【蜜味】 怖がりの人には怖すぎるかも知れない短編集

MJ

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落ちる

落ちる4

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冴子は右手の小指にロープが触れるのを感じた。

急いでロープを掴む。

グッとロープが伸びる分だけ、体が下に沈んだ。

手のひらがロープにこすれて痛い。

ロープの反対側では健太郎が腕にロープを巻き付けて引っ張っていた。

しかし、冴子の握力は既に限界だ。

もう落ちてしまうだろうという事が冴子には分かっていた。

この岩をよじ登るだけ握力が残っているとは思えない。

美香への怒りだけで今まで耐えていたが、怒りだけではどうにもならない事もある。

健太郎の引っ張るロープが急に軽くなり、健太郎は尻もちを着いた。
健太郎は急いで立ち上がり冴子を確認した。
が、冴子はいなかった。

冴子の指はロープを離れていた。

体は一気に重力に引っ張られていく。

足の裏がすーとして下へ進んでいくのを感じる。

先程までしがみついていた岩の角がみるみる遠ざかっていく。

服やら手に持ったネックレスが風を受けて上方にあおられる。

今まで苦労して登ってきた分だけ、このまま落ちていくのだろうか。

落ちた分だけ重力で加速していき地面に当たった時の衝撃が強くなる。

冴子はふとアリが高いところから落ちても死なないことを思い出した。

アリのようにならないものだろうか。

冴子は風圧を感じながら両腕を広げて風圧を感じた。

痛い!

岩肌に腕があたり衝撃を感じた。

体は跳ね上がり、もう一度岩場に頭を打ち付けて林の中に転がって行った。

冴子は目を開いていたが視界に液体のようなものが流れ込んできて何も見えなくなった。

地面にうちつけられたところが痛いし動けない。

十数秒後、もう痛みも何も感じることは出来なくなった。

ネックレスは辛うじて指に引っかかっていた。
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