんを追い抜いていった。夕焼けが辺りを包み込み始めて茜色になってきているので、上手く行けば気付かれずにやり過ごせるかもしれない。
僕はいつもより早いスピードで自転車を漕ぎ、ナオちゃんが見えなくなるまで真っ直ぐに進んだ。そして、見えなくなると適当に左に曲がり、帰路に着いた。知らない道を下って大通りに出てようやく自分のいる場所を把握した。思っていたよりも遠くまで来ていたので帰り道は大変だった。家に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。散々な1日だった。
次の日はもっと酷かった。
学校で僕はみんなからストーカー扱いされた。帰り道と違う方向に自転車を漕いでいたのが目撃されて噂になっていたのだ。
僕はきっとナオちゃんが言いふらしたのだろうと思った。正直気分は良くない。普段はあまり怒らない僕でも虫の居所が悪かった。
さらに、帰ってきた期末テストは赤点だらけだった。僕は夏休みまでの一週間、部活動にも参加出来ずに補習授業を受けなければならなくなった。
昼休憩にナオちゃんが僕のところに久々に来て話しかけた。
「昨日の放課後、三尾園団地の方に向かってたでしょ」
そう言って嬉しそうにしているのを見てムカついた。
馬鹿にしてるのか。自分の事を追いかけてきたと思ってストーカー扱いしやがって。
「何が気に入らないか知らないけど、ストーカーだって言いふらす必要ないだろ」と言った。
自分の顔は自分では見れないけれど、もしかしたらすごい剣幕だったのかもしれない。
ナオちゃんは「はははは」と笑った。
僕はさらにヒートアップして「何がおかしいんだよ」と叫び気味に言った。
ナオちゃんはキッと目を吊り上げて、「私がそんなことするわけないでしょ!」と強く言い返してきた。
僕はそれもそうだと思ったけれど、一度動き出した重たく速い気持ちは急には止まれない。
「どうせ僕のことみんなで馬鹿にしてんだろ」
「私はそんな事しない」
そう言って睨みつけるナオちゃんの目は白くて黒くて潤んでいて僕の方を真っ直ぐ見ていた。
僕は彼女の目に圧倒されて押し込まれ、見てられなくなったので「もういい」そう言って机に突っ伏した。泣いていると思われたら嫌なので顔は少し横向きにした。
彼女は僕の頭の後ろでじっとしていたが、しばらくするとどこかへ行った。
僕の心は青ざめて冷え切っていた。
放課後の補習授業が終わると、僕は早めに帰路について新浜の岸壁に行って海を眺めた。尾道水道を行き交う船をボート眺めた。そいつらが引き起こす波が物理の法則に従って岸壁に打ち寄せて来てぶつかり収まった。それが何度も繰り返された。
僕は明日ナオちゃんに謝ろうと決意した。
やっぱり汗をかくのは気持ちいい。家の中でじっとして勉強するのが嫌いな僕は清々しい気分で空を見上げた。いつの間にか夏空である。
ふとグランドに目をやると陸上部が走っている。僕はナオちゃんに手を上げて「よっ」っと声をかける。いつものように笑顔で応えてくれるかと思ったナオちゃんはぷいっとそっぽを向く。
僕の心の中は一気に曇へと変わった。
帰り道、なにか気に触ることでもしでかしてしまったかと考えた。
どう考えても円山さんとの一件しかない。
僕には何が起きているのか理解できなかった。あの時、「上手くいくといいね」と言ってくれたナオちゃんとぷいっと顔を背けたナオちゃんはまるで別人のようだった。
僕は自転車に乗って帰り道の急な下り坂をブレーキをかけながらゆっくり下りた。でも何だかナオちゃんのことが気になってもう一度学校までの上り坂を引き返した。そして、ナオちゃんが帰る方向の下り坂を下っていった。
僕は昔住んでいた団地の方向に向けてペダルをこいだ。前方にナオちゃんが見えた。友達と楽しそうに帰っている。
僕は話しかけることも引き返す事も出来ず、ナオちゃんを追い抜いていった。夕焼けが辺りを包み込み始めて茜色になってきているので、上手く行けば気付かれずにやり過ごせるかもしれない。
僕はいつもより早いスピードで自転車を漕ぎ、ナオちゃんが見えなくなるまで真っ直ぐに進んだ。そして、見えなくなると適当に左に曲がり、帰路に着いた。知らない道を下って大通りに出てようやく自分のいる場所を把握した。思っていたよりも遠くまで来ていたので帰り道は大変だった。家に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。散々な1日だった。
次の日はもっと酷かった。
学校で僕はみんなからストーカー扱いされた。帰り道と違う方向に自転車を漕いでいたのが目撃されて噂になっていたのだ。
僕はきっとナオちゃんが言いふらしたのだろうと思った。正直気分は良くない。普段はあまり怒らない僕でも虫の居所が悪かった。
さらに、帰ってきた期末テストは赤点だらけだった。僕は夏休みまでの一週間、部活動にも参加出来ずに補習授業を受けなければならなくなった。
昼休憩にナオちゃんが僕のところに久々に来て話しかけた。
「昨日の放課後、三尾園団地の方に向かってたでしょ」
そう言って嬉しそうにしているのを見てムカついた。
馬鹿にしてるのか。自分の事を追いかけてきたと思ってストーカー扱いしやがって。
「何が気に入らないか知らないけど、ストーカーだって言いふらす必要ないだろ」と言った。
自分の顔は自分では見れないけれど、もしかしたらすごい剣幕だったのかもしれない。
ナオちゃんは「はははは」と笑った。
僕はさらにヒートアップして「何がおかしいんだよ」と叫び気味に言った。
ナオちゃんはキッと目を吊り上げて、「私がそんなことするわけないでしょ!」と強く言い返してきた。
僕はそれもそうだと思ったけれど、一度動き出した重たく速い気持ちは急には止まれない。
「どうせ僕のことみんなで馬鹿にしてんだろ」
「私はそんな事しない」
そう言って睨みつけるナオちゃんの目は白くて黒くて潤んでいて僕の方を真っ直ぐ見ていた。
僕は彼女の目に圧倒されて押し込まれ、見てられなくなったので「もういい」そう言って机に突っ伏した。泣いていると思われたら嫌なので顔は少し横向きにした。
彼女は僕の頭の後ろでじっとしていたが、しばらくするとどこかへ行った。
僕の心は青ざめて冷え切っていた。
放課後の補習授業が終わると、僕は早めに帰路について新浜の岸壁に行って海を眺めた。尾道水道を行き交う船をボート眺めた。そいつらが引き起こす波が物理の法則に従って岸壁に打ち寄せて来てぶつかり収まった。それが何度も繰り返された。
僕は明日ナオちゃんに謝ろうと決意した。
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