婚約破棄されて衝動買いしたら異世界にて王子に求愛された

MJ

文字の大きさ
上 下
41 / 71

時遅し

しおりを挟む
ジャルジャンの部屋にアスカが入ると、暗闇の中からジャルジャンの声がした。

「アスカ嬢、敷地内で何か見つけたようね。大体察しはついているわよ」
そう言いながらアスカの前に現れたジャルジャンの目は鋭くアスカをにらむ。

「はい。倉庫を見つけました。中には恐ろしい武器の山とそれから麻薬の原料がありました」
アスカは伏し目がちに本当の事を言う。隠しても無駄だ。

「ふふん。人の敷地内を詮索するとはいい度胸をしているわね」
ジャルジャンはアスカの前に立ち、威圧してくる。

アスカは怖かったが、かろうじて自分の意見を言った。
「たまたま見つけただけです。ジャルジャン様、あんなものでお金儲けをしてはいけません。世界が争いで満たされてしまいます。私がいた世界では戦争の名のもとに大規模な恐ろしい殺戮が行われ、たくさんの犠牲が出ました」

「人は争うものよ。力がすべて。力の勝るものがすべてを手に入れる。私は戦争を利用してお金を得た。そして、そのお金を使ってこの屋敷のように平和な世界を広げていくのよ」

「いけません。その平和は誰かの不幸の上に成り立っています」
アスカの足は少し震えていた。正しいことを言うのにこれほど勇気がいるとは思わなかった。

しかし、ジャルジャンの信念はアスカの意見ごときでは揺るがない。
「私の愛する者以外の奴らが不幸になっても構わないわ。特に北方三国なんてなくなってしまえばいいのよ。私の継父は北方の出身なのよ。私はその男に毎晩毎晩虐待された。その恨みの深さがわかる? 私はあの男だけは許せないわ。あの男にいつか復讐するために生きてきたの」

「その苦しみはよくわかります。しかし、その復讐心がさらに不幸な人たちを作ってしまうのです。怒りを鎮めてください」

「わかったような口をきかないで。あなたに私の気持ちがわかるはずないわ」

アスカはそれ以上何も言えなかった。正論がいつも誰かを説得できるというわけではないし、正しいことがいつも行われるわけではない。ジャルジャンにはジャルジャンなりの正義があるのだ。彼は人一倍の努力で苦しみを乗り越えて人財産築きあげた。彼は、力をつけその力で自分の周りのものに平和を与えようとしている。

誰かを傷つけ、その一方で周りの誰かを愛すことで均衡を保っているのかもしれない。
この屋敷に報われない人々を連れてきて養っているのはそういった気持ちの表れなのだろう。

しかし、そんなやり方で本当の人の心は得られない。それがわかるのでアスカの目にはジャルジャンがますます孤独になっていくような気がした。

ジャルジャンは興奮して一通り言いたいことを言ったから気が収まったのか、少し機嫌を直して言った。

「まあいいわ。どうせ、私は武器や麻薬を売るのもそろそろ止めるつもりだったから。最近は全然儲からなくなってきたのよ。だから新しい稼ぎ方を勉強しなくちゃ。アスカちゃんの言っていた石油エネルギーってのに興味があるの。今日はそれについてもっと詳しく聞かせて」

「わかりました。私も石油が掘られているのを実際に見たことはないのですが、地下に埋まっているらしいです」

「確か南の方の国の地下から臭い液体が出てきたって言う噂を聞いたことがあるわね。もしかしてそれのことかしら」

アスカはジャルジャンが戦争以外の方法で金を稼ぐことには協力しようと思った。新しい技術に気が向けば争いが減るかもしれない。


しかし、すでに時遅かった。

次の朝、ジャルジャンの屋敷から見渡せるルーカス王国の港で火の手が上がっていた。
真っ黒い煙がモクモクと立ち上り、町中のいたるところで争いが起こっていた。
見たこともない大きな帆船が4隻が港の近くの海に停泊しているのが見えた。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...