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獰猛な海の生き物
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アスカの乗った船は帆が広げられて辛うじて進んでいるが、穴だらなのであまり役に立っていなかった。さらに、傾いた船には海水が入り込んで今にも沈みそうである。
アスカはエドワルド王子から預かった短剣を腰にぶら下げて、船内に溜まった海水をバケツで汲み出していた。服は血に染っている。
季節は冬に向かっており、動いていなければ海水に濡れた体が冷えて動かなくなってしまいそうだ。
ペルーラが梁の上をトントントンと歩いて、海を覗き込んでいた。
アスカは一刻も早く王子の為に助けを呼んで来たいと思っていた。王子を手紙で呼んだのは自分である。責任を感じていた。
もちろんこんな危険な目に合うなんて思いもしていなかった。
戦争で人が死ぬことは頭では分かっていたが、現実に目の当たりにするととてもじゃないが受け入れられなかった。
今も、リディア嬢の遺骸が船上に放置されている。
せめて丁重に埋葬してやりたかった。
そんなことを考えていると、突然船底からドスンと振動が伝わり、船が揺れた。何かが下から突き上げているような衝撃だ。
海面を見ていたペルーラが走りよってきた。
「サメだ」
アスカは海面を見渡した。
静かな海面が所々揺れている。
映画で見たことあるような背鰭が海面に現れた。
かなり大きい。
定期的にドカンとサメが船に体当たりして来る。船から流れる人の血がサメをおびき寄せてしまったようだ。
漁師達がオールを出して船を漕ぎ始めた。
「サメに襲撃されたら船が持たない。海岸に向かうぞ」
「兵隊から逃げのびたと思ったら今度はサメかよ」と誰かがぼやいた。
ほんとにその通りだとアスカも思った。
ゆっくりと岸に向けて船が進み始めた。
背鰭が数匹ついてくる。
ルアーのようにサメを刺激してしまったのか
1匹のサメが船の後尾に食いついてきた。
バシャーンと水しぶきが上がって船が大きく沈んだ。
サメが体の上半身を船の上に乗せて暴れている。
「で、でかいぞ。ホホジロザメだ! 」漁師の1人が叫んだ。
別の漁師がモリを持って鮫に向かった。
その漁師は大きな歯が剥き出しになっているサメの目をモリで突き刺した。
その瞬間、痛みからかサメが大きく跳ねて船がバウンドして大きく傾いた。目を刺した漁師はバランスを失って海に転落してしまった。
落ちた漁師を別のサメが咥えて大きく海面をジャンプした。
着地して起きた大きな波で船が揺れて、それが収まると海が静かになった。
サメ達は先程の獲物を海中で奪い合っているのだろう。
「い、今のうちだ。早く漕げ!」
船長がそう叫ぶと漁師達は一斉にオールを漕ぎ始めた。
しかし、沈みかけの船はなかなか進まない。
直ぐにサメたちに取り囲まれてしまった。
「そこの死体を海に放り込め」と船長の男が言うと、漁師達はリディア嬢の死体を担ぎ始めた。
「やめてー」アスカは叫んだ。
リディアの死体をサメの餌にする訳にはいかない。
「気持ちは分かるが、このままじゃ全員サメに食われちまう。少しでも生き延びる方法を選択しなきゃいけない」
漁師が申し訳なさそうに言った。
アスカは泣きじゃくりながら、リディア嬢の死体に抱きついた。
そして、王子の短剣を抜くと、リディア嬢のブロンドの髪を一束切り取った。カールがかかっていてとても美しかった。
「せめてこの髪は持ち帰らせてください」
「そ、それは好きにしな」
令嬢達は集まって泣きながらリディアに最後のお別れをした。
「リディア様ー」みんなが叫ぶ中、リディアは静かに海に投入された。透き通った海に沈んでいくリディアは女神の様に美しく、理想的な体をしていた。生きている間に美しさを保つためにどれほど努力をしていたのかが伺われた。
すぐさまその美しい体にサメが襲いかかって食いちぎっていった。
漁師達は必死でオールを漕いで岸を目指した。
「何か近づいてくるぞー」
叫び声につられて海を見渡すと遠くから1隻の船が猛スピードで近づいてきていた。
敵なのか、味方なのかまだ分からなかった。
アスカはエドワルド王子から預かった短剣を腰にぶら下げて、船内に溜まった海水をバケツで汲み出していた。服は血に染っている。
季節は冬に向かっており、動いていなければ海水に濡れた体が冷えて動かなくなってしまいそうだ。
ペルーラが梁の上をトントントンと歩いて、海を覗き込んでいた。
アスカは一刻も早く王子の為に助けを呼んで来たいと思っていた。王子を手紙で呼んだのは自分である。責任を感じていた。
もちろんこんな危険な目に合うなんて思いもしていなかった。
戦争で人が死ぬことは頭では分かっていたが、現実に目の当たりにするととてもじゃないが受け入れられなかった。
今も、リディア嬢の遺骸が船上に放置されている。
せめて丁重に埋葬してやりたかった。
そんなことを考えていると、突然船底からドスンと振動が伝わり、船が揺れた。何かが下から突き上げているような衝撃だ。
海面を見ていたペルーラが走りよってきた。
「サメだ」
アスカは海面を見渡した。
静かな海面が所々揺れている。
映画で見たことあるような背鰭が海面に現れた。
かなり大きい。
定期的にドカンとサメが船に体当たりして来る。船から流れる人の血がサメをおびき寄せてしまったようだ。
漁師達がオールを出して船を漕ぎ始めた。
「サメに襲撃されたら船が持たない。海岸に向かうぞ」
「兵隊から逃げのびたと思ったら今度はサメかよ」と誰かがぼやいた。
ほんとにその通りだとアスカも思った。
ゆっくりと岸に向けて船が進み始めた。
背鰭が数匹ついてくる。
ルアーのようにサメを刺激してしまったのか
1匹のサメが船の後尾に食いついてきた。
バシャーンと水しぶきが上がって船が大きく沈んだ。
サメが体の上半身を船の上に乗せて暴れている。
「で、でかいぞ。ホホジロザメだ! 」漁師の1人が叫んだ。
別の漁師がモリを持って鮫に向かった。
その漁師は大きな歯が剥き出しになっているサメの目をモリで突き刺した。
その瞬間、痛みからかサメが大きく跳ねて船がバウンドして大きく傾いた。目を刺した漁師はバランスを失って海に転落してしまった。
落ちた漁師を別のサメが咥えて大きく海面をジャンプした。
着地して起きた大きな波で船が揺れて、それが収まると海が静かになった。
サメ達は先程の獲物を海中で奪い合っているのだろう。
「い、今のうちだ。早く漕げ!」
船長がそう叫ぶと漁師達は一斉にオールを漕ぎ始めた。
しかし、沈みかけの船はなかなか進まない。
直ぐにサメたちに取り囲まれてしまった。
「そこの死体を海に放り込め」と船長の男が言うと、漁師達はリディア嬢の死体を担ぎ始めた。
「やめてー」アスカは叫んだ。
リディアの死体をサメの餌にする訳にはいかない。
「気持ちは分かるが、このままじゃ全員サメに食われちまう。少しでも生き延びる方法を選択しなきゃいけない」
漁師が申し訳なさそうに言った。
アスカは泣きじゃくりながら、リディア嬢の死体に抱きついた。
そして、王子の短剣を抜くと、リディア嬢のブロンドの髪を一束切り取った。カールがかかっていてとても美しかった。
「せめてこの髪は持ち帰らせてください」
「そ、それは好きにしな」
令嬢達は集まって泣きながらリディアに最後のお別れをした。
「リディア様ー」みんなが叫ぶ中、リディアは静かに海に投入された。透き通った海に沈んでいくリディアは女神の様に美しく、理想的な体をしていた。生きている間に美しさを保つためにどれほど努力をしていたのかが伺われた。
すぐさまその美しい体にサメが襲いかかって食いちぎっていった。
漁師達は必死でオールを漕いで岸を目指した。
「何か近づいてくるぞー」
叫び声につられて海を見渡すと遠くから1隻の船が猛スピードで近づいてきていた。
敵なのか、味方なのかまだ分からなかった。
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