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第一章 運命の人
こうきはやめといた方がいい
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しゅんがグランドの隅で独りでボールを蹴っている。
しかし、リフティングが全然続かない。
どうみたってサッカーの才能はなさそうだ。
バスケットボールはあんなに上手いのにどうしてバスケ部に入らなかったんだろう。
ともみは練習終わりにしゅんに声をかけた。
「なんでバスケ部に入らなかったの?」
「ワールドカップ観てサッカーがしてみたくなったから」
「でも、サッカーは下手だよね」
「そりゃあ、初心者だからね」
「経験あるバスケだったらレギュラーになれたんじゃない?」
「別にレギュラーになることが目的じゃないから」
「じゃあ、何が目的なの?」
「サッカーだったらグランドで練習できるだろ」
「またよく分からん理由を言っているけど、本当は喧嘩したこうきくんと仲のいい中島くんがいるからバスケ部に入りにくくなったんじゃないの?」
「そんな事ないよ。あれはアイツらが悪いんだから。俺が逃げ隠れする事はない」
「じゃあ、なんでこうきくんを殴ったのよ。教えてよ」
「それは言えない」しゅんは目線を落とした。
「理由が言えないんじゃ、こうきくんが悪いなんて分からないじゃない。どう考えても殴ったしゅんくんの方が悪いでしょ」
「どうしても言えんけえ」
しゅんはそう言ってともみを無視するようにボールを蹴り始めた。
「素直に謝って仲直りすればいいじゃん。同じクラスなんだし」
「嫌だ」
しゅんは聞く耳を持たない。
ともみはこれからこうきと付き合うことになるかもしれない。その時、こうきとしゅんが仲悪いままだと、ますますしゅんとクラスのみんなが遠ざかってしまうような気がした。
ともみはそれが嫌だった。
「わたし、こうきくんと付き合うかもしれん」
しゅんの動きが止まった。ボールが地面を転々としていった。
「は?あいつがお前のこと好きなわけないじゃろ」
「そんな事ないけ。こないだも遊園地に誘われたし」
「ちっ。あいつ。そんなん嫌がらせじゃ」
「なによおるん。何が嫌がらせなん。意味わからん」
「とにかく、こうきだけはやめとけ」
「なんで、あんたに指図されんといけんのんよ」
「あいつ、お前のこと好きじゃないけ」
「そんなん、なんであんたにわかるんよ」
ともみは怒って大きな声を出した。
しゅんは何か言いたそうな顔をして困っていたが、何も言わずにボールをネットに向かって思いっきり蹴った。
勝手にすればいい。
しゅんはいつもちゃんと説明しない。
自分が折れるということを知らない。
だからみんなが誤解して、だんだん孤立していく。
ともみはそれがみていられないので何とかしようと思っていたのだが、心配して損をした。
わからず屋のわがまま坊主だ。
こうきくんのことを悪く言うなんて、自分がちゃんとしてから言うべきだ。
部室に行くとあけみがいた。
ともみはしゅんからこうきが自分の事を好きではないと言われて、付き合うべきなのか自信が持てなくなっていた。
あけみの意見をそれとなく聞いてみようと思った。
「あけみちゃん、聞いていい?」
「なに?」
「わたしの友達の話なんだけどさ、この間、男子からいきなりキスされそうになったんよ」
「ふんふん」
「それで、その男子と付き合うか悩んでるらしいんだけど、どう思う?」
「付き合ってもないのに、いきなりキスしてくるっておかしいよね」
「だよね。でも、好きだからキスしようとしたんじゃないかって」
「それはどうだろう。男なんてやりたいだけだから」
「そっか」
やりたがる男と聞いて、何故かキスをしようとしたこうきではなく、おっぱいを見たがるしゅんのことが頭をよぎった。
「少なくとも、ちゃんと付き合ってからキスするべきだよね」
「そうだよね」
「ま、男なんてやりたいために付き合うってすぐ言っちゃうような生き物だから全然信用出来ないけどね」
「あけみちゃんて考えが大人だね」
そんな話をしながら自転車置き場に行くと、ワタナベ君が待っていた。
「じゃ、あけみちゃんバイバイ」
ともみはいつも通りワタナベ君と一緒に帰る。
ワタナベ君はいつもの通り無言だ。
ともみは思い切って言ってみた。
「ワタナベ君、わたしに彼氏が出来たらどうする?」
「どうするって?」
「今まで通り送ってくれる?」
「そりゃあ、ともちんが良ければ送るけど、嫌だったらやめる。その代わり」
「その代わり?」
「こないだみたいに痴漢が出ると心配だから、彼氏に送って貰ってよ」
ワタナベ君は声を振り絞るように言った。
「そんな優しい彼氏ができるといいんだけどな」
ワタナベ君はなにか言いたそうな表情でともみを見ているが、ともみは気づいていない。
しかし、リフティングが全然続かない。
どうみたってサッカーの才能はなさそうだ。
バスケットボールはあんなに上手いのにどうしてバスケ部に入らなかったんだろう。
ともみは練習終わりにしゅんに声をかけた。
「なんでバスケ部に入らなかったの?」
「ワールドカップ観てサッカーがしてみたくなったから」
「でも、サッカーは下手だよね」
「そりゃあ、初心者だからね」
「経験あるバスケだったらレギュラーになれたんじゃない?」
「別にレギュラーになることが目的じゃないから」
「じゃあ、何が目的なの?」
「サッカーだったらグランドで練習できるだろ」
「またよく分からん理由を言っているけど、本当は喧嘩したこうきくんと仲のいい中島くんがいるからバスケ部に入りにくくなったんじゃないの?」
「そんな事ないよ。あれはアイツらが悪いんだから。俺が逃げ隠れする事はない」
「じゃあ、なんでこうきくんを殴ったのよ。教えてよ」
「それは言えない」しゅんは目線を落とした。
「理由が言えないんじゃ、こうきくんが悪いなんて分からないじゃない。どう考えても殴ったしゅんくんの方が悪いでしょ」
「どうしても言えんけえ」
しゅんはそう言ってともみを無視するようにボールを蹴り始めた。
「素直に謝って仲直りすればいいじゃん。同じクラスなんだし」
「嫌だ」
しゅんは聞く耳を持たない。
ともみはこれからこうきと付き合うことになるかもしれない。その時、こうきとしゅんが仲悪いままだと、ますますしゅんとクラスのみんなが遠ざかってしまうような気がした。
ともみはそれが嫌だった。
「わたし、こうきくんと付き合うかもしれん」
しゅんの動きが止まった。ボールが地面を転々としていった。
「は?あいつがお前のこと好きなわけないじゃろ」
「そんな事ないけ。こないだも遊園地に誘われたし」
「ちっ。あいつ。そんなん嫌がらせじゃ」
「なによおるん。何が嫌がらせなん。意味わからん」
「とにかく、こうきだけはやめとけ」
「なんで、あんたに指図されんといけんのんよ」
「あいつ、お前のこと好きじゃないけ」
「そんなん、なんであんたにわかるんよ」
ともみは怒って大きな声を出した。
しゅんは何か言いたそうな顔をして困っていたが、何も言わずにボールをネットに向かって思いっきり蹴った。
勝手にすればいい。
しゅんはいつもちゃんと説明しない。
自分が折れるということを知らない。
だからみんなが誤解して、だんだん孤立していく。
ともみはそれがみていられないので何とかしようと思っていたのだが、心配して損をした。
わからず屋のわがまま坊主だ。
こうきくんのことを悪く言うなんて、自分がちゃんとしてから言うべきだ。
部室に行くとあけみがいた。
ともみはしゅんからこうきが自分の事を好きではないと言われて、付き合うべきなのか自信が持てなくなっていた。
あけみの意見をそれとなく聞いてみようと思った。
「あけみちゃん、聞いていい?」
「なに?」
「わたしの友達の話なんだけどさ、この間、男子からいきなりキスされそうになったんよ」
「ふんふん」
「それで、その男子と付き合うか悩んでるらしいんだけど、どう思う?」
「付き合ってもないのに、いきなりキスしてくるっておかしいよね」
「だよね。でも、好きだからキスしようとしたんじゃないかって」
「それはどうだろう。男なんてやりたいだけだから」
「そっか」
やりたがる男と聞いて、何故かキスをしようとしたこうきではなく、おっぱいを見たがるしゅんのことが頭をよぎった。
「少なくとも、ちゃんと付き合ってからキスするべきだよね」
「そうだよね」
「ま、男なんてやりたいために付き合うってすぐ言っちゃうような生き物だから全然信用出来ないけどね」
「あけみちゃんて考えが大人だね」
そんな話をしながら自転車置き場に行くと、ワタナベ君が待っていた。
「じゃ、あけみちゃんバイバイ」
ともみはいつも通りワタナベ君と一緒に帰る。
ワタナベ君はいつもの通り無言だ。
ともみは思い切って言ってみた。
「ワタナベ君、わたしに彼氏が出来たらどうする?」
「どうするって?」
「今まで通り送ってくれる?」
「そりゃあ、ともちんが良ければ送るけど、嫌だったらやめる。その代わり」
「その代わり?」
「こないだみたいに痴漢が出ると心配だから、彼氏に送って貰ってよ」
ワタナベ君は声を振り絞るように言った。
「そんな優しい彼氏ができるといいんだけどな」
ワタナベ君はなにか言いたそうな表情でともみを見ているが、ともみは気づいていない。
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