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シルバン
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巨大な軍船があっという間に近づいてきた。
この軍船が敵船であったならもう助からない。
アスカの乗っている船はもうボロボロで逃げることは出来ないのだ。
アスカは覚悟を決めた。
しばらくして軍船からスルスルと人が乗った箱のようなものがロープで吊るされて降りてきた。
アスカは警戒して王子の短剣を握りしめた。敵だったら戦うしかない。
降りてくる箱の中には数人の兵士に混じって鮮やかな青色に染められた王族の衣装を着た人物がいた。
その人物は軽く身をひるがえして船上に飛び降りるとストンと膝を曲げて着地した。
そして、顔を上げた。ブロンドのサラサラヘアーから覗く顔はとても整っていた。
アスカは(何カッコつけてんのよこの男は。そんな事してる場合じゃないでしょ。こちとら命懸けなのよ)と思っていた。
男は少しの間キメ顔をしていたが、
「痛たたた」と膝を大袈裟にさすった。
注目していたみんながドッと笑った。
場が和んだところで男は言った。
「我はエスタ王国のシルバン王子。何か困り事があればお助けしよう」
「味方だー」
と船上は沸き立った。
「それにしても美しいお嬢様がたくさん乗ってらっしゃいますね」
その時、ドスンと船に衝撃が走った。
「な、なんだ」とシルバン王子が驚く。
「サメです」
「サメ?」
シルバン王子は急いで海面を確認した。たくさんの背鰭が海面を泳いでいる。
「あれはホホジロザメじゃないか」
「そうです。この船では持ちません。救助して下さい」と船長が言った。
「そうか。わかりました。直ぐに私の船に乗り移りなさい」
シルバン王子は兵士に指示を出して、怪我人や令嬢達から優先的に救出した。
アスカも船を乗り移りほっとした。大災害の時にヘリコプターで救助されている人達の気持ちがよくわかった。
「それから釣り道具を降ろしてくれ」とシルバン王子が言ったので
ええー!
とアスカは驚いた。
それからシルバン王子は先程までアスカ達が乗っていたボロボロの船の上で兵士達と一緒にホホジロザメを釣り始めた。あっという間に五匹のホホジロザメが仕留められ、軍船の上で吊るされた。
「ホホジロザメは肉にアンモニア臭があるので干さないと食べられません。しかし、高級な食材になります」
そう言って、シルバン王子はサメをナイフで解体しはじめた。
アスカは第一印象ではシルバン王子をチャラいやつと思っていたが、物凄い能力を秘めていると感じた。
「それでは皆さんをエスタ王国へお連れしますが、よろしいですか?」
みんなは拍手をして同意した。
しかし、アスカは勇気を出してシルバン王子に申し出た。
「待ってください。エドワルド王子を助けに向かってください」
「あなたは?」と問われてアスカは困った。自分はこの世界では何者なのだろう。身分も生まれも何も無い。エドワルド王子に愛されているような気がするものと言うだけなのだ。
「その短剣はエドワルド王子のもの。それにその時計はもしかして」
「私はエドワルド王子の、知り合いです。王子は単身でジャルジャンの屋敷に向かってしまわれました。港で待っていたのですが、敵船に襲われて逃げてしまったのです。王子は港で助けを待っているかも知れません」
アスカが必死で説明すると、シルバン王子はニッコリと微笑みながら言った。
「大丈夫です。エドワルド王子は我が兄です。彼のことはラウールという部下が精鋭部隊を率いて助けに向かっています。私はあなたを無事救出するように言われております」
「そ、そうなんですか」アスカは王子に救援が向かっていることを知り、張り詰めていた気が一気に緩んだ。頭から血の気が引くような気がして気を失った。体は冷えて体力の限界だったのだ。
シルバン王子は倒れかけたアスカを支えて受け止めると、お姫様抱っこをして船室に連れていき、ベッドに横たえて暖かい毛布をかけた。
アスカは胸にエドワルド王子の短剣を大事に抱えていた。
この軍船が敵船であったならもう助からない。
アスカの乗っている船はもうボロボロで逃げることは出来ないのだ。
アスカは覚悟を決めた。
しばらくして軍船からスルスルと人が乗った箱のようなものがロープで吊るされて降りてきた。
アスカは警戒して王子の短剣を握りしめた。敵だったら戦うしかない。
降りてくる箱の中には数人の兵士に混じって鮮やかな青色に染められた王族の衣装を着た人物がいた。
その人物は軽く身をひるがえして船上に飛び降りるとストンと膝を曲げて着地した。
そして、顔を上げた。ブロンドのサラサラヘアーから覗く顔はとても整っていた。
アスカは(何カッコつけてんのよこの男は。そんな事してる場合じゃないでしょ。こちとら命懸けなのよ)と思っていた。
男は少しの間キメ顔をしていたが、
「痛たたた」と膝を大袈裟にさすった。
注目していたみんながドッと笑った。
場が和んだところで男は言った。
「我はエスタ王国のシルバン王子。何か困り事があればお助けしよう」
「味方だー」
と船上は沸き立った。
「それにしても美しいお嬢様がたくさん乗ってらっしゃいますね」
その時、ドスンと船に衝撃が走った。
「な、なんだ」とシルバン王子が驚く。
「サメです」
「サメ?」
シルバン王子は急いで海面を確認した。たくさんの背鰭が海面を泳いでいる。
「あれはホホジロザメじゃないか」
「そうです。この船では持ちません。救助して下さい」と船長が言った。
「そうか。わかりました。直ぐに私の船に乗り移りなさい」
シルバン王子は兵士に指示を出して、怪我人や令嬢達から優先的に救出した。
アスカも船を乗り移りほっとした。大災害の時にヘリコプターで救助されている人達の気持ちがよくわかった。
「それから釣り道具を降ろしてくれ」とシルバン王子が言ったので
ええー!
とアスカは驚いた。
それからシルバン王子は先程までアスカ達が乗っていたボロボロの船の上で兵士達と一緒にホホジロザメを釣り始めた。あっという間に五匹のホホジロザメが仕留められ、軍船の上で吊るされた。
「ホホジロザメは肉にアンモニア臭があるので干さないと食べられません。しかし、高級な食材になります」
そう言って、シルバン王子はサメをナイフで解体しはじめた。
アスカは第一印象ではシルバン王子をチャラいやつと思っていたが、物凄い能力を秘めていると感じた。
「それでは皆さんをエスタ王国へお連れしますが、よろしいですか?」
みんなは拍手をして同意した。
しかし、アスカは勇気を出してシルバン王子に申し出た。
「待ってください。エドワルド王子を助けに向かってください」
「あなたは?」と問われてアスカは困った。自分はこの世界では何者なのだろう。身分も生まれも何も無い。エドワルド王子に愛されているような気がするものと言うだけなのだ。
「その短剣はエドワルド王子のもの。それにその時計はもしかして」
「私はエドワルド王子の、知り合いです。王子は単身でジャルジャンの屋敷に向かってしまわれました。港で待っていたのですが、敵船に襲われて逃げてしまったのです。王子は港で助けを待っているかも知れません」
アスカが必死で説明すると、シルバン王子はニッコリと微笑みながら言った。
「大丈夫です。エドワルド王子は我が兄です。彼のことはラウールという部下が精鋭部隊を率いて助けに向かっています。私はあなたを無事救出するように言われております」
「そ、そうなんですか」アスカは王子に救援が向かっていることを知り、張り詰めていた気が一気に緩んだ。頭から血の気が引くような気がして気を失った。体は冷えて体力の限界だったのだ。
シルバン王子は倒れかけたアスカを支えて受け止めると、お姫様抱っこをして船室に連れていき、ベッドに横たえて暖かい毛布をかけた。
アスカは胸にエドワルド王子の短剣を大事に抱えていた。
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