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時遅し
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ジャルジャンの部屋にアスカが入ると、暗闇の中からジャルジャンの声がした。
「アスカ嬢、敷地内で何か見つけたようね。大体察しはついているわよ」
そう言いながらアスカの前に現れたジャルジャンの目は鋭くアスカをにらむ。
「はい。倉庫を見つけました。中には恐ろしい武器の山とそれから麻薬の原料がありました」
アスカは伏し目がちに本当の事を言う。隠しても無駄だ。
「ふふん。人の敷地内を詮索するとはいい度胸をしているわね」
ジャルジャンはアスカの前に立ち、威圧してくる。
アスカは怖かったが、かろうじて自分の意見を言った。
「たまたま見つけただけです。ジャルジャン様、あんなものでお金儲けをしてはいけません。世界が争いで満たされてしまいます。私がいた世界では戦争の名のもとに大規模な恐ろしい殺戮が行われ、たくさんの犠牲が出ました」
「人は争うものよ。力がすべて。力の勝るものがすべてを手に入れる。私は戦争を利用してお金を得た。そして、そのお金を使ってこの屋敷のように平和な世界を広げていくのよ」
「いけません。その平和は誰かの不幸の上に成り立っています」
アスカの足は少し震えていた。正しいことを言うのにこれほど勇気がいるとは思わなかった。
しかし、ジャルジャンの信念はアスカの意見ごときでは揺るがない。
「私の愛する者以外の奴らが不幸になっても構わないわ。特に北方三国なんてなくなってしまえばいいのよ。私の継父は北方の出身なのよ。私はその男に毎晩毎晩虐待された。その恨みの深さがわかる? 私はあの男だけは許せないわ。あの男にいつか復讐するために生きてきたの」
「その苦しみはよくわかります。しかし、その復讐心がさらに不幸な人たちを作ってしまうのです。怒りを鎮めてください」
「わかったような口をきかないで。あなたに私の気持ちがわかるはずないわ」
アスカはそれ以上何も言えなかった。正論がいつも誰かを説得できるというわけではないし、正しいことがいつも行われるわけではない。ジャルジャンにはジャルジャンなりの正義があるのだ。彼は人一倍の努力で苦しみを乗り越えて人財産築きあげた。彼は、力をつけその力で自分の周りのものに平和を与えようとしている。
誰かを傷つけ、その一方で周りの誰かを愛すことで均衡を保っているのかもしれない。
この屋敷に報われない人々を連れてきて養っているのはそういった気持ちの表れなのだろう。
しかし、そんなやり方で本当の人の心は得られない。それがわかるのでアスカの目にはジャルジャンがますます孤独になっていくような気がした。
ジャルジャンは興奮して一通り言いたいことを言ったから気が収まったのか、少し機嫌を直して言った。
「まあいいわ。どうせ、私は武器や麻薬を売るのもそろそろ止めるつもりだったから。最近は全然儲からなくなってきたのよ。だから新しい稼ぎ方を勉強しなくちゃ。アスカちゃんの言っていた石油エネルギーってのに興味があるの。今日はそれについてもっと詳しく聞かせて」
「わかりました。私も石油が掘られているのを実際に見たことはないのですが、地下に埋まっているらしいです」
「確か南の方の国の地下から臭い液体が出てきたって言う噂を聞いたことがあるわね。もしかしてそれのことかしら」
アスカはジャルジャンが戦争以外の方法で金を稼ぐことには協力しようと思った。新しい技術に気が向けば争いが減るかもしれない。
しかし、すでに時遅かった。
次の朝、ジャルジャンの屋敷から見渡せるルーカス王国の港で火の手が上がっていた。
真っ黒い煙がモクモクと立ち上り、町中のいたるところで争いが起こっていた。
見たこともない大きな帆船が4隻が港の近くの海に停泊しているのが見えた。
「アスカ嬢、敷地内で何か見つけたようね。大体察しはついているわよ」
そう言いながらアスカの前に現れたジャルジャンの目は鋭くアスカをにらむ。
「はい。倉庫を見つけました。中には恐ろしい武器の山とそれから麻薬の原料がありました」
アスカは伏し目がちに本当の事を言う。隠しても無駄だ。
「ふふん。人の敷地内を詮索するとはいい度胸をしているわね」
ジャルジャンはアスカの前に立ち、威圧してくる。
アスカは怖かったが、かろうじて自分の意見を言った。
「たまたま見つけただけです。ジャルジャン様、あんなものでお金儲けをしてはいけません。世界が争いで満たされてしまいます。私がいた世界では戦争の名のもとに大規模な恐ろしい殺戮が行われ、たくさんの犠牲が出ました」
「人は争うものよ。力がすべて。力の勝るものがすべてを手に入れる。私は戦争を利用してお金を得た。そして、そのお金を使ってこの屋敷のように平和な世界を広げていくのよ」
「いけません。その平和は誰かの不幸の上に成り立っています」
アスカの足は少し震えていた。正しいことを言うのにこれほど勇気がいるとは思わなかった。
しかし、ジャルジャンの信念はアスカの意見ごときでは揺るがない。
「私の愛する者以外の奴らが不幸になっても構わないわ。特に北方三国なんてなくなってしまえばいいのよ。私の継父は北方の出身なのよ。私はその男に毎晩毎晩虐待された。その恨みの深さがわかる? 私はあの男だけは許せないわ。あの男にいつか復讐するために生きてきたの」
「その苦しみはよくわかります。しかし、その復讐心がさらに不幸な人たちを作ってしまうのです。怒りを鎮めてください」
「わかったような口をきかないで。あなたに私の気持ちがわかるはずないわ」
アスカはそれ以上何も言えなかった。正論がいつも誰かを説得できるというわけではないし、正しいことがいつも行われるわけではない。ジャルジャンにはジャルジャンなりの正義があるのだ。彼は人一倍の努力で苦しみを乗り越えて人財産築きあげた。彼は、力をつけその力で自分の周りのものに平和を与えようとしている。
誰かを傷つけ、その一方で周りの誰かを愛すことで均衡を保っているのかもしれない。
この屋敷に報われない人々を連れてきて養っているのはそういった気持ちの表れなのだろう。
しかし、そんなやり方で本当の人の心は得られない。それがわかるのでアスカの目にはジャルジャンがますます孤独になっていくような気がした。
ジャルジャンは興奮して一通り言いたいことを言ったから気が収まったのか、少し機嫌を直して言った。
「まあいいわ。どうせ、私は武器や麻薬を売るのもそろそろ止めるつもりだったから。最近は全然儲からなくなってきたのよ。だから新しい稼ぎ方を勉強しなくちゃ。アスカちゃんの言っていた石油エネルギーってのに興味があるの。今日はそれについてもっと詳しく聞かせて」
「わかりました。私も石油が掘られているのを実際に見たことはないのですが、地下に埋まっているらしいです」
「確か南の方の国の地下から臭い液体が出てきたって言う噂を聞いたことがあるわね。もしかしてそれのことかしら」
アスカはジャルジャンが戦争以外の方法で金を稼ぐことには協力しようと思った。新しい技術に気が向けば争いが減るかもしれない。
しかし、すでに時遅かった。
次の朝、ジャルジャンの屋敷から見渡せるルーカス王国の港で火の手が上がっていた。
真っ黒い煙がモクモクと立ち上り、町中のいたるところで争いが起こっていた。
見たこともない大きな帆船が4隻が港の近くの海に停泊しているのが見えた。
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