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エスタ王国
時計
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「ここは?」
アスカはシルバン王子に尋ねた。
「ここは僕の隠れ家さ。時々ここに来て勉強する」
部屋の奥には人影があった。
「さあ、こっちに来て。僕の師匠のイル博士だ」
「はじめまして。君がアスカさんかね」
「はじめまして。なぜ私の名前を」
「エドワルド王子から聞いていたんだよ。その『月の時計』を持っていたお嬢さんだとね」
「あ、この時計」
「その時計はどこで手に入れたんだね」
イル博士は疑いの目を持ってアスカを見ている。
アスカは緊張しながら、マルセイユの貴金属店で2000ユーロで買ったことを説明した。
「マルセイユ? ユーロ? そんな場所や通貨は聞いた事ないぞ。この分厚い百科事典にも載っていない。一体なんの事じゃ」
「フランスの南の方で……」
「なんの事かさっぱりわからん」
シルバン王子がニヤニヤしながら見ている。
「イル博士にも分からないことがあるだねー」
「そんなに喜ぶなよ。そりゃあ博学と言われている私でも知らないことは沢山あるよ」
イル博士は地図を広げた。
その地図は、世界地図のようだった。
「アスカさんはどこからきた?」
アスカは地図をひと通り見て、一番日本に近い形の場所を指さした。
「ひ、東だ」イル博士とシルバン王子が目を見合わせた。
「間違いないようだ」イル博士が大きく頷いている。
「ところで、アスカ、その時計だけど、この古文書に絵が載っているんだ」シルバン王子が古文書をアスカに見せた。
「ほんとだ。形も大きさも同じだわ」
「そして、ここには
『 月の時計を持つ長き髪の女、東より現る。その女を王子の妃にすべし。すなわち国栄える』
と書かれている。
この事を知っていたか?」
アスカは驚いて首を横に振った。
「し、知らないわ。そんな事」
「アスカ、君はこの国の妃になるべき人物なんだ」
「そ、そんな。私はこの時計をお店で買っただけなんで人違いです。本来の持ち主を探さないと」
「いや、もう遅い。私はアンリ国王から貴方のことを調べるように命令を受けている。貴方はその時計を持って東から現れた。それで間違いない。あなたは妃になるべきお方だ。王に嘘を報告する訳にはいかない」
「え、え、えーーー!?」
アスカは急な話に混乱した。
皇后の冷たい眼差しを思い出し、威厳のあるアンリ国王の事を思い出した。あの人たちが義理の父母になるって言うの?とてもじゃないけど大変そう。堅苦しそうだし、上手くやって行ける自信がない。私は普通の幸せな結婚がしたいのよ。私に選択の自由はないの?
「それと、この事は誰にも言わない方がよろしい。妃が決まったとなると国は混乱するだろう。貴方は下手をすれば命を狙わねかねない。王室との婚姻関係を狙う貴族は沢山いるから」
「まあ、何か困ったことがあったら僕に言ってね」とシルバン王子はキラリと笑顔を見せた。
いや、そんなに軽く言われても。エドワルド王子もいないし、王子が帰ってきても結婚するとは限らないし、王子が帰ってこなかったらどうなるんだろう。命を狙われる事にでもなったら……。
アスカはあの時計を買った時から、こうなる運命だったのかもしれないと半ば諦めた。
アスカはシルバン王子に尋ねた。
「ここは僕の隠れ家さ。時々ここに来て勉強する」
部屋の奥には人影があった。
「さあ、こっちに来て。僕の師匠のイル博士だ」
「はじめまして。君がアスカさんかね」
「はじめまして。なぜ私の名前を」
「エドワルド王子から聞いていたんだよ。その『月の時計』を持っていたお嬢さんだとね」
「あ、この時計」
「その時計はどこで手に入れたんだね」
イル博士は疑いの目を持ってアスカを見ている。
アスカは緊張しながら、マルセイユの貴金属店で2000ユーロで買ったことを説明した。
「マルセイユ? ユーロ? そんな場所や通貨は聞いた事ないぞ。この分厚い百科事典にも載っていない。一体なんの事じゃ」
「フランスの南の方で……」
「なんの事かさっぱりわからん」
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「イル博士にも分からないことがあるだねー」
「そんなに喜ぶなよ。そりゃあ博学と言われている私でも知らないことは沢山あるよ」
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「アスカさんはどこからきた?」
アスカは地図をひと通り見て、一番日本に近い形の場所を指さした。
「ひ、東だ」イル博士とシルバン王子が目を見合わせた。
「間違いないようだ」イル博士が大きく頷いている。
「ところで、アスカ、その時計だけど、この古文書に絵が載っているんだ」シルバン王子が古文書をアスカに見せた。
「ほんとだ。形も大きさも同じだわ」
「そして、ここには
『 月の時計を持つ長き髪の女、東より現る。その女を王子の妃にすべし。すなわち国栄える』
と書かれている。
この事を知っていたか?」
アスカは驚いて首を横に振った。
「し、知らないわ。そんな事」
「アスカ、君はこの国の妃になるべき人物なんだ」
「そ、そんな。私はこの時計をお店で買っただけなんで人違いです。本来の持ち主を探さないと」
「いや、もう遅い。私はアンリ国王から貴方のことを調べるように命令を受けている。貴方はその時計を持って東から現れた。それで間違いない。あなたは妃になるべきお方だ。王に嘘を報告する訳にはいかない」
「え、え、えーーー!?」
アスカは急な話に混乱した。
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「それと、この事は誰にも言わない方がよろしい。妃が決まったとなると国は混乱するだろう。貴方は下手をすれば命を狙わねかねない。王室との婚姻関係を狙う貴族は沢山いるから」
「まあ、何か困ったことがあったら僕に言ってね」とシルバン王子はキラリと笑顔を見せた。
いや、そんなに軽く言われても。エドワルド王子もいないし、王子が帰ってきても結婚するとは限らないし、王子が帰ってこなかったらどうなるんだろう。命を狙われる事にでもなったら……。
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