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エスタ王国
勇敢者と臆病者
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敵艦に向かって一人でゆっくりと漕いでいく人物をアスカは目で追った。
しかし、朝日が反射して誰だかはっきり分からない。
一体誰だろう。
戦う気がないことを敵艦に伝えに行くのだろうか。
それにしても勇気がいる行為だ。
下手をすれば矢で射られて命を落としてしまう危険を冒している。
もしも、勇敢なエドワルド王子がここに居たら、多くの国民の命を守るために同じように交渉に向かったかもしれない。
もしかして、弟のシルバン王子が戦を収めるために向かったのだろうか。
しかし、そんな事を心配する必要はなかった。後方からシルバン王子の声が聞こえてきたのだ。
「誰だ? 勝手に敵艦に向かっているのは」
双眼鏡を手にしたシルバン王子を見てアスカは少しほっとした。
「あなたが行ったのかと思ったわ」
「僕が行くわけないだろ。あんな無謀なことしていたら命がいくつあっても足りないよ」
「臆病だからあんな勇敢な事出来るわけないものね」アスカは少しからかうように言った。シルバン王子には屈強さはないが、アスカの軽口を受け流すようなしなやかさがある。
「臆病? 聞き捨てならないな。僕は無謀な事はしないだけだ。感情に流されないで行動するのが知性と言うものだ」
シルバン王子がアスカに言い訳がましい熱弁をふるっている間に、敵艦から縄ばしごが降ろされた。小舟に乗った人物はその縄ばしごを登っていく。
シルバン王子は双眼鏡を覗き込んだ。
「誰なの」
「い、イル博士だ」
「えー!」
アスカとシルバン王子は驚いて目を見合せた。
エスタ王国の頭脳であるイル博士が失われたら大変なことになる。最も知性的な人物が最も無謀なことをしている。
そこへ一人の兵士が手紙を持って現れた。
「イル博士からの手紙です」
シルバン王子は手紙を受け取ると急いで読んだ。
シルバン王子へ
わしは停戦の交渉をしてくる。老いぼれたわしが丸腰で行けばさすがに殺されることもなかろう。こちらには戦う気がないことを説明してくる。何しろ敵を一人も殺してないのじゃ。きっと上手くいくはずじゃ。
停戦交渉が成立すればお互いに傷付くことも無くウィンウィンとなる。
ただし、交渉がこじれた場合はわしは人質になる覚悟じゃ。気にせず戦ってくれ。
なあに、わしのことは心配するな。もうどうせこの先は長くない。最後に国のためになれば本望じゃ。
国王様と王妃様にもよろしくお伝えくだされ。
イル博士
「イル博士は死ぬ覚悟だ」シルバン王子は最も慕っているイル博士が死んでしまうかもしれないと考えるとさすがに青ざめた。
「どうしよう」
イル博士はあの野蛮な北方の兵士達に囲まれて暴力を振るわれているかもしれない。
長い時間が過ぎ去っているように感じた。心配な事があると時間が長く感じる。アスカは月の時計を見た。朝の十時を指していた。
その時、敵艦の近くで小さな水しぶきが上がった。
しかし、朝日が反射して誰だかはっきり分からない。
一体誰だろう。
戦う気がないことを敵艦に伝えに行くのだろうか。
それにしても勇気がいる行為だ。
下手をすれば矢で射られて命を落としてしまう危険を冒している。
もしも、勇敢なエドワルド王子がここに居たら、多くの国民の命を守るために同じように交渉に向かったかもしれない。
もしかして、弟のシルバン王子が戦を収めるために向かったのだろうか。
しかし、そんな事を心配する必要はなかった。後方からシルバン王子の声が聞こえてきたのだ。
「誰だ? 勝手に敵艦に向かっているのは」
双眼鏡を手にしたシルバン王子を見てアスカは少しほっとした。
「あなたが行ったのかと思ったわ」
「僕が行くわけないだろ。あんな無謀なことしていたら命がいくつあっても足りないよ」
「臆病だからあんな勇敢な事出来るわけないものね」アスカは少しからかうように言った。シルバン王子には屈強さはないが、アスカの軽口を受け流すようなしなやかさがある。
「臆病? 聞き捨てならないな。僕は無謀な事はしないだけだ。感情に流されないで行動するのが知性と言うものだ」
シルバン王子がアスカに言い訳がましい熱弁をふるっている間に、敵艦から縄ばしごが降ろされた。小舟に乗った人物はその縄ばしごを登っていく。
シルバン王子は双眼鏡を覗き込んだ。
「誰なの」
「い、イル博士だ」
「えー!」
アスカとシルバン王子は驚いて目を見合せた。
エスタ王国の頭脳であるイル博士が失われたら大変なことになる。最も知性的な人物が最も無謀なことをしている。
そこへ一人の兵士が手紙を持って現れた。
「イル博士からの手紙です」
シルバン王子は手紙を受け取ると急いで読んだ。
シルバン王子へ
わしは停戦の交渉をしてくる。老いぼれたわしが丸腰で行けばさすがに殺されることもなかろう。こちらには戦う気がないことを説明してくる。何しろ敵を一人も殺してないのじゃ。きっと上手くいくはずじゃ。
停戦交渉が成立すればお互いに傷付くことも無くウィンウィンとなる。
ただし、交渉がこじれた場合はわしは人質になる覚悟じゃ。気にせず戦ってくれ。
なあに、わしのことは心配するな。もうどうせこの先は長くない。最後に国のためになれば本望じゃ。
国王様と王妃様にもよろしくお伝えくだされ。
イル博士
「イル博士は死ぬ覚悟だ」シルバン王子は最も慕っているイル博士が死んでしまうかもしれないと考えるとさすがに青ざめた。
「どうしよう」
イル博士はあの野蛮な北方の兵士達に囲まれて暴力を振るわれているかもしれない。
長い時間が過ぎ去っているように感じた。心配な事があると時間が長く感じる。アスカは月の時計を見た。朝の十時を指していた。
その時、敵艦の近くで小さな水しぶきが上がった。
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