ダメな男を愛する女達

MJ

文字の大きさ
上 下
24 / 25
第一章 運命の人

ファーストキス

しおりを挟む
目を閉じると蝉が鳴いていた。

こうきの唇が近づいて来るのがわかった。

ともみは実はまだ迷っていた。こうきに初めてのキスを捧げて良いものかどうか。

そうしているうちに時間が過ぎる。

ほんの数秒。

ともみの神経が集中している唇へこうきの湿った唇が重なった。

重なった唇の感触が伝わってくる。

初めてのキスがこうきと交わされた。

ともみの白い唇は震えた。

それで終わりかと思ったら舌が入ってきた。

慣れている。
こうきは初めてじゃないんだと悟った。

ともみはどうしていいか分からず歯を食いしばって舌の侵入を食い止めた。

こうきを手で押した。
こうきの逞しい体は離れない。
それでも手に力を入れ続けていると、「ふふふ」とこうきが笑いながら唇を離した。

ともみは左下に顔を傾けた。

呼吸が少し荒くなっていた。
気持ちが高ぶっている。
恥ずかしくてこうきの顔を見れない。

「じゃあ、また」
こうきは自転車に乗って下って行った。
後ろ向きで右手を振っている。

ともみはなんだか違うような気がした。

キスってこんなものなのだろうか。

なんだか期待していたものとは違った。
あまり嬉しくはない。
物理的な接触に過ぎないような気がした。

自分が子供だからだろうか。

それともただ単にキスがまだ下手なだけなんだろうか。

蝉の声がまた大きくなって耳の中で響きだした。


ともみは家に帰ってご飯を食べて風呂に入ったが、気持ちがなにかしっくり来なかった。

やはり、こうきの事はまだあまりよくわかってない。

こうきが本当に自分の事を好きなのかどうかも不安になってきた。

ともみは初めて男の子と付き合う事になって怖気付いているのではないかと自分を奮い立たせようと思った。

こうきは私の事を好きなのだ。

そう思い込もうとしたが、ともみの頭の中に思い出されるのは「男はやりたいから付き合うっていう生き物だ」と言うあけみちゃんの言葉だったり、「あいつがともちゃんのことを好きなわけがない」と言うしゅんの言葉だったりする。

いやいや、そんなことはない。こうきは遊園地のデートに誘ってくれたり、図書館の勉強に誘ってくれたりした。

私の事を好きだからそういった行動をしたのだ。

ともみはそう思い込もうとしたが、こうきが自分の事を好きだという事に何も確信が持てないまま頭の中をぐるぐると回って眠れない夜を過ごした。


次の日、部活の練習が終わってグランドを歩いていると、しゅんがいた。

「お前、こうきと付き合う事にしたのか?」

ともみは驚いてしゅんを見上げた。

「なぜ知ってるの」

「キスしたのか」
ともみは顔を耳たぶまで真っ赤にした。一番知られたくない人に知られてしまった。

その反応を見てしゅんは低い声で言った。
「お前が誰と付き合おうが関係ないけど、あいつだけはやめとけって」

「ほ、ほっといてよ。そんなの私の勝手でしょ」
ともみは吐き捨てるように言った。

しゅんにだって好きな子がいる訳だし、私だってこうきくんの事が好きになったっていいじゃない。高校生なんだからキスぐらいするわよ。そう考えながら口には出さなかった。

「あいつは、俺への嫌がらせでお前に手を出してるんだよ」

「は?なにそれ。全然理解できないんだけど。そんなわけないじゃん」
そう言いながら、ともみの心の中は不安でいっぱいになってきた。

何も確信が持てない。

こうきとキスした事を後悔しはじめていた。
このまましゅんと喋っていると泣き出しそうになってきたので走って部室の方に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

浅野浩二
恋愛
研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...