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この世界では人はいとも簡単に死んでしまうのか
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「リディア様ー!」
という令嬢の叫び声が聞こえた。
アスカがそちらを向くと、リディア嬢が口から血を吐いていた。
背中に木の板を背負ったまま、矢がリディア嬢の胸を貫いている。
直ぐにリディア嬢をしたう令嬢達が4、5人集まってきた。アスカも直ぐにリディアの元に駆けつけた。
「ゴフッ」と肺から空気が出てくるような音がして口から血が溢れた。目は生気を失ってる。胸からも大量の血が出ていて生臭い血の匂いが漂っていた。
「リディア嬢!」
アスカはリディアを抱えようとしたが、板が邪魔になって抱えられなかった。矢を抜こうとしたが、力を入れても抜けない。
アスカは息絶えていくリディアを目の前にして成すすべがなかった。
しばらくして、リディアは顔から血の気が引いて動かなくなった。目はどこも見ていない。
この世界では人はいとも簡単に死んでしまうのか。
アスカは恐怖と悲しさでパニックになって涙が溢れた。
そうしていると令嬢の一人の太ももに矢が突き刺さった。
「痛い!」と叫んで歯を食いしばっている。
アスカはその叫びを聞いて、ハッとして矢が飛んできた方を睨んだ。
敵兵達がはしゃいで喜んでいるのが見える。まるで人の死を楽しんでいるかのようだ。
これが戦争なんだ。
アスカは悲しんでいる場合でないことに気づき、負傷した令嬢を引きずり陰に身を隠した。
船が大きく舵を切って浅瀬の方に向かった。
船底が時々岩にぶつかる度に大きな衝撃が伝わってくる。船の上では人がジャガイモのように転がった。
「しっかり捕まってろ」船長が大声で叫ぶ。
ガリガリガリと船底が岩に削られる音がする。船が浅瀬に突っ込んでいるのだ。
「おもかぁじいっぱーい」と船長が叫ぶと、船はゆっくりと大きく傾き、進路を右に変えた。アスカは負傷した令嬢を抱えたまま必死に船にしがみついていた。
岩にのりあげる直前に船は海岸沿いに並行に進路を変えた。船長はこの辺りの漁師なので海底の地形を熟知していた。イチがバチかの作戦に出たのだ。
追ってくる敵船は勢い余って船底を思いっきり岩にぶつけた。敵船は推進力を失い、みるみる遠ざかっていった。敵船の上では敵兵が地団駄踏んでいる。なんとか敵兵からの脅威から脱出することが出来た。
しかし、アスカの乗っている船も被害は大きかった。舵が折れ、進行方向を選ぶことが出来なくなっていた。帆による推進力が辛うじて船を進めるが、船は傾き、波を受ける度に海水が船の上に入り込んできた。怪我をしていない男どもは船が沈まないように水を掻き出し続けた。
怪我をしていないアスカは負傷者の手当に奔走した。令嬢の太ももから矢を抜き、布で縛って止血を行った。令嬢は酷く痛がったが、何とかしないとまた人が死んでしまうかもしれないと思い夢中だった。
日が暮れ始め、破れた帆を畳んでほぼ潮任せにして船は進んだ。風の力で速く進むのは危険だった。
物凄く綺麗な夕日なのに心細さばかりが際立った。
夜の間、負傷者のうめき声と令嬢達のすすり泣きがずっと船上を支配した。
リーダー格のリディア嬢が死んでしまった悲しみはとても深かった。我儘に振舞っていたように見えたが、リディアは親分肌で令嬢達からはとても慕われていたのだ。アスカも涙が止まらなかった。
そして、独りジャルジャンの屋敷に向かって行ったエドワルド王子の事を思った。あの方はこの世界に紛れ込んだ私を救うために来てくれたのだ。本当はそんな事で死んではいけない方なのだ。出来ることなら生き延びていて欲しい。今まで見たこともないような無数の星に願った。
ほとんど眠れぬまま空が薄明るくなってきた。
という令嬢の叫び声が聞こえた。
アスカがそちらを向くと、リディア嬢が口から血を吐いていた。
背中に木の板を背負ったまま、矢がリディア嬢の胸を貫いている。
直ぐにリディア嬢をしたう令嬢達が4、5人集まってきた。アスカも直ぐにリディアの元に駆けつけた。
「ゴフッ」と肺から空気が出てくるような音がして口から血が溢れた。目は生気を失ってる。胸からも大量の血が出ていて生臭い血の匂いが漂っていた。
「リディア嬢!」
アスカはリディアを抱えようとしたが、板が邪魔になって抱えられなかった。矢を抜こうとしたが、力を入れても抜けない。
アスカは息絶えていくリディアを目の前にして成すすべがなかった。
しばらくして、リディアは顔から血の気が引いて動かなくなった。目はどこも見ていない。
この世界では人はいとも簡単に死んでしまうのか。
アスカは恐怖と悲しさでパニックになって涙が溢れた。
そうしていると令嬢の一人の太ももに矢が突き刺さった。
「痛い!」と叫んで歯を食いしばっている。
アスカはその叫びを聞いて、ハッとして矢が飛んできた方を睨んだ。
敵兵達がはしゃいで喜んでいるのが見える。まるで人の死を楽しんでいるかのようだ。
これが戦争なんだ。
アスカは悲しんでいる場合でないことに気づき、負傷した令嬢を引きずり陰に身を隠した。
船が大きく舵を切って浅瀬の方に向かった。
船底が時々岩にぶつかる度に大きな衝撃が伝わってくる。船の上では人がジャガイモのように転がった。
「しっかり捕まってろ」船長が大声で叫ぶ。
ガリガリガリと船底が岩に削られる音がする。船が浅瀬に突っ込んでいるのだ。
「おもかぁじいっぱーい」と船長が叫ぶと、船はゆっくりと大きく傾き、進路を右に変えた。アスカは負傷した令嬢を抱えたまま必死に船にしがみついていた。
岩にのりあげる直前に船は海岸沿いに並行に進路を変えた。船長はこの辺りの漁師なので海底の地形を熟知していた。イチがバチかの作戦に出たのだ。
追ってくる敵船は勢い余って船底を思いっきり岩にぶつけた。敵船は推進力を失い、みるみる遠ざかっていった。敵船の上では敵兵が地団駄踏んでいる。なんとか敵兵からの脅威から脱出することが出来た。
しかし、アスカの乗っている船も被害は大きかった。舵が折れ、進行方向を選ぶことが出来なくなっていた。帆による推進力が辛うじて船を進めるが、船は傾き、波を受ける度に海水が船の上に入り込んできた。怪我をしていない男どもは船が沈まないように水を掻き出し続けた。
怪我をしていないアスカは負傷者の手当に奔走した。令嬢の太ももから矢を抜き、布で縛って止血を行った。令嬢は酷く痛がったが、何とかしないとまた人が死んでしまうかもしれないと思い夢中だった。
日が暮れ始め、破れた帆を畳んでほぼ潮任せにして船は進んだ。風の力で速く進むのは危険だった。
物凄く綺麗な夕日なのに心細さばかりが際立った。
夜の間、負傷者のうめき声と令嬢達のすすり泣きがずっと船上を支配した。
リーダー格のリディア嬢が死んでしまった悲しみはとても深かった。我儘に振舞っていたように見えたが、リディアは親分肌で令嬢達からはとても慕われていたのだ。アスカも涙が止まらなかった。
そして、独りジャルジャンの屋敷に向かって行ったエドワルド王子の事を思った。あの方はこの世界に紛れ込んだ私を救うために来てくれたのだ。本当はそんな事で死んではいけない方なのだ。出来ることなら生き延びていて欲しい。今まで見たこともないような無数の星に願った。
ほとんど眠れぬまま空が薄明るくなってきた。
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