ダメな男を愛する女達

MJ

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第一章 運命の人

こうきとお好み焼きからの図書館

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夏休みこうきから二度目のメッセージが来た。

―明日、図書館で一緒に勉強しない?

―いいけど、午前中は部活なんだ

―ちょうどよかった。僕も午前中部活だから、午後からの方が都合がいい。

―何時にする?

―ついでだから、部活の後お昼ご飯一緒に食べに行こうよ

―いくいく。何食べよっか?

―お好み焼きはどう? 図書館の近くの『キャビン』に行こうか

―いいねー。

―じゃあ明日昼に自転車置き場で待ってる

―じゃあ明日

ともみは明日、こうきと2人だけで会うことにドキドキした。

もしかしたら何かしらの進展があるかもしれない。
そう思うとなかなか寝付かれない暑い夜だった。

部活が終わるとともみは自転車置き場でこうきを待った。ワタナベ君には予め、一緒に帰れないことを伝えてある。

自転車置き場で待っていると、部活を終えたしゅんが通り過ぎた。しゅんは日に日に日に焼けて黒くなっている。部活をやる前よりも随分逞しくなってきた。黒く焼けた肌の中に光る眼は野性的にギラギラしている。ともみの方を見たので、ともみはにこりとした。
しかし、しゅんは一瞥しただけで、何もいわずに無表情で通り過ぎて行った。
なにか気に入らないのだろうか。この間の言い合いが原因だろうか。
ともみはなんだか愛想良く笑顔を見せたのが損をしたような気分になった。さっきの笑顔返して欲しい。今度から絶対しゅんには愛想振りまかない。そう決めた。

しばらく立っていると、こうきを中心にテニス部の1年生集団が自転車置き場にやってきた。
「あ、おまたせ。行こっか」
こうきは素早く自分の自転車に荷物を乗せて準備をした。
周りのテニス部員がざわつく。ともみは赤くなってうつむいたまま自転車に乗った。

何も言わずに進むこうきの自転車にとりあえずついて行く。テニス部の女子の目が厳しく突き刺さる。

こうきは勉強もできるし、運動もできるので人気がある。そんなこうきと一緒に帰るのは注目の的である。なんだか居心地が悪い。女子生徒たちの嫉妬や妬み、恨みまで買いそうな雰囲気である。今度からこんな目立つ待ち合わせはやめておこうと思った。

お好み焼き屋に着くと、自転車を止めて中に入った。
間が悪い事に店内のカウンター席にはしゅんがいた。
こうきは気にせずテーブル席について、セルフサービスの水をくんだ。
ともみはしゅんとこうきが喧嘩でもするんじゃないかとヒヤヒヤとした。
しゅんは知らない顔で漫画雑誌を読んでいる。
「僕は豚玉でそばにするけどともみちゃんは何にする?」
とこうきが聞いてくる。
「私は豚玉のうどん」

「うどん?」とこうきが驚いている。

しゅんも驚いてこちらを見た。

「いや、あの、うどんも意外と美味しいよ」
「そ、そうなの? 」
うどんにこんなに驚かれるとは思わなかった。

注文が済むと、焼いている間にこうきが話しかけてきた。
「ともみちゃんは将来何になりたい?」

「さあ、なんだろう。特に決めてない」

「僕はね、医者になるのが目標」

「そうなんだ。すごいね」

「医者は人のためになるし、給料もいいでしょ。そしたらなんでも好きなことが出来る。その為に今は我慢して勉強しておく」

「こうきくんは偉いなあ。もう将来の夢が決まってるなんて。私なんか家を建てて犬飼いたい位しか考えてない」

「将来のこと考えて、ともみちゃんも頑張っていい大学に入っておいた方がいいよ」

「わたしは地元の大学に入る事しか考えてなかったな」

「ともみちゃんならもっといい大学に入れるって」

「そっかな」
ともみはこうきが医者になる夢を持っていてそれに向かって頑張っている事には素直に尊敬した。
ただ、同じ事は自分にはできないなと思った。医者になって人の命の責任を持つなんて、そんな大変な事をする能力や度胸は自分にはない。
ただ、そういう事に頑張る人を支える事はできるかもしれない。
ただ、それだけもつまらない。
自分は何がやりたいんだろう。
ともみは普段の生活を真面目に過ごすことに一生懸命で先の事はまだあまり考えていなかった。

話をしている間にお好みが焼けて、テーブルの鉄板の上にお好み焼きが二枚運ばれてきた。

「うどん、少しだけ分けてもらっていい?」

「いいよ」

「ほんとだ。意外と美味しい」

「じゃろー」ともみは得意になった。

「メニューにあるのは知っとったけど、そばしか食べたこと無かったわ」 

しゅんは先に食べ終えて店を出て行った。
その時、ちらりとしゅんの顔を見たが、今度は笑顔を振りまかなかった。しゅんはギラリとした目で前を見ていた。

ともみは気になっていた事をこうきに聞いてみた。
「しゅんくんとはなんで喧嘩したん?」
こうきは不機嫌そうに言った。
「なんでもない事に怒り出して、いきなり殴りかかってきたんよ」
「なんでもない事って?」
「それは言えんけど、男なら興味あるようなこと」
「言えないような事なん?」
「う、うん。まあ。女子には」
こうきは気まずそうな顔をしてお好み焼きをテコで切り分けた。
ともみはこうきが言いたそうになかったのでそれ以上聞かなかったが、しゅんが何にそれほど怒ったのか気になった。

二人はお好み焼きを食べ終わると、図書館へ向かった。並んで座って勉強をした。こうきはとても効率よく勉強を進めた。教科ごとに時間を決めて問題集に取り組み、間違ったり、覚えていなかったことを書き出した。ともみもそれを参考にして真似た。

「うわーこんなに集中して勉強したのはじめて」
図書館を出てともみは手を上げて伸びをした。とても充実した時間だった。
「僕はね、欲しいものを手に入れるためにとにかく頑張るんだ。運動も、勉強も」
「うん」
ともみはこうきの何にでも積極的に取り組むところにが好きだった。

「送って行くよ」
しかも優しい。

送ってもらった帰り際、自転車を止めてこうきが呼ぶ。
「ねえ、こっち来て」

ともみはドキドキしながら近寄った。

まだ夏の空は明るい。
アスファルトにくっきりと2人の影が映っている。

「ねえ、この間の続きしていい」

予想通りの展開にともみの耳は赤くなった。

「続きって?」ふと顔をあげるとこうきの顔が近づいてきた。

ともみはこうきの肩を両手で押さえてこうきの動きを止めた。

「こうきくん、私の事好きなの?」

「う、うん」こうきは躊躇いながら答える。

「じゃあ私と付き合うって事?」

こうきは黙って頷く。

ともみは初めての唇を差し出した。
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