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エスタ王国
代わりの人質
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シルバンが双眼鏡で覗くと、そこには大きな体のおじさんが海面に顔を出して浮かんでいた。
白髪の髪が濡れていて、べっとりと頭に張り付いている。頭のてっぺんの地肌が反射している事から推測するにイル博士だろう。
どうやら、小舟に向かって泳いでいるようだ。死んではいない。だが、なかなか進まない。
ようやく小舟にたどり着き、こちらに向かってオールを漕ぎ始めた。
ここでようやく、後ろ姿のシルエットからイル博士と確信がもてた。
「イル博士が戻ってくる」とシルバンがつぶやいた。
「無事なのね」
「うん。海に放り出されたみたいだけど大丈夫みたいだ」
「良かった」
みんなは段々と近づいてくるイル博士を焦れったく待っていた。
イル博士が岸にたどり着くと、兵士がロープに結ばれたカゴを下に降ろした。
イル博士はそれに乗り、エレベーターのように引き上げられて昇ってくる。
ベタベタの頭とずぶ濡れの服でいつもより疲れて見えるイル博士が到着すると、兵士たちは歓喜をあげて喜んだ。
ワーと大歓声が沸き起こった。勇敢にも一人で敵船に乗り込んできたイル博士はみんなの英雄なのだ。
この国のために働いた老人をみんなで褒め称える。
アスカはみんなの気持ちが一致団結している姿をみて、ここはとても素晴らしい国だと感じた。
本当にイル博士が無事に戻ってきて良かった。
アスカは感動のあまり泣きそうになっていた。
「静かに!」
シルバンが大きな声をあげると、辺りはシーンと静まり返った。
「イル博士、肝心の停戦交渉はどうなりました?」
シルバンは最も重要なことに言及した。
「そ、それが残念ながら・・・」
「上手くいかなかったのですか」
「こちらには戦う気が意思がないことを話したのじゃが、埒が開きませんでした。わしが人質になると申し出たのじゃが、老いぼれではいつ死ぬかわからんと言われてしまいました」
「それで海に放り出されたのですか。酷いやつらだ」
「それだけではありません。12時までに代わりの人質を連れてこいと言ってきました」
「代わりの人質?」
「そうです。アスカ殿を代わりの人質として要求してきました」
「なんだとー! アスカを人質に出せと言ってきたのか」
「は、はい」
「ゆ、許せん! 手加減してやっていればなめやがって」
シルバンはイル博士が今まで見たこともないような怒りの形相をした。
「何があってもアスカを渡すものか。全大砲の発射準備をしろ!」
シルバンは怒りに任せて兵士たちに命じた。
すぐに、兵士たちが動き回って発射準備を行った。
「準備が整いました!」
兵士がそういうと、シルバンは大砲の一つに近づいて、「こいつに普段の二倍の火薬を詰めろ!」と命じた。
「そんなことをすれば、大砲が壊れてしまいますが・・・」
「かまわん! 目にものを見せてやる」
シルバンは聞く耳を持たなかった。
兵士が火薬を持ってきて火薬口に詰め込む。火薬を入れるところが溢れるほどの量だ。
「よく狙えよ!」
そう言われて兵は緊張しながら狙いを定めた。
「発射しろ!」
合図とともに大砲が点火された。
バコーンというけたたましい発射音とともに弾丸が発射された。
すぐにボスンと音がして砲台はぶっ壊れてしまった。火力の強さに負けてしまったのだろう。ところどころ溶けてしまっている。
大きな黒くて重たい弾丸が敵艦隊目掛けて勢いよく飛んでいく。
白髪の髪が濡れていて、べっとりと頭に張り付いている。頭のてっぺんの地肌が反射している事から推測するにイル博士だろう。
どうやら、小舟に向かって泳いでいるようだ。死んではいない。だが、なかなか進まない。
ようやく小舟にたどり着き、こちらに向かってオールを漕ぎ始めた。
ここでようやく、後ろ姿のシルエットからイル博士と確信がもてた。
「イル博士が戻ってくる」とシルバンがつぶやいた。
「無事なのね」
「うん。海に放り出されたみたいだけど大丈夫みたいだ」
「良かった」
みんなは段々と近づいてくるイル博士を焦れったく待っていた。
イル博士が岸にたどり着くと、兵士がロープに結ばれたカゴを下に降ろした。
イル博士はそれに乗り、エレベーターのように引き上げられて昇ってくる。
ベタベタの頭とずぶ濡れの服でいつもより疲れて見えるイル博士が到着すると、兵士たちは歓喜をあげて喜んだ。
ワーと大歓声が沸き起こった。勇敢にも一人で敵船に乗り込んできたイル博士はみんなの英雄なのだ。
この国のために働いた老人をみんなで褒め称える。
アスカはみんなの気持ちが一致団結している姿をみて、ここはとても素晴らしい国だと感じた。
本当にイル博士が無事に戻ってきて良かった。
アスカは感動のあまり泣きそうになっていた。
「静かに!」
シルバンが大きな声をあげると、辺りはシーンと静まり返った。
「イル博士、肝心の停戦交渉はどうなりました?」
シルバンは最も重要なことに言及した。
「そ、それが残念ながら・・・」
「上手くいかなかったのですか」
「こちらには戦う気が意思がないことを話したのじゃが、埒が開きませんでした。わしが人質になると申し出たのじゃが、老いぼれではいつ死ぬかわからんと言われてしまいました」
「それで海に放り出されたのですか。酷いやつらだ」
「それだけではありません。12時までに代わりの人質を連れてこいと言ってきました」
「代わりの人質?」
「そうです。アスカ殿を代わりの人質として要求してきました」
「なんだとー! アスカを人質に出せと言ってきたのか」
「は、はい」
「ゆ、許せん! 手加減してやっていればなめやがって」
シルバンはイル博士が今まで見たこともないような怒りの形相をした。
「何があってもアスカを渡すものか。全大砲の発射準備をしろ!」
シルバンは怒りに任せて兵士たちに命じた。
すぐに、兵士たちが動き回って発射準備を行った。
「準備が整いました!」
兵士がそういうと、シルバンは大砲の一つに近づいて、「こいつに普段の二倍の火薬を詰めろ!」と命じた。
「そんなことをすれば、大砲が壊れてしまいますが・・・」
「かまわん! 目にものを見せてやる」
シルバンは聞く耳を持たなかった。
兵士が火薬を持ってきて火薬口に詰め込む。火薬を入れるところが溢れるほどの量だ。
「よく狙えよ!」
そう言われて兵は緊張しながら狙いを定めた。
「発射しろ!」
合図とともに大砲が点火された。
バコーンというけたたましい発射音とともに弾丸が発射された。
すぐにボスンと音がして砲台はぶっ壊れてしまった。火力の強さに負けてしまったのだろう。ところどころ溶けてしまっている。
大きな黒くて重たい弾丸が敵艦隊目掛けて勢いよく飛んでいく。
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