ダメな男を愛する女達

MJ

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第一章 運命の人

夏の遊園地にはプールがある

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夏休みに入ってこうきからスマホに連絡が来た。

―今度の日曜日みんなと遊園地行かない?

―みんなって?

―テニス部の林やバスケ部の中島、それから女子2人

―女子2人って誰?

―あいつらの彼女。知ってる?

―知ってるけど、話した事ない

―大丈夫、大丈夫。あいつらはほっとけばいいから

え?これってどういう状況?トリプルデート?
ともみは興奮して鼻血が出そうになった。

ここは一応すぐには飛びつかない。

―どうしようかな

―せっかくだから行こうよ

―うーん。分かった。行く。

ほんとは行く気満々だったが、ちょっと控えめに反応しておいた。
勉強と部活ばかりのつまらない夏休みになるかと思っていたが、いきなりの急展開。
こんな事に誘ってくるなんてもしかしてこうきくんは私に気があるのかもしれない。
夏休みの間に付き合うことになったりして。
そんな妄想を膨らませていたら、返信が返ってきた。

―その遊園地にはプールもあるから一応水着持ってきといて。じゃね。楽しみにしてる。

え、え、えっー
水着なんて持ってないよ。
ともみはすぐに母さんに頼み込んで買ってもらうことにした。

スポーツ用品店で胸の小さいのがあまり目立たない、肌の露出が少ない地味目のやつを買ってきた。


遊園地当日、最寄りの駅でみんなで待ち合わせた。
ともみはしまったーと思った。
男子は短パンにラフな格好でどうでもいいのだが、2人の女子はめっちゃオシャレしてきていた。
可愛い柄の入ったワンピースに、麦わら帽子。可愛い革靴を履いている。カバンも似合ってる。
こんなオシャレな子がうちの高校にもいたんだ。

ともみはジーパンにTシャツに履きなれたスニーカー、紺色のキャップにリュックという出て立ちだった。

やばい。場違いかもしれない。

中島くんと林くんはそれぞれの彼女とデレデレし始めた。特にオシャレをしていないともみは目立たないように電車の隅で小さくなっていた。

近くにいたこうきが声をかけてきた。
「どうしたん?」
ともみは小声で言った。
「いや、なんか、場違いな気が」
「気にしなくていいよ。あいつらは勝手に仲良くやってるだろうから、ほっとけばいい。僕たちは僕たちで楽しもうよ」
「う、うん」
ともみはこうきの顔を見上げながら言った。

遊園地に着くと、ともみとこうきはフリーパスを買って他の4人と別行動を取った。
「じゃあまた後で合流な。午後からプールに行こう」

「おっけー」

他の4人はあまり乗り物に乗る気はないみたいで、涼しい建物の方に向かった。

「さてと、何乗りたい?」

「そうだな。ジェットコースターと空中ブランコとバイキングと空中散歩とお化け屋敷」

「ほとんど全部じゃん。じゃあ片っ端から回っていくか」

都会では考えられないが、田舎の遊園地は夏休みでも空いていて、待ち時間もなく、いくらでも乗り物に乗れる。

その代わり、乗り物はしょぼい。

ただ、古くなっているのでジェットコースターなどは壊れはしないかという別の意味での恐怖心がある。

バイキングはブランコが一回り大きくなったようなものだが、質素な作りの鎖が重みに耐えられるのかという不安がよぎる。

気づけば、こうきと2人でまるでデートのような時間を過ごしていた。

「そろそろお腹すいたから昼ごはん食べようか。何食べる?」
「そうだなあ。ラーメンにしようかな」
「こんなところのラーメンなんて絶対まずいって。やめといた方がいいよ」
「そっかあ」
「ハンバーガーの方が外れはないと思うよ」
「じゃあハンバーガーにしようかな」

2人はハンバーガーとコーラーを注文して食べた。
「こんなところ、こうきくんのファンに見つかったらただじゃすまないよね」
「僕のファンなんていないよ」
「うそうそ。こうきくんモテるでしょ」
ともみは探りを入れる。
「そんな事ないよ」
「じゃあさ、今まで告白されたことある?」
少し間があった。

「あるよ」こうきはすました顔で答えた。

え。やっぱりあるんだ。
「何人?」
「高校入ってから?」
「うん」
高校入る前も気になるが、とりあえず高校入ってから何人なんだ?

「うんと、3人かな」
ともみは驚いた。
「何それ。めっちゃモテるじゃん。だれだれ?同じクラスの子?」
「それは言えない」
「だよね」
ともみは少し焦った。その3人のうち誰かと付き合い始めたらと思うと胸の中が痛くなってきた。

「でもね。あんまりタイプじゃないから断った」
「へー」とすまし顔で興味無さそうに言ったが、内心ほっとした。
まだチャンスはある。

昼食が終わるとみんなでプールに向かった。

更衣室では、中島と林の彼女が一緒だったが、2人とも豊満ボディに輝くほど色が白かった。そんな露出した肌に日焼け止めをこれでもかというほど塗りたくっている。

ともみはと言うと、胸は茶碗一杯分もで出てなく、足が太くなりすぎている。それに練習着の日焼けの後がくっきりとのこっていて恥ずかしった。

ま、目立たないようにできるだけプールに入っておくか。一応日焼け止めは塗っておいた。

結局、プールでも2組のカップルはあまり動かずにパラソルの下でイチャイチャしていた。
ともみはすぐさまプールの中に入った。
こうきが後をついてきた。
こうきの鍛えられた体が男らしい筋肉がついている。その肌に時々触れるとなんだか変な気分になった。
恥ずかしいので逃げるように流れるプールやウォータースライダーに行った。
時々、こうきはじゃれてともみの体をプールに沈めたりした。
ともみも負けじとこうきに水をかけたり、押さえつけたりするのだが、力では敵わない。
あまり抵抗していると、身体が触れる時間が長くなって、それが恥ずかしくて、やはりこうきから逃げるようにプール内を移動した。

プールから顔を上げた時に、ふとプールサイドを見ると中島と彼女がキスをしていた。
一瞬だったが、こんな人目のあるところでキスをするなんて信じられなかった。

ともみはまだファーストキスの経験がなかった。

なんだかともみは場違いなところに来ている気が強くなってきて、早く帰りたくなった。

みんな、まだ帰りそうになかったが、ともみは門限があるからと言ってさきに帰る事にした。
こうきも心配だからと一緒に帰ることになった。

ともみは電車の中で下を向いたまま無言だった。
中島と彼女がキスをしたシーンが頭の中から離れない。

「なんか悪かったね」とこうきが呟いた。
「何が?」
「なんかあいつらイチャイチャしてばっかりで」
「いや、そんなの関係ないよ。今日は楽しかった」
「だったら良かった。また誘ってもいい?」
「うん」ともみは笑顔で応えた。

電車を降りて自転車置き場に向かった。
こうきはともみを家の近くまで送ってくれた。

別れ際、こうきの顔が近づいてきた。
ともみは驚いて反射的に顔を横によけた。

こうきの唇がともみの耳の下辺りに触れた。

なになになに。
キスされそうになった?

「ごめん。まだ早いよね」

こうきはすぐさま自転車に乗ると坂道を逃げるようにして下って行った。
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