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エスタ王国
カクテル薬
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イル博士は急いでカクテル薬を調合した。この薬は、この森の獣に噛まれた時に受けた毒にとてもよく効く。エステ王国で昔から改良を重ねられてきた薬だ。
しかし、体の組織が一定以上破壊されてしまうと手遅れだ。
「頼むぞ。効いてくれ。間に合ってくれ」イル博士は祈りながら、我が娘に飲ませるようにアスカにカクテル薬を飲ませた。
アスカは死の淵をさまよっていた。
小さな川が見えてきた。
アスカは引き寄せられるようにその川に向かった。
その川に足先が触れると、それまでの事が走馬灯のように頭の中を一瞬で駆け巡った。
エドワルド王子、富豪のジャルジャン、山賊ミカラムとその妻エレナ、リディア嬢、黒猫ペルーラとの出会い。そして、浮気者の元婚約者。
ああ、このまま終わるのはなんだか悔しい。
せっかくいい出会いがあったのに、このまま死んでしまうのか。まるであの浮気者の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
せめて、王子と結ばれていれば・・・。
そう思って後ろを振り返った。
シュン!
体全体が後ろに吸い込まれるような感覚がした。
ベッドの上でアスカは目覚めた。
寝汗をびっしょりかいて気持ち悪い。
そして、何よりも胸が苦しい。
「ハア、ハア、ハア」
ふと胸の上に置かれた重たいものを両腕で持ち上げる。
すると、それは人の腕だった。
「ムニャムニャムニャ」
隣でシルバン王子が寝ている。
「キャー!」アスカは大声で叫ぶと、シルバン王子の腕を払い除け、枕でシルバン王子の顔を殴った。
「痴漢よ! 痴漢!」
「待って、待って、アスカ、僕だよ、僕」
アスカはシルバン王子の言葉を無視して殴り続けた。
「なんでそこにいるのよ」
「看病していたんだよ」
「だからと言って人の胸を触っていいわけないでしょ」
「言っとくけど、僕は女の子の胸なんて触りなれているから、君の胸なんて興味無いよ」
「なんなのよ。なんかムカつくわね」
イル博士と近衛兵達が部屋に駆けつけた頃には、枕が破れて羽毛が部屋中にちらばっていた。
「どうやら元気になったようじゃの」
イル博士が微笑みながらつぶやいた。
そう言えば、台風が去った後のように気分が晴れていることにアスカは気がついた。
「カクテル薬が効いたようじゃな。良かったよ」
「ものすごい熱だったんだから。心配したよ」シルバン王子がアスカの顔を覗き込む。
アスカは一旦、プイッと顔を背けてから、イル博士の方を向いて「ありがとございました」とお礼をいった。
「それじゃあ、我々は退席するか。もう少しそこでゆっくりと養生しなさい。それから、これに懲りて、脱走なんて考えるのはお止めなさいよ。何も良いことは無いよ」
「はい」
アスカはイル博士に言われるまでもなく、脱走はこりごりだった。
あんな死にそうな目にあうのは二度と嫌だ。
三途の川で元婚約者で浮気男のタクヤのことを思い出し、意地でも幸せになってやると決めた。
今、自分に求められているものが、王子の妃になる事ならば、それも悪くない。
自分には妃になる素養がないとしても、妃になってやろうじゃないの。
この世界がもし映画だとしたら、立派な妃の役を演じてやろうじゃないの。
そうよ、演じればいいのよ。
私は女優になるのよ。
そこまで思いついた時、
「さあさあ、アスカ、もうひと眠りしよう」と王子がベッドに潜り込んできた。
「何、図々しいこと言ってんのよ」とアスカはシルバン王子を蹴飛ばして部屋から追い出した。
「さあ、これでゆっくり休める」と横になると、
ドアからペルーラが入ってきた。
しかし、体の組織が一定以上破壊されてしまうと手遅れだ。
「頼むぞ。効いてくれ。間に合ってくれ」イル博士は祈りながら、我が娘に飲ませるようにアスカにカクテル薬を飲ませた。
アスカは死の淵をさまよっていた。
小さな川が見えてきた。
アスカは引き寄せられるようにその川に向かった。
その川に足先が触れると、それまでの事が走馬灯のように頭の中を一瞬で駆け巡った。
エドワルド王子、富豪のジャルジャン、山賊ミカラムとその妻エレナ、リディア嬢、黒猫ペルーラとの出会い。そして、浮気者の元婚約者。
ああ、このまま終わるのはなんだか悔しい。
せっかくいい出会いがあったのに、このまま死んでしまうのか。まるであの浮気者の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
せめて、王子と結ばれていれば・・・。
そう思って後ろを振り返った。
シュン!
体全体が後ろに吸い込まれるような感覚がした。
ベッドの上でアスカは目覚めた。
寝汗をびっしょりかいて気持ち悪い。
そして、何よりも胸が苦しい。
「ハア、ハア、ハア」
ふと胸の上に置かれた重たいものを両腕で持ち上げる。
すると、それは人の腕だった。
「ムニャムニャムニャ」
隣でシルバン王子が寝ている。
「キャー!」アスカは大声で叫ぶと、シルバン王子の腕を払い除け、枕でシルバン王子の顔を殴った。
「痴漢よ! 痴漢!」
「待って、待って、アスカ、僕だよ、僕」
アスカはシルバン王子の言葉を無視して殴り続けた。
「なんでそこにいるのよ」
「看病していたんだよ」
「だからと言って人の胸を触っていいわけないでしょ」
「言っとくけど、僕は女の子の胸なんて触りなれているから、君の胸なんて興味無いよ」
「なんなのよ。なんかムカつくわね」
イル博士と近衛兵達が部屋に駆けつけた頃には、枕が破れて羽毛が部屋中にちらばっていた。
「どうやら元気になったようじゃの」
イル博士が微笑みながらつぶやいた。
そう言えば、台風が去った後のように気分が晴れていることにアスカは気がついた。
「カクテル薬が効いたようじゃな。良かったよ」
「ものすごい熱だったんだから。心配したよ」シルバン王子がアスカの顔を覗き込む。
アスカは一旦、プイッと顔を背けてから、イル博士の方を向いて「ありがとございました」とお礼をいった。
「それじゃあ、我々は退席するか。もう少しそこでゆっくりと養生しなさい。それから、これに懲りて、脱走なんて考えるのはお止めなさいよ。何も良いことは無いよ」
「はい」
アスカはイル博士に言われるまでもなく、脱走はこりごりだった。
あんな死にそうな目にあうのは二度と嫌だ。
三途の川で元婚約者で浮気男のタクヤのことを思い出し、意地でも幸せになってやると決めた。
今、自分に求められているものが、王子の妃になる事ならば、それも悪くない。
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そうよ、演じればいいのよ。
私は女優になるのよ。
そこまで思いついた時、
「さあさあ、アスカ、もうひと眠りしよう」と王子がベッドに潜り込んできた。
「何、図々しいこと言ってんのよ」とアスカはシルバン王子を蹴飛ばして部屋から追い出した。
「さあ、これでゆっくり休める」と横になると、
ドアからペルーラが入ってきた。
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