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エスタ王国
シルバン王子の機転
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「母上、アスカ殿に責任はございません」
「シルバン!」
「エドワルド王子は自分の意思で、一人ルーカス王国に乗り込んだのです」
「そ、それはそうだけど……」
「兄さんはきっと帰ってきます。ラウール達も精鋭部隊を連れて助けに向かっているのです」
「だけど、エドワルドが無事帰ってこれるという保証はないわ。万が一の時の責任は一体誰がとってくれると言うの」
「母上! もしも彼らが信頼できぬと言うならば、私が自ら探しに行きましょう。兄を見つけるまでは帰って来ません」
シルバン王子は剣を両手で持ち、高く掲げた。
「そ、それはよしておくれ。シルバン王子、あなたまでもいなくなったらこの国はどうすればいいの」
「いや、愛する兄のため、私は命を捨てる覚悟はできております」
「や、やめて。シルバン王子」
「母上、ではお約束して下さい」
「な、何を」
「エドワルド王子が帰ってくることを信じて待ちましょう。彼は強い王子です。これしきのことではやられませんよ。どっしりとかまえておいてください」
「わ、分かりました。信じて待ちましょう」
「母上殿、辛いですが、今は信じるしかありません」
「そうね。そうしましょう。あああ」
皇后とシルバン王子は抱き合って慰めあった。
「さあ、いつまでも悲しんでいる訳にはいきません。私達は万一の為に敵に備える必要があります」
シルバン王子は立ち上がり、アスカの手を引いた。
「ちょっと待ってください。皇后様にお渡ししたいものがあります」
そう言って、アスカはエドワルド王子から預かっていた短剣を差し出した。
皇后はその短剣を受け取るとまるで我が子を抱くように短剣を抱きしめた。
「エドワルド、エドワルド、どうかご無事で」
部屋を出るとアスカは、複雑な気持ちだった。エドワルド王子を危険な目にあわせているのはやはり自分に原因がある。母親としての皇后の心配な気持ちがよく分かる。
「エドワルド王子は本当に大丈夫かしら」
「兄さんの事がそんなに心配?」
「そ、それは、まあ。私に原因があるわけだし」
「妬けるなあ。兄さんだって死ぬ時は死ぬ。もし、死んでいたとしても、それが運命だよ」
「え?」
アスカはシルバン王子の言うことが、皇后の前とあまりにも違うのに驚いた。とても冷静だ。
「兄さんが死んでいたとしてもしょうがない。それにアスカのせいじゃないよ。君はなんにも責任を感じることは無い」
「あのー、シルバン王子はエドワルド王子の事が心配ではないのですか?」
「僕が? そんなことあるわけないじゃない」
「さっきはエドワルド王子を命がけで助けに行くって言っていたじゃないですか」
「ああ、あれは母上から君をかばうために言っただけだよ。本音を言うとね、エドワルド王子には死んでもらった方が僕にとっては好都合なんだよ」
「そ、そんな」
「薄情って言いたいんだろ。しょうがないよ。兄とは幼い頃から王座を争うライバルとして育てられてきたんだ。普通の兄弟とは違うのさ」
アスカは王家の裏の顔を覗き見た気がした。
それにしても、王と皇后の前での態度が演技だとすると、シルバン王子は内心何を考えているか分からない。油断ならない人物だ。
「アスカ、ついてきて。君に合わせたい人がいる」
シルバン王子の後について行くと、分厚い本が沢山ある部屋に案内された。
「シルバン!」
「エドワルド王子は自分の意思で、一人ルーカス王国に乗り込んだのです」
「そ、それはそうだけど……」
「兄さんはきっと帰ってきます。ラウール達も精鋭部隊を連れて助けに向かっているのです」
「だけど、エドワルドが無事帰ってこれるという保証はないわ。万が一の時の責任は一体誰がとってくれると言うの」
「母上! もしも彼らが信頼できぬと言うならば、私が自ら探しに行きましょう。兄を見つけるまでは帰って来ません」
シルバン王子は剣を両手で持ち、高く掲げた。
「そ、それはよしておくれ。シルバン王子、あなたまでもいなくなったらこの国はどうすればいいの」
「いや、愛する兄のため、私は命を捨てる覚悟はできております」
「や、やめて。シルバン王子」
「母上、ではお約束して下さい」
「な、何を」
「エドワルド王子が帰ってくることを信じて待ちましょう。彼は強い王子です。これしきのことではやられませんよ。どっしりとかまえておいてください」
「わ、分かりました。信じて待ちましょう」
「母上殿、辛いですが、今は信じるしかありません」
「そうね。そうしましょう。あああ」
皇后とシルバン王子は抱き合って慰めあった。
「さあ、いつまでも悲しんでいる訳にはいきません。私達は万一の為に敵に備える必要があります」
シルバン王子は立ち上がり、アスカの手を引いた。
「ちょっと待ってください。皇后様にお渡ししたいものがあります」
そう言って、アスカはエドワルド王子から預かっていた短剣を差し出した。
皇后はその短剣を受け取るとまるで我が子を抱くように短剣を抱きしめた。
「エドワルド、エドワルド、どうかご無事で」
部屋を出るとアスカは、複雑な気持ちだった。エドワルド王子を危険な目にあわせているのはやはり自分に原因がある。母親としての皇后の心配な気持ちがよく分かる。
「エドワルド王子は本当に大丈夫かしら」
「兄さんの事がそんなに心配?」
「そ、それは、まあ。私に原因があるわけだし」
「妬けるなあ。兄さんだって死ぬ時は死ぬ。もし、死んでいたとしても、それが運命だよ」
「え?」
アスカはシルバン王子の言うことが、皇后の前とあまりにも違うのに驚いた。とても冷静だ。
「兄さんが死んでいたとしてもしょうがない。それにアスカのせいじゃないよ。君はなんにも責任を感じることは無い」
「あのー、シルバン王子はエドワルド王子の事が心配ではないのですか?」
「僕が? そんなことあるわけないじゃない」
「さっきはエドワルド王子を命がけで助けに行くって言っていたじゃないですか」
「ああ、あれは母上から君をかばうために言っただけだよ。本音を言うとね、エドワルド王子には死んでもらった方が僕にとっては好都合なんだよ」
「そ、そんな」
「薄情って言いたいんだろ。しょうがないよ。兄とは幼い頃から王座を争うライバルとして育てられてきたんだ。普通の兄弟とは違うのさ」
アスカは王家の裏の顔を覗き見た気がした。
それにしても、王と皇后の前での態度が演技だとすると、シルバン王子は内心何を考えているか分からない。油断ならない人物だ。
「アスカ、ついてきて。君に合わせたい人がいる」
シルバン王子の後について行くと、分厚い本が沢山ある部屋に案内された。
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