ダメな男を愛する女達

MJ

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第一章 運命の人

夏休みにこうきから連絡が

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喧嘩騒動があってから、しゅんは男子のグループからはぐれ、独りで行動するようになった。
 暴力を振るった事を謝って、またみんなと仲良くすればいいのに。
ともみはしゅんに一言声をかけようかと思っていたが、結局声をかけそびれていた。

一方で、こうきが学級委員のよしみでか、ともみに勉強を教えてくれた。
「今日、放課後残って一緒に勉強しない?どうせ部活ないから早く帰ってもサボっちゃうんだよね」
「うん、うん、うん」ともみは2つ返事、いや3つ返事をして首を縦に振った。

「この問題は、このパターンだから、この式に代入してこうすればいいんだ」
「そうかあ」
こうきはともみが分からない難しい問題を優しく教えてくれる。
暗記しなければいけないことは、覚えやすい語呂合わせを教えてくれた。
それだけではなく、わかりやすい動画も教えてもらった。
そして、その動画のURLを送って貰うためにLINEの交換もしてしまった。

ともみは勉強の邪魔をしてはいけないと思い、こうきにLINEを送るのをためらっていたが、こうきからは時々連絡が来た。

(おつかれ。まだ勉強してる?明日のテスト頑張ろうね。おやすみ)

(うん。まだ起きてた。明日頑張ろう。おやすみ)

ちょっとしたやり取りだったが、ともみはうれしかった。

頑張って勉強したおかげで、ともみの成績は中間試験よりも上がった。

こうきはクラスでも1、2位を争う成績だった。満遍なく全ての教科で成績が良くて、クラスのみんなから尊敬されていた。

しゅんはと言うと相変わらず赤点ばかりで補習授業を受けている。
暴力を振るうわ成績が悪いわで救いようがない。

元幼馴染と言えどもいい加減愛想をつかしてしまう。


試験が終わり、梅雨が明け、夏休みに入るとのんびりできるかと思っていたら、この高校では特別授業というものがあった。

特別授業は希望者だけ受ければいいのだが、ほとんどの生徒が受けていた。
ともみはいい大学に入ろうとは思ってはいなかったが、地元の公立大学への推薦を勝ち取る目的のため、普段から真面目に過ごす必要があった。
なので、夏休みだと言うのに遊ぶ暇はなかった。
補習授業が終わると部活があり、普段と何も変わらない毎日なのである。

そんな若者の欲望に対するエネルギーが押し込められたやるせない気持ちを知ってか知らないでか、さんさんと降り注ぐ太陽の下、ともみはグランドを走った。

ポニーテールに結んだ髪の上から紺色のキャップをかぶり、日差しを防いだ。走ればいい走るだけ全身が熱を帯び、その熱を冷ますために汗が吹き出した。めまいがするほどキツいが、1日に1度は走らないと体が気持ち悪い。走らなければ、淀んだ水溜まりになったような気がするのだ。汗が吹き出したあとの肌は汚れが毛穴から洗い流されツヤツヤになるのだ。

夏休みは部活と時間帯がズレるので、比較的グランドが空いていて集中して走れる。ともみは前を向きせっせと手足を動かし、グランドを蹴った。

ふと、目の前にサッカーボールが転がってきた。サッカー部の人がそのボールを追いかけてともみの前を横切った。

あれ?どこかで見覚えのある人だ。
振り返るとしゅんが立っていた。新品の練習着にぎこちない格好である。
思わず2度見してしまった。

あれ?何でしゅんくんがサッカー部にいるの?

心臓が悪くて部活できないんじゃなかったっけ?

あいつ嘘ついていたのか?

ともみは疑問を抱きながら走り続けた。


ともみは部活が終わって早速しゅんに問い詰めに行った。

「なんでしゅんくんがサッカー部にいるの?」

「何でって、サッカー部に入ったから」

「心臓の事はどうしたのよ」

「それがさあ。セカンドオピニオンって言うやつ? 総合病院で検査受けたらさ、完治してて激しい運動してもなんの問題もないって」

「ほんとに?」

「ああ。総合病院の先生が大学病院迄問い合わせてくれて。それで、手術後、数年経って問題なかったら運動しても構わないってよ」
しゅんはすごく嬉しそうに笑みを浮かべた。
夏の太陽が似合っていた。

「ほんとう。良かったじゃん」とともみも軽くジャンプするほど喜んだ。

「なんかそれにしても一気に未来が開けたというか、数年後に死ななくてすむんだと思ったら希望が湧いてきた」

ともみはそんなしゅんを見ていて、それほど真剣に死を迎える事を考えていたんだと今更のように知った。

病気を抱えて、いつ死ぬかもしれないと思って生きる不安というのは当事者でなければ分からないものなのだ。
ともみは喜んでいるしゅんを見て目が潤んできた。

「それにしてもあれだな。木曽医院の先生はほんといい加減だな。あの病院の悪い噂をたくさん聞いたよ」

「でしょ。あそこは医療ミスしてやばくなると海外に逃亡したりするらしいよ」

「うん。その噂も聞いた。あそこはもう二度と行かない。それにしても、ともちゃんありがとう。ともちゃんのアドバイスのおかげで早く気づくことができた。ほんと天使に見えるわ」

「う、うん。そんなに大袈裟に言わないで。たまたま知っていただけだから」

そんなともみにしゅんは近づいてきて言った。
「それよりさあ、ともちゃんって、汗かくといい匂いするんだね」

「はあ?何いってんの。人の匂い嗅ぐのやめてよ」

「なんか海の匂いというか潮の香りというか」

「調子に乗るな」

ともみはしゅんの顔をグイッと押しのけて歩き去った。
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