ダメな男を愛する女達

MJ

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第一章 運命の人

君の名は

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「ともみー。そろそろ起きなさいよ」

母親の声が家の中に響くがともみは寝たままだ。

「ピーちゃん、コロちゃん、起こしてきなさい」
母親がそういってかごから解き放したピーとコロはバサバサとともみの部屋に向かった。
「チチチチ、チチ。ともちゃん。ともちゃん」とコロがともみの耳元でささやく。
ピーちゃんはともみの唇をついばんでいる。
それでもともみが起きないのでコロは耳たぶに噛みつく。
「痛いー。わかった、わかった。起きるから」
そう言ってともみが布団を跳ね上げると、ピーとコロは羽をばたつかせ逃げるように部屋を出て鳥かごに戻った。

ともみの家では手のりに育てた2匹のセキセイインコが日常的に辺りを歩き回っているのだ。
「母さん、寝てる時にピーとコロに攻撃させるのやめてよ。痛いんだから」
「じゃあさっさと起きなさいよ」
「もうー」
ともみは布団をたたむと顔を洗って歯を磨き始めた。
徐々に寝ぼけていた頭がはっきりしてくる。
そうだ今日から高校生活が始まるんだった。どんなクラスだろう。

そして気になる村上しゅん君とはどんな子だろう。

元幼馴染と運命の再会だったりして。
そんなわけないか。

朝食を終えたともみは制服に着替えて髪を縛ってポニーテールにすると、昨夜のうちに支度しておいたカバンと手提げ袋を持って家を飛び出した。
赤い自転車のカゴに荷物を入れてカシャンと鍵をさして、飛び乗ると坂道を下った。

家から高校までの道のりは坂を下って登って、また下って、そしてまた登る。
坂の多いこの街は自転車で通学するのは大変だ。
だけど陸上をしているともみにとってはいいトレーニングだ。

下り坂の両脇には住宅地が広がっている。
自転車で切る風は少しずつ暖かくなってきていた。
土の中からいろいろな生きもの達が出てきてこんにちはと言ってきそうな気がした。

最後の坂道を自転車を押して登ると学校に着いた。
ともみは自分のクラスへと急いだ。
「ともみー。こっちこっち」
教室の中では同じ中学出身のまいが手招きをしていた。
「おはよう。早いねー」
「ともみの席ここだよ」
「ありがとう」と自分の席にカバンを置く。
ともみはまいと雑談をしながら近くを通り過ぎる男子の胸に付いている名札を横目でチェックした。

そしてついに「村上」と書かれた名札を見つけた。
その人物は単語帳をみながらぶつぶつ言いながら歩いている。
黒縁眼鏡を時々人差し指で上に押し上げる。
いわゆるガリ勉タイプだ。
僕は勉強に必死なんで声をかけないで下さいというオーラをかもし出している。
あれが村上しゅんくんか。
残念ながらタイプではない。
声をかけるのも躊躇してしまう。
ともみは右のほっぺに自然と力が入りひくつくのを感じた。これを苦笑いというのだろうか。
見た目で判断したらいけないというのは道徳的には理解しているんだけど、生理的に受け付けられない。
ともみは足が速くてかっこいい男の子が好きなのだ。
高校に入ったからにはそういった男の子と仲良くなってあわよくば恋人同士の関係を築きたい。
そういった大それた野望を持っている。
村上しゅんくんはそういったカテゴリーには属さなかった。
元幼馴染というキーワードは封印することにしよう。しょうがない。

こうして元幼馴染と運命の再会という密かに抱いていた夢は無残にも散ってしまった。

高校生活の一つの楽しみが消えた。
まあ、ただそれだけだ。気を取り直してかっこいい男の子を探そう。

そう気持ちを切り替えようと、ともみがふと隣の席を見ると、そこには不思議な男の子が座っていた。
頭がぼさぼさでやる気がなさそうでけだるそう。
でもその瞳には吸い込まれそうなほどの生命感が宿っていた。
ともみはしばらくその顔をじっと見ていた。

男の子はともみの視線を感じると「どうした?」というような微笑みを投げかけた。
ともみは恥ずかしくて目をそらした。
その男の子の胸元も確認したけれど、名札はついていなかった。

しばらくして教室には担任の先生が現れて自己紹介をした。
神経質そうな先生だった。唇を尖らせてしゃべっている。
そして進学校らしく早速授業が進められた。

「ねえねえ」と隣の男の子が小さな声で話しかけてくる。
「どうしたの?」
「鉛筆貸してくれない?」
「いいけど。持ってきてないの?」
「いきなり初日から授業あるなんて思ってなくて」
結局その男の子は何も持って来てなくてノートも貸してあげた。

初日は午前中で授業は終わった。
「ありがとう」と鉛筆とノートを返してきた。
「ノートはあげるよ」
「いや、また明日貸して」
そう言ってその男の子は席を立った。
なんだ。荷物になるから持って帰りたくないだけじゃん。人の書いたノートなんかもう使えないし。なんかいい加減な奴。

その時、教室の扉から女の子が顔をのぞかせて
「しゅん、一緒に帰ろ」と言った。
すると隣の席の男の子が応えた。
「ああ。いいよ」
そう言ってその女の子の方に歩み寄って行った。

ん?ん?ん?

しゅん?

もしかして君が村上しゅん君?

そう思った時、ともみの胸はドキンと聞こえるくらい大きな脈を打った。

そして、しゅん君?の姿はもうそこにはなかった。
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